黄森botフォロワー200人企画

しかし、ちゃんと寝ているとわかってしまったら、その途端に急に心臓の鼓動が大きく聞こえてきた。どくん、どくん。夜の静かな空間で、俺の鼓動の音だけが馬鹿みたいにうるさくて、この音で先輩が起きてしまうんじゃないかと、心配になる。服の上から心臓をぎゅっと掴んだ。
2013-04-21 01:21:32
「センパイ…?」控えめに声を掛け、最後の確認をする。やはり、返事はない。ベッドに足を乗せるとぎしりと軋んだ音がして、心臓の音が大きくなる。うるさいうるさい、これ以上うるさいと、俺は死んでしまうよ。緊張する鼓動を無視して、先輩のすべすべの頬を指で撫でた。
2013-04-21 01:21:47
つるりと、きれいな頬を撫でる。その頬をめがけて、顔を近づけていく。寝込みを襲うなんて、卑怯だ。そうやって葛藤する思いもあるけれど、それよりも誘惑が強く惹きつける。先輩に近付くといい匂いがして、くらくら、眩暈がする。倒れてしまいそうだ。だけど、倒れるわけにもいかない。
2013-04-21 01:21:59
そして急いで、だけど慎重に、ベッドを揺らさないように先輩から離れた。すべすべふにふにの感触が唇に残る。自分の唇に指をあて、その感触を記憶するように馴染ませる。ああ、なんて甘美で、気持ちいのだろう。そこらの女とするキスより、ずっと気持ちがいい。
2013-04-21 01:22:40
「すみませんっス」小さく謝罪の言葉を口にして、まるで懺悔するようにその頬に口付けた。ふにふに、指で触ったのと同じ、柔らかな感触。先輩ってこういう感触なんだ。知らなかったなぁ。
2013-04-21 01:22:09
自分の唇に触るその指は、情けないくらいに震えていた。ただ頬にキスするだけなのに、俺の意気地なし!だけど、うん。俺にしては、頑張ったっスよ。熱く火照る頬を両手で包んだ。
2013-04-21 01:23:29
「(なんだよ、いつもは全然へたれみたいな感じのくせに、アプローチだってまともにしない癖に、なんだよなんだよ、急に…!!)」
2013-04-21 01:36:07
ぺたり、頬に触れると、黄瀬がキスした部分だけ以上に熱くて、まるで熱でもあるみたいだ。その熱が頭にまで回ってきて、頭がガンガン痛くなる。この頭の痛さは、きっと風邪だ。そうだ、そうに違いない。黄瀬にキスされて動揺してるなんて、そんなこと、全然、全く、絶対ないんだからな!
2013-04-21 01:38:37
(忘れろ、忘れろ)そうだ、風邪をひいただけだ。今日は突然寒かったから、体温調節がうまくてきなくて体調を崩しただけ。それならなおさら、早く寝て、体調を治さないと。すっかり覚めた目を無理矢理閉じて、眠れ眠れと、自分に言い聞かせた。
2013-04-21 01:41:00
必死に眠るように目を閉じていたら、眠気はすぐにやって来てくれた。その眠気に従い、再び眠りについた。(きっと全部、夢の話だ)
2013-04-21 01:42:25
「ふぅ、これで、お返事は済んだっスかね?」「おい、だから昨日俺が寝てから何があったんだ?なんか朝起きたら変な夢を見た気がしたんだけどさ」「ゆ、夢ってどんなのっスか?」「………言わないけど」「な、なんスかそれ!?」
2013-04-21 21:27:13
「(黄瀬にキスされた夢なんて言えないし…まぁ、これ以上はいいや)」「えー先輩、気になるっスー」「あーはいはい。お座りお座り」「俺は犬じゃないっスってば!」
2013-04-21 21:28:23
黄瀬はチャラいけれど、わりと常識人で、根本はまともな人間だと思っていたのだけれど。「ねぇ森山先輩!」「なんだ、黄瀬?」「あの、突然なんスけど、俺とハニカミデートしてくれねーっスか!?」「…はぁ?」突然の黄瀬のお願いは、俺の常識の範囲を突き抜けていた。
2013-05-04 09:00:04
「なんだよ、ハニカミデートって」「知らないんスか?昔テレビでやってた、男女カップルがデートをさせられて、そのときにいろいろな指令があって、それに沿ってデートする企画っスよ!」「いや、それは知ってるけど!それをなんで、俺と一緒にしてくれ、なんていうんだよ」「それはっスねー」
2013-05-04 09:30:07
「ま、話せば長くなるんスけど」「じゃあ手短に50字以内にまとめろ」「短ッ!えっと、つまり、雑誌の企画で、今度女の子とハニカミデートするんスけど、その練習をさせてほしいんス!」「なんだそれ…っていうか、ハニカミデートに練習とかいらないだろ。それに、そういうのは女子とやれよ」
2013-05-04 10:00:14
「女子じゃダメっスよー、変な噂が立ったり、マジにされちゃったら困るっスもん」「…ナチュラルに自慢するなよ」「あででで、す、スマセンっス」「そりゃ、そういう事情は分かるけど、さぁ…」「それなら、ね!」必死な様子で黄瀬は頼みこむけれど。そもそも練習なんて必要なのか怪しい。
2013-05-04 10:30:02
しかし、俺とデートをすることで何かメリットがあるとは思えない。それでも黄瀬がどうしても俺とデートをしたいと言うのなら、それに付き合ってやるのも悪くないのかもしれない。女子にモテる秘訣を黄瀬から学べるかも。「ふーん、まぁいいよ。お前に付き合ってやる」「マジスか!?」
2013-05-04 11:00:10
「やったー、助かるっス!じゃあ、デートは明日午後1時から、駅前の噴水前で待ち合わせっス」「ああ、わかった」黄瀬は心底嬉しそうに、そして助かったという風に笑うから、本当に練習が必要だったのかもしれないと思えてきた。「あ、そーだ先輩!明日はマジの恋人同士のつもりで、頼むっスよ!」
2013-05-04 11:30:07
「はぁ!?ちょ、黄瀬それどういう、」しかし、黄瀬は俺が問うのも聞かずに、颯爽と体育館を出ていく。俺はひとり体育館に残されて立ち尽くした。本当の恋人のつもりで、とは。どういう意味だろう。了解してしまってから言っても遅いが、なんだか嫌な予感がする。「…俺も帰るか」
2013-05-04 12:00:17
しかし、今ここでひとり考えても詮無いこと。ボールとゴールを片付け、体育館を後にして着替えて帰路に着く。明日は何も問題が起きずに済みますように。寝る直前の祈りは神に届いたか定かではない。
2013-05-04 12:30:07