ゼア・イズ・ア・ライト #2

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

もはや闇夜。見事に刈り込まれたハンディバイオ松とバイオしだれ柳が、等間隔で配置されたガスチョウチンによって、金と緑と桃色の光に照らし出される。カネモチ・ディストリクトのはずれに、その秘密めかした美的高級料亭「オトノサマ」は存在する。 1

2013-05-09 18:15:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

緩やかにカーブした石畳道路を、時折、滑るように家紋リムジンが通り過ぎる。バイオしだれ柳地帯を抜けると、人工の池に渡された朱塗りの橋。自動車が通るためのものだ。地上のライトアップを反射する透き通った池の水にはバイオ鯉が遊び、灯籠の周囲にはバイオホタルが舞う。 2

2013-05-09 18:21:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

既にこの庭園も「オトノサマ」によって手抜かりなく整えられた敷地である。やがて現れるのは道の左右に聳え立つ二体の石像。ネコソギ・ファンドが寄贈した戦士像だ。どちらも二刀流のカタナを雄々しく構え、厳格な眼差しを虚空に向ける。ひとつはミヤモト・マサシ。ひとつは聖ラオモト・カン。3

2013-05-09 18:25:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

石像の下を通り抜けた家紋リムジンは、駐車場にて、LEDカラカサを掲げた店の者たちに出迎えられる。バンガシラと小姓、オイランが二人。たおやかに笑う。リムジンからは護衛つきのVIP達が降車。小姓が箒で儀礼的に進行方向を掃き清めると、彼らは導かれて、奥の屋敷へ進む。 4

2013-05-09 18:31:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

屋敷は江戸時代様式の建築にハイ・テックを奥ゆかしく潜ませた、よく考えられたものだ。瓦屋根に招き猫と鬼瓦をライトアップした外観もさることながら、入り口の巨大なショウジ戸を開ければ、中央に囲炉裏が築かれた大ホールの素晴らしさに、来訪者は目もくらむ事だろう。 5

2013-05-09 18:45:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ホールを取り囲むバルコニーは神秘的なコケシを等間隔であしらった手摺りを備え、職人的ワザマエによるショドーで「不如帰」「お米づくり」「晩酌」などと書かれた額縁が複数掛かっている。はるか高い天井付近には真鍮性のダルマが鎖で吊られ、内部のボンボリの明かりを両目から発する。 6

2013-05-09 18:57:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

神秘的な囲炉裏とドヒョーを中心に、扇状に配置されたチャブ、そこには着飾ったカネモチ達が歓談し、サムエ・スーツ姿のゴヨキキが、酒を乗せた盆やオカモチを手に、忙しく行き来する。いっぽう階段を上がった二階、バルコニーの奥にある個室はショウジ戸で遮られ、秘密めいて影法師が動くばかり。 7

2013-05-09 19:06:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

この日、この高級料亭「オトノサマ」は敷地ごとの貸切り、瀟洒なパーティーの会場として供されている。階段の脇には華やかさを競うがごときカドマツと花輪が集まり、主催者の権勢のほどを喑に示している。見よ、ドヒョーに最も近いスナカブリ席にその者は居る。ネオサイタマ知事サキハシだ。 8

2013-05-09 19:28:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

内閣・国会が単なるTVパフォーマンスの機関と化したこの国において、政治権力の頂点にあるのは首都ネオサイタマを預かる知事にほかならない。だが、心労ゆえにか、サキハシ知事に再選直後の意気軒昂の面影は無く、骨と皮ばかりに痩せ衰えて、見るものに重大な病を想起させる。 9

2013-05-09 19:37:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

同じ席にはサキハシの妻。そしてもうひと組の男女。男は殆ど白に近い金髪を後ろに撫でつけ、褐色の肌に、ギリシア彫刻めいて整った美貌の持ち主、モンツキ姿が醸し出す威厳は、まるでサキハシが小間使いのようである。その隣には、黒いドレスとぬばたまの黒髪、華やかな美女。彼の妻だ。 10

2013-05-09 20:33:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

モンツキ姿の男の名はシバタ。サキハシ知事を影のごとく支えてきた側近だ。一方、その妻コヨイは、シバタよりも遥かに格上の存在である。暗殺されたアミダ・シノノメの孫娘なのだ。国政の権威が地に落ちた今でさえ……否、今だからこそ……「最後の総理大臣」の血筋がもつ説得力は非常に強い。11

2013-05-09 20:50:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼らの卓に、入れ替わり立ち替わり、様々な立場の重要人物達がアイサツに訪れる。シバタ夫妻はにこやかに応ずる。コヨイの笑顔はどこかぎこちない。同様にアイサツするサキハシ夫妻は……手元もおぼつかない老人と、寡黙なその妻だ。悲しみと労苦が石のように彼女を押し包んでいる。12

