モータードリヴン・ブルース #6

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(これまでのあらすじ:ネオサイタマ市街を破壊と殺戮の坩堝にせんと、神出鬼没の悪魔ロボットニンジャ「モーターサスガ」「モータースゴサ」が暴れ狂う。その影には倒産したオムラ・インダストリの暗黒遺伝子の息吹がある!プレゼンテーションとは?クライアントとは?モーターオムラとは!?)

2013-04-20 14:01:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(邪悪なるインダストリアル陰謀に立ち向かうは、管轄外の孤独な力技捜査を突き進むトコシマ・デッカーの命知らず二人組、シンゴとタバタ。そして我らが暗黒非合法探偵、ニンジャを殺すニンジャ、ニンジャスレイヤーだ!デッカーは遺留品解析で!ニンジャスレイヤーは拷問で!正体不明の敵を追う!)

2013-04-20 14:06:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(そしてキーパーソンはもう一人いた……元社長にして、今は失意の労働者生活に身を浸す男……モーティマー・オムラだ!彼は今回の陰謀にどう関係しているのか?川を隔てて虐殺を見守ったあの男の心にはどんな嵐が吹いているのか!オイオイオイ……こいつはきっと一筋縄じゃいかないぜ!)

2013-04-20 14:11:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

雨が降り始めた。重金属を含んだ有害な酸性雨だ。人々は耐汚染服やLED傘で身を守り、憂鬱な夜の街路を行き交う。夜を迎え、節電していたネオン看板が次々に点灯を始める。「山本」「命が沢山」「バー」。トレンチコートとハンチング帽の男は人混みをすり抜け、足早に進む。 1

2013-04-20 14:22:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

男の名はフジキド・ケンジ……即ちニンジャスレイヤーである。日没前にモータースゴサと切り結んだ彼は今、市民の姿に戻り、ある地点を目指していた。「シャッチョサン、キクネー」「ホスト就職しませんか」「カード千円です」声をかけてくる街頭セールスを会釈で回避しながら、彼は路地裏に入る。 2

2013-04-20 14:27:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ビルの壁を這うパイプ群の接合部が蒸気や火花を断続的に発する暗闇を数メートル。うらぶれた「電話OK」の看板が掲げられた地下階段に、フジキドは降りてゆく。 3

2013-04-20 14:32:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

狭い階段の突き当たりにはごく小さな対応窓があり、その隣に錆びついた発券機がある。フジキドはトークンを投入し、三つのプラスチックボタンの一つ「大満足コース」をプッシュした。途端に、シワだらけの手が、ぬうと突き出された。フジキドはその手が掴む鍵とチケットを交換した。「ごゆっくり」 4

2013-04-20 14:38:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

フジキドは通路のカーボンフスマ群を素通りし、奥にある階段を降りた。突き当たりには無骨な鉄扉がある。フジキドはキーを挿し、ダイヤル式12桁暗証番号を入力する。「ユックリ」実際安いマイコ音声がノイズ混じりに歓待する。フジキドは入室した。彼一人が座れるだけの狭い空間。UNIXデッキ。5

2013-04-20 14:42:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

フジキドはトレンチコートを脱がず、そのまま畳に座り、UNIXと向かい合った。バボビボボボビボー。デッキの後ろに詰め込まれた鉄悪魔の内臓めいたファイヤーウォール群が不気味な呼吸で出迎える。ビボバボバボボボ……コワカカカカカ。要塞じみた、馬鹿げた規模のセキュリティ・システムだ。 6

2013-04-20 14:48:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

フジキドは懐からアクセスキーを取り出し、スロットに挿し込む。モニタに「新免」のメーカーロゴが灯り、無数の擬人化されたウサギとカエルが右から左へ繰り返しダッシュするドット画が数秒間展開されたのち、専用のコンソール画面に切り替わった。フジキドはニンジャ的速度でタイピングを開始した。7

2013-04-20 14:54:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

0100010111……フジキドは極小の立方ドージョー空間にアグラする己を見出す。この大満足ルームのコトダマ・イメージだ。窓からは周囲の針山地獄を見渡すことができる。容赦なきセキュリティ・システムの視覚化だ。しばし待つと、別の立方ドージョーが飛来し、この空間にドッキングした。 8

