モーサイダー!~Motorcycle Diary~Episode of Spring V~
- IngaSakimori
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五月。緑が萌え盛り、風と空気に暖かさが宿る季節。 冬の気配はいよいよ夜の世界からも追い払われて、やがて訪れる夏の影すらも感じる月。 #mor_cy_dar
2013-05-08 11:41:02「おにいちゃん、起きてよ。ね、お弁当忘れてたよ~」 「ん……?」 三鳥栖志智(みとす しち)は二時限目が終わった後のうたた寝から、心地よい呼びかけによって引き戻される。 #mor_cy_dar
2013-05-08 11:41:40目を開ければ、そこには程よく伸びた栗色の髪をアップ気味にうしろでまとめた妹の姿がある。 その目元は少しだけ困ったように丸まり、小さな唇と反比例するようにたっぷりと育った胸元が存在を主張していた。 #mor_cy_dar
2013-05-08 11:43:01「なんだ、千歳(ちとせ)か。まだ朝じゃないだろう……おやすみ」 「もう学校にいるよ~。 おにいちゃん、今日、先に出ていったのはいいけど、お弁当忘れていったでしょ。だから届けに来たの」 #mor_cy_dar
2013-05-08 11:43:27「……そういえば、そんなことがあったような気が……するな」 片足を夢の世界へ突っ込んだまま、志智(しち)は自分の置かれた状況を整理する。 #mor_cy_dar
2013-05-08 11:44:00ああ、そうだ。昨夜はいつものようにバイク便のアルバイトがあって、まったくの寝不足で。 それでいて、今朝はくだらない日直の野暮用を仰せつかり、30分ほど早く学校へ来て、花への水やりや日誌の記入といった雑事をこなさなければならなかったのだ。 #mor_cy_dar
2013-05-08 11:44:46(朝早いって言い忘れてたから、千歳のやつが慌てていたっけな……) それでいて文句の一つも言わずに、弁当を包んでくれた自らの妹を好ましく思いつつ、家を出たことだけはよく覚えている。 #mor_cy_dar
2013-05-08 11:45:10結果として、その証というべきものを忘れてきたわけだから、意味もないというわけだが。 #mor_cy_dar
2013-05-08 11:45:23「いや━━ああ、思い出した。目が覚めたよ。悪かったな、千歳」 「お、おにいちゃん……こんなところで頭なでられたら、その……は、恥ずかしいよぉ……」 #mor_cy_dar
2013-05-08 11:45:54「ん? 何がだ?」 ぽーっと頬を染める千歳。志智は怪訝そうな顔をしつつ、ほっぺたぐにぐにもほしいのだろうかと勘違いしてしまう。 #mor_cy_dar
2013-05-08 11:46:27「まあ、なんにせよありがとうな」 「うんっ。でも、おにいちゃん、すごく眠そうだったけど、疲れてない? 保健室いかなくていい?」 #mor_cy_dar
2013-05-08 11:46:54「ただの睡眠不足くらい、なんてことないだろ……教室の中って、どうも眠くなるんだよな」 窓に向けて視線を巡らせると、そこは羨望と冷やかしに眼差しでこちらを見るクラスメイト━━はどうでもよいことであり、見事に晴れ渡った青い空があった。 #mor_cy_dar
2013-05-08 11:47:34「今日は外で食べたいな……屋上でもいくか」 「あ、お昼屋上で食べるの? やたーっ」 「……喜ぶようなことか?」 #mor_cy_dar
2013-05-08 11:47:56「だ、だってね、おにいちゃんいつも教室で食べてるよね。亞璃須(ありす)さんとかと一緒にね」 「まあ……そうだけどさ」 なぜか目をきらきらさせる千歳に、志智は首をかしげながらそう言った。 #mor_cy_dar
2013-05-08 11:48:13「ね、ね、おにいちゃん。わたしも屋上いっていい?」 「好きにしていいぞ」 「わ~い!! おにいちゃん、ありがとう! それじゃあ、お昼にね~!」 「……変な奴だな……」 ぱたぱたと上履きの音を立てながら教室から出て行く千歳を見送りつつ、志智は独りごちる。 #mor_cy_dar
2013-05-08 11:49:09「別に昼飯くらい、いつでも一緒に食えるだろうにな……」 「━━わたくしにはむしろ、妹の気持ちがわからない鈍感なあなたの方が滑稽ですけれどね」 「……ふーん?」 #mor_cy_dar
2013-05-08 11:50:40志智の視線は三時限目開始まで二分の位置をさしている時計に。 そして、彼の前に立った日原院亞璃須(にっぱらいん ありす)の胸元は六時三十分を示している。 #mor_cy_dar
2013-05-08 11:50:55「ふん……ああ、なるほど……うーむ」 「? なんですの、わたくしと時計を見比べて」 「千歳のあとだと……これは……ひどいな」 #mor_cy_dar
2013-05-08 11:51:50「は? なにか━━は? とても━━は? すごく━━は? 失礼なことが聞こえた気がしましたけど━━は? も・う・いっ・ぺ・ん━━は? 言ってもらえますか、志智?」 「わかったわかった。俺が悪かったから、睨むな。顔を近づけるな」 #mor_cy_dar
2013-05-08 11:52:12右目には海より深い青。左目に闇ほどに濃い黒を宿した、亞璃須(ありす)の不満顔が間近にある。 こうして半眼になっていてもなお、実に愛くるしい顔立ちをしていると言ってよいだろう。 彼女に睨み付けられて「ご褒美です」と言う者すらいるかもしれない。 #mor_cy_dar
2013-05-08 11:53:30だが、普通の高校にいれば、言い寄る男に事欠かないであろう彼女の周りにそれらしい影がないのも、そして同性から嫉妬混じりの中傷にさらされないのも━━ #mor_cy_dar
2013-05-08 11:53:50「そもそも、あなたはわたくしの運命の相手なんですから、もう少し配慮があって然るべきです」 「またそれか。転入初日にやらかしてから、ブレないよな……お前は」 #mor_cy_dar
2013-05-08 11:54:23「志智(しち)。あなたには義務があります。 わたくしを引き立て、わたくしの良い点を褒めたたえ、足りない点には目をつむる義務が」 「つまり、お前の胸が視界に入ったら俺は自動的に前が見えなくなるわけか。 ろくに会話もできないな。あっち見てよ」 #mor_cy_dar
2013-05-08 11:54:53「むっ、胸が足りないとは決まったわけではないでしょう!! あなたの妹さんが早熟すぎるだけです!」 「そりゃまあ、千歳のやつは育ちがいいけどな……」 #mor_cy_dar
2013-05-08 11:55:13