シマウマ(f_zebra)さんが紹介する『世界の原子炉メーカーと日本技術の将来』

産業としての原子炉プロジェクトを考える。
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Flying Zebra @f_zebra

三菱重工とアレバの合弁会社のアトメアによる受注が決まったトルコのシノップでの原子炉プロジェクトについて、今ひとつ掘り下げた報道がないようなので少しばかり解説をば。三菱重工とアレバは、ともに世界を代表するPWRプラントメーカーです。

2013-05-08 18:44:23
Flying Zebra @f_zebra

原子炉メーカーとしては他にはPWRの米Westinghouse、VVERの露ロスアトム、BWRでは東芝やGE日立などが有力ですが、韓国やカナダも輸出実績があります。競合するメーカー同士でも、機器や部品の供給などでは協力関係にある場合もあります。

2013-05-08 18:44:59
Flying Zebra @f_zebra

出力150万kW以上の大型炉では三菱はAPWR、アレバはEPRと独自の設計で競合関係にありますが、特に新興国で需要の大きい出力110万kWクラスでは合弁事業会社アトメアを立ち上げ、Atmea1という原子炉を共同開発して販売しています。

2013-05-08 18:45:39
Flying Zebra @f_zebra

新興国では電力需要がそれほど大きくなかったり、需要は十分でも送電網の容量が不足していたりで最新の大型炉は性能を発揮することが難しく、出力がそれほど大きくなくて技術的にも十分な実績のある「枯れた」ものが好まれる傾向があります。

2013-05-08 18:48:29
Flying Zebra @f_zebra

Atmea1はGenerationIII+の最新の安全設計を備えていますが、技術的には既に実績を積んだ枯れた技術の集大成であり、安全性だけでなく、工期やコストに対しても信頼性が高いとされています。(まだ施工実績はないのであくまでも理論上ですが)

2013-05-08 18:49:05
Flying Zebra @f_zebra

ちなみに、原子炉ビジネスにおいてコストと工期の信頼性で圧倒的な強みを持つのはロスアトムです。西側メーカーがもたついている間も着実に施工実績を積み上げ、納期と予算を守って運転開始にこぎ着ける実績では他の追随を許しません。

2013-05-08 18:50:58
Flying Zebra @f_zebra

アメリカや西ヨーロッパで進行中の原子炉プロジェクトがほぼ例外なく当初の予定から大幅に遅れ、予算も膨れ上がりがちなのとは対照的です。欧米の規制をコピーすることの多い新興国の規制に合わせて西側の技術も取り込まれており、VVERも決して悪い原子炉ではありません。

2013-05-08 18:55:10
Flying Zebra @f_zebra

今回シノップではアトメアを選んだトルコも、地中海沿岸のアックユ・プロジェクトではVVER 4基の建設・運転・保守をまとめてロスアトムに発注しています。2010年に契約された同プロジェクトは今年着工、初号機運転開始は2019年の予定です。

2013-05-08 18:56:16
Flying Zebra @f_zebra

トルコは1965年に初めて原子力計画に着手、頓挫しながらも何度も計画を立ち上げ、国際入札も実施しています。1996年の入札には日立がカナダAECL傘下、三菱が米WH傘下で参加しています。応札評価をほぼ終えた1999年にトルコ北西部大地震が発生、計画は凍結されました。

2013-05-08 18:56:52
Flying Zebra @f_zebra

2007年に仕切り直しで原子炉計画を再開。アックユ・プロジェクトは世界初のBOO(建設・所有・運転)契約となり、事業主体はIPPの形で完成後売電によって建設コストを回収する方式としました。そのため民間企業主体ではリスクが大きすぎ、結果的にロシアコンソーシアムのみが応札しました。

2013-05-08 18:58:05
Flying Zebra @f_zebra

ロシア政府の全面的バックアップの下ロスアトムが事業主体AEG(アックユ発電会社)を設立し、人員養成のためトルコ人学生のロシアへの留学派遣も開始しています。AEGは廃炉処置と使用済燃料・放射性廃棄物管理、さらに損害賠償にも責任を負います。

2013-05-08 18:58:44
Flying Zebra @f_zebra

廃炉処置とSFP・廃棄物管理の費用は売電単価に上乗せする形で基金を積み立てることとなっており、これらの内容、条件は政府間協定(IGA)で定めています。このIGAはアックユ・プロジェクトのバイブルとも呼ばれ、原子炉ビジネスにおける政府関与の重要性を示しています。

2013-05-08 18:59:37
Flying Zebra @f_zebra

シノップ・プロジェクトもアックユと並行して進められており、当初の予定では2019年までに140万kW級原子炉4基を建設するというものでした。事前調査段階では韓国と協力、2010年にはIGAも締結しましたが、半年後に韓国は撤退を表明しました。

2013-05-08 19:00:06
Flying Zebra @f_zebra

その後トルコは日本政府と東芝に優先交渉権を与えますが、2011年3月に福島事故が起きます。トルコ側は地震国日本が蓄積してきた技術と事故から得た教訓が反映されることを期待して交渉の継続を希望しましたが、同年7月に東京電力がプロジェクト支援から撤退しました。

2013-05-08 19:01:00
Flying Zebra @f_zebra

優先交渉権は日本のまま、トルコは韓国にプロジェクトへの再参加を要請、韓国も応じます。さらに中国、カナダも交渉参加の希望を表明しました。中国は元々、トルコの3番目の原子炉プロジェクト、ボスポラス海峡近くのイグネアーダへの参加を目指しています。

2013-05-08 19:02:19
Flying Zebra @f_zebra

直前まで中国有利との噂がありましたが、安倍首相の訪問とIGA締結も後押しし、土壇場でアトメアが受注を決めました。大地震で原子炉プロジェクトを凍結した経験のあるトルコでは耐震技術への関心が高く、日本の技術も評価されたようです。

2013-05-08 19:02:52
Flying Zebra @f_zebra

事故を経験しているからこそ教訓が反映され、結果的に事故のリスクを小さくできるというのは極めて合理的な考え方ですが、心情的には受け容れがたいと感じる人も多いでしょう。国家戦略の選択では国民の「心情」より合理的判断が優先するのは当然のようで、難しい場合もあります。

2013-05-08 19:03:38
Flying Zebra @f_zebra

事故の当事国である我らが日本ですが、国民の安全に直結するエネルギー戦略について、政策決定者が合理的な判断を下せる状況にあるのでしょうか。刹那的な感情論に流されて、結果的に将来世代に多大な負担を強いることがなければよいのですが。

2013-05-08 19:03:57