2013-05-09 20:59:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

やがて、一通りのアイサツ歓談が済んだ頃合いを見て、シバタはサキハシに促す。サキハシは震えながら無表情に頷く。決してこの己の秘書に目を合わせる事はない。畏れているからだ。サキハシの妻も同様だ。彼女はむしろ、殻の中に自らを閉じ込め、やり過ごしているかのようだ。それも、ずっとだ。13

2013-05-09 21:04:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アー……アー……エー……」サキハシは人々を見渡し、途方に暮れる。シバタはにっこりと頷く。サキハシはいがらっぽい声を出した。「皆様、本日は大変お日柄もよく……」大ホールが、しんと静まりかえる。知事の言葉を待つ。サキハシはハンカチで汗をぬぐい、続けた。「お集まり頂いたのは……」14

2013-05-09 21:13:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

人々にシバタを示し、「彼は……シバタ・ソウジロウ……皆様ご存知でしょう、そのう……私の非常に有能な秘書でありまして……昨年のコヨイ・シノノメ=サンとの結婚は大変めでたく、私が進めた縁談のめでたい……今日はですね、是非改めて、今まで私の影となり、尽力してきた彼に、そのう……」 15

2013-05-09 21:17:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

サキハシは言葉を切り、震えた。沈黙が大ホールを包む。ふたたび切り出す。「彼は……皆様の前にこうしてあらためて出てまいりましたのは、その……実際あの結婚式以来ですが、それだけ、私欲無く、ネオサイタマの未来に尽力してくれた人材で……私もご覧の通り……健康面に大変、不安がですね」 16

2013-05-09 21:24:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

あちらこちらで気遣わしげな嘆息。実際、サキハシはそこまで老いた男ではないのだ。彼はごく短期間のうちにこのようになった。彼は続けた。「彼ならば……しっかりやってくれましょう。私は恐らく、任期を満了はできますまい……出来るだけ頑張り……頑張りたいです……ですが……」 17

2013-05-09 21:30:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「どうか気を楽に」シバタが微笑んだ。「病は気からと申します。まだまだ頑張っていただかないと」「……」サキハシは顔をひきつらせた。どうやらそれは笑みのようだった。「彼は素晴らしい。私に何かあれば……そのう……後継は彼以外にありません。家柄も……申し分無い。シノノメ家の……」 18

2013-05-09 21:37:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「どうか、彼を……」サキハシの言葉は最後ほとんど立ち消えた。シバタはコヨイと共に立ち上がった。二人は人々を見渡し、ゆっくりとオジギした。拍手がさざなみめいて沸き起こった。「ドーモ。シバタです。勿体無きご紹介を閣下から頂きました」さらなる拍手。「まだまだ若輩の……」 19

2013-05-09 21:43:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

コヨイは夫のスピーチの間、静かに微笑み続けていた。アイサツが終わり、一際大きく暖かい拍手が彼女を包んだが、彼女の心は冷えていた。椅子に再びかけると、彼女はシバタの袖を引き、囁いた。「夜風に当たりたいの」「そうか」シバタは頷いた。けぶるような目。「この後の会合。遅れないように」20

2013-05-09 21:48:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「勿論」ソルスティスの笑みは、冷たいニンジャのそれである。アガメムノンは何か言い渡そうとしたが、再び人々のアイサツへの対応に追われだす。ソルスティスはしめやかに席を立った。卓の間を縫うように、中庭への廊下を目指す。サムエ・スーツのゴヨキキとすれ違う。彼女は振り返る。 21

2013-05-09 21:56:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」ソルスティスはそのゴヨキキの手を掴んで引いた。ゴヨキキが見た。彼の身体を駆け抜けた瞬間的な警戒心と殺意が、手を伝って彼女のニューロンに響いた。それは一瞬のことだ。顔をよく見るよりも早く、彼女はこの者が先日のあの男だと確信する。人さし指を唇の前に立て、「……こっちへ」 22

2013-05-09 22:09:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

バイオホタル舞う中庭は、白砂の引かれたサンスイだ。影めいた輪郭が凝固し、ソルスティスと、引きずるように連れてこられたゴヨキキの姿を取り戻す。彼女はようやくここで己のステルスを解いた。アガメムノンが張り巡らすニンジャ第六感の網は尋常のニンジャの範疇ではない。 23

2013-05-09 22:26:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼女のトバリ・ジツはアガメムノンとの生活の中で短期間のうちに研ぎ澄まされた力。必要に迫られて身につけたジツだ。喜怒哀楽や言葉の真贋をパルスで読み取るアガメムノンに、彼女は少しでも対等たろうとした。結局それはブッダの手の中のマジックモンキーじみた、けなげな努力に過ぎないが。24

2013-05-09 22:31:53
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