山本七平botまとめ/文化混交に基づく「二重の基準」がユダヤ民族を滅ぼした/~西欧の「根」から生まれた思想を「オウム」のように口にすることを、なぜわれわれは”進歩”と考えるのか~

山本七平著『存亡の条件ーー日本文化の伝統と変容ーー』/第一章 進歩と停滞/財産をめぐる骨肉の争い/19頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①【財産をめぐる骨肉の争い】彼女のもって来た書類は全部で35通、そしてそれらは、この一女性のプライバシィを明確にさらけ出している。 今日の日本の、隣に住むごく新しい女性のプライバシィでさえ、人びとはこれほど明白には知り得ないであろう。<『存亡の条件』

2013-03-27 03:27:52
山本七平bot @yamamoto7hei

②ババタの父はシメオン、母はミリアム(マリア)で、シメオンは、次章で述べる対ローマ第一次坂乱の末期に、おそらく乱を逃れて、死海南端のナバテア人の領土のマホザに入植し、ここでもしゅろ園を入手した。 最初に出てくるのは、その権利書である。 …(原文省略)…

2013-03-27 03:57:42
山本七平bot @yamamoto7hei

③…ババタは相当のしっかりものであったらしい。 現代人同様その財産の申告は必ずしも正直ではない。 総督に申告した財産と彼女自身の財産目録は、相当に誤差がある。 そして、未亡人になったため、ますます、手に入れたものは絶対に手放すまい、とられまい、といった姿勢がある。

2013-03-27 04:27:53
山本七平bot @yamamoto7hei

④従って訴訟事件はこれだけでなくこのほかにもあるのだが、それは省略しよう。 だが問題はなぜ、結婚と同時に夫が、財産名義を妻に切りかえるのが常だったかという点にある。 これがおそらく、昔も今も変わらぬ税金対策なのである。

2013-03-27 04:57:40
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤ただそれは、妻の名義にして相続税を軽減するといった簡単なことではなかった。 おそらく持参金の段階から、何やら操作されているらしく、ババタの場合にも、明らかに架空の授受と思われる書類がある。

2013-03-27 05:27:50
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥だがこれを完全に説明するには、ローマの税法から説明しなければならないので省略するが、簡単にいえば 「不動産を購入すると所得があることがばれて税務署に追究されて困るから、売買双方で取引価格その他を操作しましょう」 と現代人が言うのと似た関係が、結婚契約にあったわけである。

2013-03-27 05:57:40
山本七平bot @yamamoto7hei

①…以上述べて来たような諸記録を読んでいると、私は非常に奇妙な錯覚を抱くことがある。 これらは、約二千年前の、遠い遠い地における庶民の生活記録や小事件の記録ではなくて、現在の日本、もしくは近い将来の日本の姿をそのまま表している記録ではないかと。<『存亡の条件』

2013-03-27 06:27:48
山本七平bot @yamamoto7hei

②【「進歩」という名の幻想】それは日本からかくも遠く、かくも古い音のことに、余りに大きな類似点が見られるからに外ならない。 読者の中にも驚かれた方があるであろう。 「驚き」の理由はほかでもない。

2013-03-27 06:57:41
山本七平bot @yamamoto7hei

③今までこういう庶民史料が日本に紹介された事が皆無であり、皆、ローマ時代というのは現代とは違って極めて″野蛮″な時代であって、奴隷が鞭で追い使われていたといった「偏見」を一方的にもたされ、それにひきかえて現代は極めて進歩した時代であるとの錯覚を抱かされていたにすぎないからである。

2013-03-27 07:27:51
山本七平bot @yamamoto7hei

④その錯覚があるから「目新しい二千年前の骨董」を輸入して、そのデザインの猿まねを「新しい生き方」などと言っているにすぎない。 まして、それを進歩などと言えば、こっけいであろう。

2013-03-27 07:57:41
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤タチャンプリ人の如くになろうと、二千年前のアレクサンドリアの下層民と同じような生活意識をもち…それは別に進歩ではない。 「進歩」「停滞」と人はいう。 もし二千年前と基本的には変わらない事を停滞と呼ぶなら、ヨーロッパぐらい徹底的に停滞している社会はない。

2013-03-27 08:28:02
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥人は彼らが二千年前の新約聖書をごく普通に読んでいることに、奇異を感ずるかもしれない。 これは、現代日本人と自らの古典との関係を考える場合、想像に絶する奇妙な現象といわなければならないであろう。 しかし間違えてはいけない。

2013-03-27 08:57:43
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦新約聖書はお経ではなく、その約半分は、当時の、ごく普通の書簡であり記録であって、書簡・記録という点では今まで記して来た書簡・記録と本質的には差がないのである。

2013-03-27 09:27:55
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧もし人びとが今まで記した書簡等に一種の親近感をもつなら、その状態と基本的には何も変わっていない伝統に生きつづけて来た人びと、そしてそれ以外の世界に生きたことのない人びとが、新約聖書を読みつづけたところで、少しも不思議ではないであろう。 それは進歩でも停滞でもないのである。

2013-03-27 09:57:43
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨氷河時代という、これらよりはるかに古い時代の窟壁画の研究家キューン博士は、発掘の最中に不意に隣の人にいう。 「いまゲーテの言葉を思い出しましたよ。 その言葉は非常に今の状態に適切だと思うのですが―― 人類は進歩するが、人間はいつも同じで変わらない、と。」

2013-03-27 10:28:01
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩こういう言葉は、われわれにとっては少々キザに聞こえる。 しかし、以上の状態が当然である社会においては、ごく自然に出てくる言葉であろう。 従って、彼らが口にする進歩という言葉の意味は、われわれのいう″進歩″と非常に違ったものであろう。

2013-03-27 10:57:42
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪キリスト教もまたマルクス主義も、以上の書簡や神託や契約書が当然とされている社会から生まれて来た。 それを根と考えるなら、彼らの思想はすべて、その生活が根づいているその根から出て来たといえる。

2013-03-27 11:27:56
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫そしてその根は社会的階級とも貧富とも関係なくみな共にもつ「文化」という根であり、現代までつづいている根である―― 彼らは昔と同じような一種の契約社会に、昔と同じような契約を結んで、それで生活しているのだから――。 しかしわれわれの根は、それと同じ根ではない。

2013-03-27 11:57:46
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬その根のないところで、彼らの伝統の一部を、二千年前にやっていたことと等しいことをまねたり、その根の上に生まれた思想を「オウム」のように口にすること、というばかばかしいことを、なぜわれわれは「進歩」と考えるのであろうか。

2013-03-27 12:27:58
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭そしてこの根と「歴史の流れ」という意味不明のお題目とはどういう関係にあるのか。 それを「流れ」と言うならば、起こった事態が日本であれベトナムであれ、進歩には関係ない事態である。

2013-03-27 12:57:43
山本七平bot @yamamoto7hei

⑮一言でいえば、二つの文化様式の表面的混交と深浅二層併存および経済社会情勢の激変による男女の社会的役割の転換等であり、ただその一方をとりあげて、それ以前との変化を示して進歩と呼んでいるにすぎない。

2013-03-27 13:28:00
山本七平bot @yamamoto7hei

⑯ところが、この文化混交に基づく二重の基準は、進歩どころか、時には救いがたい混乱を招来し、そのため一民族を完全に破減させてしまうことさえある。 私は次に、二千年前のユダヤを例として、その図式を示したいと思う。

2013-03-27 13:57:43