#twnovel 『無惨歳時記―春夏禾―』

花のやうな少年乃慾望の歳時記 『無惨歳時記―火冬―』 http://togetter.com/li/574314
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♍≠様♍ @XavierCohen

ちょうちょう ちょうちょう 菜の葉にとまれ 菜の葉に飽いたら ウムと声がして、真白の翅に紅く飛沫が散る。遍路の行人が野伏に斬られたのだ。白衣の懐の、札狭の、頭陀袋のと意地汚く漁る野伏の息遣いがシンとした山路に少々喧しい。 紅白斑の蝶々は 桜の花の 花から花へ #twnovel

2013-03-29 12:05:50
♍≠様♍ @XavierCohen

…何の某と素ッ気なく名乗つたぎり、又黙黙とずんだ餅を喰つてゐる。それにしても旨さうで堪らぬ。―斬るか。知らずと刀柄に掛けた右掌に、じつとり油汗が滲む。多寡が餅ひとつの為に、俺は人を斬るのか。風に揺れる躑躅にちひさな猫が戯れ付いて、薄紅の花弁を可惜散らせて終つた。 #twnovel

2013-04-30 10:52:30
♍≠様♍ @XavierCohen

成程嘗ては奢侈な造りで在つたのだらう、然し困窮に手入れも行き届かぬのが重く寂れた空気を沈殿させてゐるばかり。斯くの有様で御亭主が調度がどうの掛軸がこうのと得意を聞かせるのは、哀れを過ぎて最早滑稽としか思へぬ。大振りで色も艶やかなのが、萎れた牡丹は一層見窄らしい。 #twnovel

2013-05-08 14:50:42
♍≠様♍ @XavierCohen

澗谷の鶯舌声老いてと痩せた喉を絞れば、爪弾く弦にさわさわと花房啜り泣く。亦拾い物に転じて撥を叩けば、勲しの兵どもの如くに花房湧き立つ。成程上手の者よ、琵琶一丁で花を自在に踊らせよると感心すれば、何怖ろしきは藤の業の深さよ、脱俗の法師をああまで狂はせよる等と云ふ。 #twnovel

2013-05-09 14:49:26
♍≠様♍ @XavierCohen

蔓棘に絡まる鴉。夫婦で在らうもう一羽が、案ずるやうに電信柱の上からぢつと見詰めてゐる。鴉は用心深い。棘の痛さを佳く知つてゐる。連れ合ひの羽毛抜落ち、臓物腐落ちた虚ろから白き骨格の覗く様を、黒い瞳に為す術も無く映してゐる。枯れ萎んだ花塊から貞節が甘酸つぱく薫つた。 #twnovel

2013-05-15 14:43:23
♍≠様♍ @XavierCohen

春夜躑躅の葉の上で蝸牛は生温かな雨に打たれ、潤けて膨らみ破れる螺旋から、青い月灯と混濁した鉛色の血塊がどろりと零れ落ちる。降り続く雨に洗われ白磁の膚を晒すのは、丸丸と太つた地精の嬰児。産声に気付いた狡猾な鴉が夜明けを待ってゐる。未だ翠の双眸さへ開かぬと言ふのに。 #twnovel

2013-03-04 16:26:40
♍≠様♍ @XavierCohen

御地頭様の屋敷の離れ、漆喰分厚き土蔵には、物狂へる姫君が閉じ籠められてゐると云ふ。下男女中の腹を割き臓腑生血を啜つたのだとか。祟りで鬼畜の如き異貌に成り果てたのだとか。烈しい雨の夜に落雷が在つて閂が壊れた。重い土戸がすうと開き、紫陽花の百の目がかつと見開かれる。 #twnovel

2013-05-28 11:00:23
♍≠様♍ @XavierCohen

雲厚く月隠し足元覚束ぬ暗闇を、陸尺提灯も掲げずせかせかと、御城下町へと急ぐやう。漆の黒の駕籠乗物、引戸の格子に蛍が留る。仄明かりに透けて見えるは幼いむすめ、未だ髪結ひさへも済まさぬものの、似会はぬ白粉に紅引いて、僅かな金子の身の代に、売られゆく様子の痛ましさよ。 #twnovel

