First Love

以前にtwnovelで連載してた小説のまとめです。 ブラッディーずきんちゃんの恋のお話。
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咲良 潤 @sakura77_sosaku

森で男の子が迷っていた。すでに狼と遊んだ後だったから出口まで無事に案内してあげた。後日お礼にとピンクの飴を持ってきた。その時から彼の事が忘れられない。私の醜悪な心は簡単にが変わるはずがない。でも認めるしかないだろう。私は紅い靴を履いて立ち上がった。@1_dark #twnovel

2012-12-06 23:28:47
咲良 潤 @sakura77_sosaku

新鮮な鹿の肉が手に入ったから。と言うのは単なる口実。ただ彼にもう一度逢いたかった。私にとって物とは奪うもの。誰かに貰うことなんて無かったから。彼に逢いにいくだけだから斧は置いていく。木漏れ日に照らされる森。斧も持たずに森を歩くことがこんなに怖いとは思わなかった。#twnovel

2012-12-07 22:38:06
咲良 潤 @sakura77_sosaku

木々が風で揺れる音さえ怖く感じる。早足で歩く私を狼たちが窺っている。脇目も振らずに森を抜け、彼の家にたどり着いた。彼の顔を見ただけで安心し、でもドキドキが止まらない。きっとこれは初めての感情。だって、他人と一緒にいたいと思ったのはこれが初めてだから。#twnovel

2012-12-07 22:39:12
咲良 潤 @sakura77_sosaku

「どうしたの?そんなに息を切らせて」と彼が言う。「森で狼に会ってしまって」「大丈夫だったの?とりあえず中に入って。まぁ、無事で良かった。それで僕に何か用だったの?」「あの…新鮮な鹿の肉が手に入ったんです。この前のお礼がしたくて」「それなら僕が取りに行ったのに」#twnovel

2012-12-08 22:47:38
咲良 潤 @sakura77_sosaku

彼が水をくれた。「ありがとうございます」と受け取り、一口飲む。「ちょうどパンを焼いていたんだ。食べて行ってよ」「いいんですか?」「遠慮しないで」と言って彼は焼きたてのパンを切って私にくれた。ヤギの乳で作ったバターにオレンジのジャム。初めての独りじゃない食卓。#twnovel

2012-12-08 22:49:28
咲良 潤 @sakura77_sosaku

「せっかくだからこのままお昼もたべちゃおうか」と言ったのは彼。私はすぐに帰るつもりだった。家にだって上がるつもりじゃなかったのに。「君が持ってきてくれた鹿の肉を焼こう」という言葉に、私は少し躊躇してから頷いた。私はこれを一生後悔することになる。#twnovel

2012-12-09 22:43:28
咲良 潤 @sakura77_sosaku

「暖炉の火を見てくるから肉を切ってくれる?」私は咄嗟に首を横に振った。「いえ、あの、私…ナイフが…怖くって」「あ、そうなの?分かった。いいよ。じゃあ井戸で冷やしてる野菜を持ってきてくれる?重いけど大丈夫?」「はい。大丈夫です」そう言って私は家を出て井戸に向かった。#twnovel

2012-12-09 22:47:37
咲良 潤 @sakura77_sosaku

彼が用意してくれたのは鹿の肉を使ったシチュー。井戸で冷やしたレタスとトマトのサラダ。そして焼きたてのパン。彼と向かい合って食べる。今まで食事とは栄養を摂取するためだけの時間だと思ってた。こんなに楽しく倖せな時間だとは思わなかった。これは彼と一緒だからだろうか。#twnovel

2012-12-10 22:34:23
咲良 潤 @sakura77_sosaku

「美味しい食事をありがとうございました」「君も、来てくれてありがとう。これ残ったパン。中に入ってるバターの入れ物とバターナイフは返さなくていいからね」「そんな。いいんですか?」「いいよ」「そうですか。それじゃあ」「帰り大丈夫?ちょっと雲行きが怪しくなってきたね」#twnovel

2012-12-10 22:39:41
咲良 潤 @sakura77_sosaku

「ちょっと待ってて」と言って家の奥に入っていった彼。持ってきたのは瓶に入ったピンクの飴と、そして猟銃。「何ですか…それ」「送って行くよ。狼に会ったんでしょ?」「だ、大丈夫です。走って変えればすぐですから」「だーめ。僕が安心したいから」そうして彼と森を歩き始めた。#twnovel

2012-12-11 22:32:51
咲良 潤 @sakura77_sosaku

夕方前の穏やかな時間。空気がゆっくりと夜の冷たさに変わっていく。彼は周りに気を配りながら、私を不安にさせないよう明るく振る舞っている。誰かに守られるというのはとても心地がいい。が、同時に焦りもある。淡黒い雲が空に広がり、雨が降りそうだった。私と彼は少し早足になる。#twnovel

2012-12-11 22:35:09
咲良 潤 @sakura77_sosaku

じきに雨が降ってきた。雨はすぐに本降りとなる。森は夜のように暗い。彼が前を走り、私はパンが濡れないように庇いながら、でもその背中を見失わないよう必至に追いかけた。この森は私の庭みたいなもの。はぐれても家には帰れるし、その方が早く着く。でも今は彼と離れたくなかった。#twnovel

