発端はここ?
「そういえば、さっき皆で話してたんですけど。裁判官殿って、好きな童話とかあります?」「……そうですね、……小人の靴屋というのは、羨ましいとは思いますね」「……」「……」
2013-05-09 03:24:02はじまりはじまり
ユーリさんはまいにちのおしごとでとてもつかれていました。とてもつかれていてとてもねむかったものですから、すわったままでついうとうとといねむりをしてしまいました。そうしてユーリさんがすっかりゆめをみはじめたころでした。とつぜん、つくえのひきだしががたがたとおとをたてました。
2013-05-09 06:35:11ふしぎなことに、ひきだしはかってにひらいてしまいました。そしてなかからちいさなひとが、ひとり、ふたり、さんにんとでてきました。そのさんにんのこびとはそれぞれ、ワイルドタイガー、かぶらぎこてつ、ルナティックにそっくりなすがたをしていました。「よし、くつをつくろう!」
2013-05-09 06:39:13こてつにそっくりなこびとはいいました。「さいばんかんさんのくつってサイズいくつだよ?」ワイルドタイガーにそっくりなこびとがいいました。「くつはいいからしょるいをだな」ルナティックにそっくりなこびとがいいました。「とにかくおっきくしたらいいんじゃね?」
2013-05-09 06:41:24「あ、このかみちょうどいいな」こてつこびととワイルドタイガーこびとはさっそくつくえのうえのかみをてにもちました。「おまえはそっちもっててくれ」「わかった」そしてかみをおりはじめたふたりに、ルナティックこびとはあわててさけびました。「やめろ、しょるいでくつをつくるな!」
2013-05-09 06:44:59ルナティックこびとはふたりをちからづくでもとめようとしましたが、おもいきりはしったものですから、おいてあったペンにつまづいてころんでしまいました。「あっ」「あ」「がっ」みっつ、こえがあがりました。ルナティックこびとがこうちゃのはいっていたカップのなかにとびこんでしまったからです。
2013-05-09 06:48:40「おい、だいじょうぶか?」「きぜつしてる」「ぬるくてよかったな」こうちゃのなかできぜつしてしまったルナティックこびとをみて、こてつこびととワイルドタイガーこびとはかおをみあわせました。「さんにんでやるつもりだったのになあ」そういってふたりはざんねんそうにためいきをつきました。
2013-05-09 06:51:03でも、こうなったらしかたがありません。こてつこびととワイルドタイガーこびとは、ふたりでくつをつくりはじめました。もちろんさっきみつけたかみをつかってです。かみはいっぱいあったので、おおきなくつでもちゃんとつくれそうでした。「ワイルドにつくるぜ!」うんしょ、うんしょ。よっこらしょ。
2013-05-09 06:52:58あさひがのぼりはじめたころ、ふたりはようやくおおきなくつをつくりおえました。じょうず、とは、けしていえないものになりましたが、ふたりはまんぞくでした。「よし、なんとかまにあったな!」「ユーリがおきるまえにはやくかえろう!」ふたりはカップからルナティックこびとをひっぱりだしました。
2013-05-09 06:57:13「……ん? ……しょるいは」ずるずるとひきずられながら、ルナティックこびとはめをさましました。「あ、きがついたか」「おれたちでぜんぶできたぞ、あんしんしろ!」ふたりはかがやくえがおでちからづよくこたえました。「……そうなのか……?」ルナティックこびとはもちろん、げせません。
2013-05-09 07:01:00とはいえ、もうくつはできてしまいました。そとをみると、あさになろうとしています。ユーリさんもそろそろおきてしまいそうです。ルナティックこびとはならきっとだいじょうぶなのだろうとじぶんにいいきかせるしかできませんでした。そしてさんにんはひきだしのなかへともどっていきました。
2013-05-09 07:03:34「……ん……」そのすぐあと、ユーリさんはめをさましました。「……ゆめ、か」ユーリさんはつぶやきました。ふしぎなことに、こびとたちがでてきていたあいだ、ユーリさんはこびとのゆめをみていたのでした。ゆめのなかでさんにんのこびとは、ユーリさんのためにしょるいをかたづけてくれていました。
2013-05-09 07:07:23「このとしになって、ばかなゆめを……」やれやれとおもいながらも、ユーリさんは、ちょっとだけドキドキしてしまいました。つくえをみると、そこにあったしょるいがへっていたからです。ねているあいだにおとしてしまったのかとおもいましたが、もしかして、ともおもいました。
2013-05-09 07:10:26ユーリさんはつくえのぜんたいにめをむけました。すると、なんということでしょう。そこにはおおきなくつがいっそくおいてありました。ところどころにあながあいた、すずしそうなくつでした。そのくつをよくみると、おどろくことに、つくえにおいていたしょるいでできているではありませんか。
2013-05-09 07:13:20「……」ユーリさんはなにもいえませんでした。ユーリさんはただ、くつをもちあげて、しばらくのあいだじっとみつめていました。そのうちにおもわずもやそうとして、やめました。いくらくつになってしまっても、しょるいはしょるいだったからです。
2013-05-09 07:17:48ちなみに、くつのそばには、あさいあさいこうちゃのかわもできていました。そう、ルナティックこびとがひきずられたあとです。それではしっこがぬれたしょるいもありました。ユーリさんがそれをあぶりはじめたころ、ユーリさんはきづきませんでしたが、ほんのちょっとだけ、またひきだしがあきました。
2013-05-09 07:21:09そのすきまから、さんにんのこびとが、こっそりとようすをうかがっていました。「……どうだ?」「よろこんでるか?」「……なんじらは、おのれのせいぎをといなおすべきだ……」はなしごえがきこえたきがして、ユーリさんはふとひきだしをみました。が、そこはいつものようにしまっているだけです。
2013-05-09 07:24:25「……わたしも、すいぶん、つかれているらしい……」しょるいでできたくつをみては、ユーリさんはふかくためいきをつきました。そして、ふしぎなこびとたちにきがつくことは、ありませんでした。でも、それからもときどき、ユーリさんはこびとのゆめをみることがありました。
2013-05-09 07:27:50そのたびに、しょるいにへたなもじがかいてあったり、かくざとうがちらばっていたり、ちょっとしたおかしなことがつくえにおこっているのでした。ユーリさんはほんとうにふしぎにおもいましたが、どうしてもこびとがいるなどとはしんじられませんでした。
2013-05-09 07:30:17それでも、あるひ、ユーリさんはさんまいのクッキーをつくえにおいて、そのままおうちにかえりました。そのわけは、ユーリさんにいわせれば、ぐうぜんあまっただけ、の、きまぐれ、でした。ちょうどさんまいだったのも、ぐうぜんできまぐれ、だったのです。
2013-05-09 07:34:32そのよる、どうなったかは……きっと、そうぞうのどおりです。つぎのひのあさ、ユーリさんがしつむしつにくると、つくえのうえからクッキーはきえていました。そして、ユーリさんのにがおえが、ひとつ、ふたつ、みっつ、つくえにかかれていました。「……こんなところに、まったくめいわくな」
2013-05-09 07:37:16