2013-05-29 14:53:25
♍≠様♍ @XavierCohen

雨上がりのまくなぎは尚更非道いですわね。何をあんなにトチ狂つてゐるのかしら。貴方も貴方ですよ。処構はず叩き潰して御仕舞ひになるものだから、お洗濯が大変で遣り切れませんことよ。他愛も無ひ羽虫の阿鼻叫喚の痕跡を擦り落とし乍ら、お前は何だか嬉しさうで在つた。(山鬼へ) #twnovel

2013-05-31 12:03:53
♍≠様♍ @XavierCohen

まくなぎの阿鼻叫喚をふりかぶる 西東三鬼

2013-05-31 12:04:12
♍≠様♍ @XavierCohen

梅雨の晴れ間が3日も続いた暑い午後、枯れ木の根っこを掘り返すと、ほくほくに蒸し上がった蝉の幼虫が沢山獲れるのだそうです。これは田植えを終えた村人にとって何よりの御馳走なのですが、余りの美味しさに我を忘れた村人達は手に手に松明も持って高い山の頂を目指し、二度と帰って来ませんでした。

2013-06-04 12:40:47
♍≠様♍ @XavierCohen

磔の処女が人夫どもに曳かれてゆく。初めて見る儀式に昂奮し頬を紅潮させた女学生達がざわざわ賑やかに磔柱の後を追う。行進は山頂に達し人夫どもがえいやと柱を突き立てる。神官は祈祷する。執行人が腹を裂き処女の血が山を濡らせる。女学生達が押し黙った。或いは啜り泣いていた。 #twnovel

2013-06-13 15:17:02
♍≠様♍ @XavierCohen

沈黙が雲と為って参列者を覆う。そうやって四半刻は過ぎた。ぽつりと水滴が額を濡らす。ほうと安堵の溜息が拡がる。ざっと雨音が其れを搔き消す。女学生達は唄い始めた。髪が乱れシュミーズが透けるのにも頓着せず天に手を翳し駆け回った。供物として育成される女学生達は何時もの如くに快活で在った。

2013-06-13 15:36:23
♍≠様♍ @XavierCohen

ああ暑い いや寒い やれ塩辛い いや酸っぱい 酒飲ませろの 蜜舐めさせろの 裏庭では夜がな夜ッぴきの不平不満と嘆願哀訴 蒸せる空気がいや増しに重苦しい こいつぁ堪らぬと障子開け放ち 怒気に任せて一喝すれば 厭らしい赤紫の皺くちゃ顔どもが にやりと笑うよ梅筵の上 #twnovel

2013-06-10 15:18:14
♍≠様♍ @XavierCohen

ざぱ、と手拭ひを流水より引揚げると藍地に白くおんなの裸身が浮かんでゐる。肌蹴た襦袢の合せから零れる乳房の柔らかさまでもが此処には定着されてゐた。嗚呼其れに幽かに見開かれたおんなの目の艶かしさよ。俺は出来映へに満足し乍ら別のおんなを染桶に沈める。苦し気に藻掻くので青く飛沫が立つた。

2013-06-11 15:34:17
♍≠様♍ @XavierCohen

ささと藁を掻き除ける。「待て、見逃して呉れ」「決まり事ゆへさうもゆかぬ」「今日迄俺は身を削られるやうな思ひで」「空手で帰れば儂は身を削られるでは済まぬ。事は御上の面子にも関わるよつてな」「後生だから水に流して」「否や、者ども運び出せい」―氷塊ひやりと汗を垂れる。 #twnovel

2013-06-17 15:06:01
♍≠様♍ @XavierCohen

大水に拉げた奥座敷、子の孫のが大慌てで駆け付けたが、ばらばら紛糾つた瓦礫の下で、大婆様は真白い泡に包まれてすやすや眠つて居つた。三日の後に目覚めたもののすつかり呆気て仕舞つた様子、話し掛けても唯うんうんと頷くばかりであつたが、蒸し蒸し暑い月夜の晩に、けろろと啼いて河へ帰つたとさ。