2012-12-12 22:33:51
咲良 潤 @sakura77_sosaku

彼が大きな木の下で雨宿りをしようという。彼はタオルで私を拭いてくれる。私はされるがまま。鼓動が早くなる。女の子は恋というものをするらしいが、それはもしかしたらこの気持ちに似ているのかもしれない。目と目が合う。もう彼しか見えなかった。周りの状況に気付けなかった。#twnovel

2012-12-12 22:37:03
咲良 潤 @sakura77_sosaku

彼に頭を拭いてもらっている緊張感と、雨のせいで臭いが流れてこなかったことが重なって気づくのが遅れてしまった。私たちは狼の群れに囲まれていた。全部で3匹、いや、4匹か。彼も私の反応に気付いて銃を持ち直す。だが奴らの目や息遣いを見れば分かる。狙いは私だ。#twnovel

2012-12-13 22:37:19
咲良 潤 @sakura77_sosaku

いつもの斧を持っていない弱みにつけ込まれてしまったのだろうか。果たして奴らはそこまで計算しているか。ともあれ彼が猟銃を持っているからか、一気には襲ってこない。狼は誰かを囮にしたり、玉砕覚悟で向かってきたりはしない。でも彼も猟銃を撃った事がないのは仕草から分かる。#twnovel

2012-12-13 22:39:13
咲良 潤 @sakura77_sosaku

でも彼は私を守るため私の前に出る。「上に向かって撃つよ。ビックリしないで」と言って彼が威嚇のために猟銃を撃つ。でも狼は動じない。いつも私を相手にしているせいか、狼たちも強くなっている。きっとこれは私への報いだ。私は森の安全を守る名目で多くの命を奪ってきた。#twnovel

2012-12-14 22:32:40
咲良 潤 @sakura77_sosaku

身の丈ほどの斧を振って、森から出てきた狼を狩っていた。時には二本の鉈で追いかけることもあった。周りの人たちは、私のおかげで森を安心して歩けると感謝していたが、私はただ単純に狼たちを狩ることを楽しんでいた。その報いを受ける時が来た。でも彼を巻き込むわけにはいかない。#twnovel

2012-12-14 22:35:49
咲良 潤 @sakura77_sosaku

私は走り出した。狼たちの狙いは私。なら私が走れば狼たちは私を追ってくるはず。家まではまだあるけど、斧があれば狼たちを追い払える。でもその姿を彼に見せる訳にはいかない。この後に及んで、私はまだ彼との日々を続けたいと願っている。我ながら思考を疑う変わり様だ。#twnovel

2012-12-15 22:33:34
咲良 潤 @sakura77_sosaku

雨の中を全力で走った。狼も私を追ってくる。これで彼は守られる。だが…。ダ━ン!いきなり銃声が響いた。リロードする音と、薬莢が岩に当たって跳ね返る音が森に響く。振り返ると狼が1匹倒れていた。「狼ども。こっちに来い!」彼が猟銃を構え、狼たちを呼んでいる。最悪の展開だ。#twnovel

2012-12-15 22:36:50
咲良 潤 @sakura77_sosaku

「さあ、今のうちに逃げて!」出来るはずがない。いくら猟銃を持っていても、雨が降る暗い森で3匹の狼を相手にすることは出来ない。狼たちも、仲間を撃った彼を敵とみなした。彼ににじり寄っていく狼。猟銃を撃つ彼。でも暗い中で不慣れな銃を狼に命中させることは出来ない。#twnovel

2012-12-16 22:34:05
咲良 潤 @sakura77_sosaku

さっきは私を追いかけるため直線的に走っていたから狙えたが、今は弾を避けるため、蛇行している。猟師でも当てるのは困難だ。このままだと彼が殺されてしまう。でも武器を持たない私は何も出来ない。私は、無力だ。そして狼が彼に襲いかかる。#twnovel

2012-12-16 22:35:35
咲良 潤 @sakura77_sosaku

しかし狼の牙が彼に届くことはなかった。その前に私がいたから。私は左手で狼の首をつかみ、右手で持っていたバターナイフを喉元に突き刺した。後ろの彼はどうにか絞り出した声で「キミなのかい」と聞いてきた。私は顔を見られたくなかったため、パンを包んでいた白い布を被っていた。#twnovel

2012-12-17 22:33:49
咲良 潤 @sakura77_sosaku

ナイフを狼の喉元から引き抜く。吹き出した血が私を紅く染めた。左手を離すと狼は私の足元に倒れ込んだ。ナイフを持った私に残りの2匹はたじろぐ。後ろの彼は怯えているだろうか。この姿だけは見せたくなかった。「もう、帰ってください」雨音でかき消されそうな声で私はそう言った。#twnovel

2012-12-17 22:37:03
咲良 潤 @sakura77_sosaku

残った狼は逃げ帰ってしまった。私は追いかけない。でももう彼の顔を見ることは出来なかった。いつの間にか雨は止み、静寂が耳にうるさかった。私は黙ってパンと飴を拾い彼の元を去る。“さよなら”は言わなかった。“さよなら”は信頼している者同士で交わす言葉だから。#twnovel

2012-12-18 22:33:39
咲良 潤 @sakura77_sosaku

私が歩き出しても彼は立ち上がらない。でもかすかに身動きをしているのは分かる。しかし私は鉛のように重い足を止めることはなかった。ただ一言「待って」という声が聞こえた気がしたが、それはきっと草木が揺れる音だろう。もう逢うことはない。#twnovel

2012-12-18 22:37:53