2013-04-20 15:00:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

コトダマ空間体験には未だ慣れず、遥か頭上で自転する不穏な黄金立方体や、どこかから彼を眺めているであろう老婆、狂った神の実在が、カラテのイクサとはまた違った緊張感でフジキドの背筋を冷やす。畏れる時間は無い。彼はドッキングされた部屋へエントリーし、チャブの上の蝋燭に火を灯す。 9

2013-04-20 15:05:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

蝋燭の火は放射状の光の波を放ち、立方ドージョーの周囲の闇を鼓動めいた断続性で照らす。そこに影が浮かんだ。フジキドは蝋燭の火が捉えた存在に……IRCボウガン・ボルトが発する追跡信号に……重大な注意を振り向けた。 10

2013-04-20 15:10:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

しばし前、彼はオムラ・インダストリのニンジャ、スコーチャーを拷問した。インダストリアルニンジャの愛社精神は堅く、容易に情報を吐くことはない。しかし苦痛と恐怖で引き出した情報断片と、パートナーであるヤバイ級ハッカー、ナンシー・リーによるログIC解析を通し、幾つかの情報を得た。11

2013-04-20 15:17:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

即ちそれが、さきのモータースゴサ出現予定ポイントだ。ニンジャスレイヤーはポイント付近で待ち伏せを行い、IRCボウガンをモータースゴサに撃ち込む事に成功した。ひとしきりの破壊行為を行ったのち、ロボットニンジャは川や下水道を利用し姿をくらます。だが今回は"紐付き"だ!12

2013-04-20 15:22:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

蝋燭の火が何度も闇を撫でるたび、浮かび上がった影の輪郭が輝きはじめる。灯台めいて。フジキドの目鼻から血が流れ始める。01000101111……彼はUNIXデッキに突っ伏し、意識を取り戻した。脳に鉛を流し込まれたような感覚だ。モニタには「リンケージ確立」のミンチョ文字。 13

2013-04-20 15:26:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハァーッ……ハァーッ……」ニンジャスレイヤーは備え付けの引き出し自由ティッシュペーパーでおびただしい血を拭う。ナンシーならば……或いはシバカリならば、スマートにやってのけた仕事だろう。だが、時間が惜しかった。いつボウガンの仕掛けが発見されるか、知れたものではない。 14

2013-04-20 15:39:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

あのボウガンのメリットは、物理攻撃で限定的なハッキングを遂行できる点にある。ハッカー能力を持たぬフジキドであっても、若干の力技に出る事が可能だ。ドウグ社の良い仕事だ。サブロ老人はよい弟子を持った。フジキドは携帯端末に追跡プロトコルを読み込ませ、UNIXデータを消去、退出した。15

2013-04-20 16:04:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ヒートリ、コマーキタネー」階段を上がり路地裏に出ると、雨足は相当に強まっている。「ミスージノ、イトニー」大通りの歌謡が雨の音で霞む。フジキドは駆け出す。「イヤーッ!」左右のビル壁を繰り返し蹴り、屋上に飛び出したのは、マフラーめいた布をなびかせる赤黒装束のニンジャだった。16

2013-04-20 16:14:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

雨が降っている。アサガオはカウンターの椅子にかけ、肘をついて窓ガラスの水滴を見ている。開店時間が過ぎたが、客が来るのはもう少し経ってからだ。自動車が水溜りを撥ねる音が時折聴こえる。静かなものだ。 18

2013-04-20 17:04:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

チュンチュン……自動スズメ音声が鳴った。招き猫が壊されたので、差し当たりの代用品を倉庫から出してきたのだ。戸を開け、ノレンを傾けたのは、大柄で目の小さい男だった。モーティマーだ。「やってます?」のアイサツは無い。「あらまあ……」アサガオは瞬きした。 19

2013-04-20 17:15:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何だかいつもボロボロで」アサガオはタオルを持ってモーティマーを迎えた。「こんなところに来て……まだマッポが探してるかも知れないのに」「マッポか……」モーティマーは思い出したように呟いた。彼は頭を拭こうとするアサガオからタオルを受け取り、頭を、顔を強く擦った。 20

2013-04-20 17:22:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「いいんだ」モーティマーは言った。そしてタオルを返す。アサガオはモーティマーをじっと見た。「……ねえ、大丈夫?」「よくわからない」石のような表情である。アサガオは言った「お腹空いてない?」「いや……」「ね」アサガオはモーティマーの手を掴み、強引にカウンターへ案内した。21

2013-04-20 17:31:23
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