2013-06-18 13:33:41
♍≠様♍ @XavierCohen

夏至の晩なら幽霊たちも大忙し うはなりねたみの前妻さん 捨てられちゃった子供達 背中を刺されたお爺さん 忙しいったらないのですが 怨み辛みとはそういふもの 今宵女子寮にもぴりぴりした気が漲つています でも山田先輩が帰ってきたのは鳥渡意外でした 「ねえ、この学園の真実を知りたい?」

2013-06-21 13:32:37
♍≠様♍ @XavierCohen

黒い髪 黒い瞳の乙女達 白装束で 手を繋いで 白い砂浜から 靉靆たる海へ 黒い髪 黒い瞳の乙女達が後に続く 白装束で 手を繋いで 白い砂浜から 靉靆たる海へ 乙女に満たされて海は蒼褪める 身震いをして発火する 紅が拡がってゆく 生気に溢れて陽が昇る 私は乙女達の笑い声を聞く

2013-06-21 18:07:21
♍≠様♍ @XavierCohen

添付されたファイルを開くと黒い染みがうねうねと這い廻っている。「何じゃこりゃ?」と僕が舌打ちすると、背後から覗き込んでいた山崎君がさっとディスプレイをワイプする。指先には銀の虫。「そいつはバグなのかい?」山崎君は親指と人差し指でぷつりと潰して莞爾笑った。「只の紙魚にて御座居ます」

2013-06-27 13:16:36
♍≠様♍ @XavierCohen

斑の猫がにゃあと泣き、すたすた坂を上つてゆく。時折私を振り返り付いて来いよと云ふ目で見る。すたんと腰を下ろしたその先に直哉の邸はあつた。開放された縁側から初夏の瀬戸内海が拡がる。心の闇と向き合うには明る過ぎる庭。猫は伸びをしてごろりと横に為つた。「私は今、実にいい気持ちなのだよ」

2013-06-27 15:17:16
♍≠様♍ @XavierCohen

生徒達に短冊を書かせた。勿論、星に願い事をする様な年頃は過ぎてゐたけれど、あの日は特別だつた。背伸びをして随分と勇ましい事を書く子がゐた。ひょろっと拙い字で「帰りたい」と書いた子がゐた。矢張り子供なのだなと思った。学徒動員の在った夏、遠い南の島で少年は河を渡る。 #twnovel

2013-07-05 13:01:01
♍≠様♍ @XavierCohen

わたすげの花がひとつ あれは2組の相澤くん わたすげの花がふたつ あれは牧村さんの御夫婦 わたすげの花がいつつ あれは酷い事故でした 深い眠りの夜半過ぎ 焔が褥となりました わたすげの花がたくさん たくさんのわたすげの花が風に揺れていました 僕の村は戦場だったよ #twnovel

2013-07-04 11:53:23
♍≠様♍ @XavierCohen

「蝶が見へるのです。目の端に、或ひは夢の隅隅に。影のやうにでは御座居ません。カンヴァスやフイルムがさつくり切り欠かれたやうな、そんな蝶が見へるのです。其処には何かが在つた、誰かが居た筈なのです。そいつがトンと思ひ出せませぬ」顔を埋める男の掌からはらはらと黒い翅。 #twnovel

2013-07-09 17:14:42
♍≠様♍ @XavierCohen

廻り灯篭を騎士は駆ける。槍を一突き、夷狄が斃れる。廻り灯篭を騎士は駆ける。槍を一突き、夷狄が斃れる。其処へ蝶、烏蝶。灯影がゆらゆら揺らぐ。騎士はふらふら蹌く。槍を一突き、騎士が斃れる。サブジェクトを喪つて廻り灯篭は闇に沈み、からんと止まる。焦げた臭ひが鼻を突く。 #twnovel

2013-07-09 17:18:46