漢字「探」ss

「漢字一文字を指定してもらって何かをかく」タグで「探」を指定していただいたので書いたものです。グロ注意。
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てい @orztee

今から順番にツイートします! 漢字一文字「探」を指定していただいて書いたものです。

2013-04-28 22:56:43
てい @orztee

夜の道路に佇む一人の少女がいた。じっと視線を地に向けて、何かを探しているらしい。「何を探しているの」僕が声を掛けると、少女は億劫そうにこちらを向いた。「貴方に言っても無駄」「何故」「貴方はどうせ、すぐに忘れてしまうもの」意味が分からず首を傾げる僕に、少女は哀しげな眼差しを向けた。

2013-04-28 22:57:25
てい @orztee

「まあ良いや。知りたいのなら教えてあげる。私が探しているのは、あなたの脳の一部なの」「僕の脳の……?」僕は無意識のうちに頭を掻こうと右手を上げた。しかし、右手は頭皮には触れず、代わりに何か柔らかいものに触れた。これは何だ。僕の頭はどうなっている? 少女は手鏡を取り出し僕に向けた。

2013-04-28 22:57:57
てい @orztee

そこに映っていたのは、頭の何割かが欠損している男の顔だった。額から上、後頭部の辺りが特に、失われているようだ。僕が右手の指を動かすと、鏡の中の男も同じ仕草をした。「貴方は事故にあったの。私と一緒にいた時にね。私達は命拾いしたけれど、代わりに貴方の脳の一部は失われてしまったの」

2013-04-28 22:58:27
てい @orztee

「それからずっと、私は貴方の脳を探しているの。ずっと、ずっとね」少女は疲れ果てたように、額の汗を手の甲で拭う。その時、僕は気づく。少女もまた、大怪我を負っている。彼女が拭ったものは、汗ではない。「ずっと、って……」「もう10時間は経つかな」僕は絶句した。そして何もかもを理解した。

2013-04-28 22:59:18
てい @orztee

少女は大怪我を負いながら、もう10時間も「探し」続けている。そして僕は、頭の殆どを失って、彼女の傍に転がっているのだ。「貴方、何度も私に同じことを問いかけているの。脳が足りていないから、覚えていられないのね」「でも、それじゃあ僕たちは」「大丈夫。私が貴方の頭を見つけてあげるから」

2013-04-28 23:00:22
てい @orztee

「何を言って……君は何を言っているんだ」僕の頭はもう戻らないし、この人通りの無い道では、助けてもらえる見込みも無い。せめて彼女だけでもここから去れば。しかし少女は、明るく首を振った。「だから大丈夫なの。私が早く貴方の脳を見つけて、治してあげるから。ね?」そうして、彼女は微笑んだ。

2013-04-28 23:00:56
てい @orztee

その時、今まで僕の視界に入っていなかった彼女の身体の左側が見えた。彼女には、左側の頭部が欠けていた。無くなっていた。そこからは静かに静かに、何かの液体が滴り落ちているのだった。「大丈夫、私達は助かるから」明るく笑う少女に、僕は何も言えなくなった。目の前が、急速に暗くなっていった。

2013-04-28 23:01:36
てい @orztee

ここまでですちょん。完!

2013-04-28 23:02:08