東海道中膝栗毛 三編 上
- KumanoBonta
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三編上は、東海道岡部宿から日坂宿までのお話です。
【三編上 前書き by いっく】この編は岡部宿から舞坂に至り、荒井を渡船して一集が終わります。草稿はほとんどできあがっているものの、忙しさのあまり校正もままならず、そのため四編にはミスもちょいちょい出ています。(次には直します。)
2013-05-15 19:54:05初編、二編ともずっとおもしろハプニングが続いていますが、一部の常識ある読者のかたから耳の痛いご意見などもいただいており、若干傾向を変えてる場面もございます。
2013-05-15 19:54:11なお、四編ではまた珍事を巻き起こしながら舞坂宿から四日市まで進みます。 さらに五編で、ようやく伊勢路に入ります。古市の遊楽や相の山の光景を紹介しつつ、奈良越えののち大坂へ出るところで全冊を終了する予定です。 今後もお楽しみください。
2013-05-15 19:54:18[本編] かの有名な遠州灘は波も穏やかで、街道の松並木も静かである。 行き交う人々は互いに道を譲り合い、とても平和な光景だ。 荷物をたくさん積んだつづら馬が、馬方の小室節とともに歩き、宿場の人足も縄張り争いなどする事もなく、雲助達だって運賃をごまかさず真面目に仕事をしている。
2013-05-16 19:33:16盲人の一人旅に女性達だけの旅行も数多く、抜け参りの子供達が悪い大人に連れ去られることもない。 こんなありがたい時代なのである。 そんな中、あの弥次郎兵衛と喜多八は大井川の川止めで岡部の旅籠に泊まっていた。
2013-05-16 19:33:28【八日目】岡部宿を出発
(川留め期間を除きます)
ようやく今朝になって、朝一番の公用便が川を渡り、続いて旅人も渡り始めたとの知らせが伝わってきた。 宿を出ると、他の旅人達も待ってましたとばかり急ぎ足で歩き始めていた。
2013-05-16 19:33:36それはすごい人混みで、問屋の籠は宙を舞い、荷駄馬も飛ぶ勢いだ。街道にはこんなにたくさんの人間が歩いていたのかというほど凄まじい。 二人は朝比奈川を越え、八幡、鬼島を過ぎて白子町へ至る。ここは立場で、道の両側の茶店から売り子の掛け声が響いていた。
2013-05-16 19:33:44店員「お茶をどうぞー。お食事はいかがですかー。どうぞお休みくださーい」 馬も荷物を積んで通りかかる。 馬方「長松んちのかかぁはタコ女~♪ どうしてタコって呼ばれるのー♪ 八間真中に足だらけ♪ あそれどうどう」 馬「ひひーん」
2013-05-16 19:33:54馬方「おい旦那さんがた、馬はいかがです? 2500円だ、安いよ。なんなら運賃くれるだけで乗らなくてもいいよー」 喜多「2500円出すくらいなら俺は夜の馬にまたがるぜ」 馬方「ちぇ、ちくしょう」 馬「ひひーん」
2013-05-17 19:32:09弥次「少し飲んでいこう。おいお姉さん、酒を出してくれ」 二人は茶屋へ入った。 店員「熱燗になさいますか?」 弥次「そうだな。肴は何がある」 主人「ネギマ (葱と鮪) の煮物があります」 喜多「葱と鮪の風呂ふきか、いいね」 主人「いえ、醤油味がついてますよ」
2013-05-17 19:32:15銚子と盃を出し、ネギマを皿に盛り付けて持ってきた。 弥次「ほう、江戸とは違って、付け焼きをさらに煮てあるようだ」 喜多「いただきまーす…あれ、腐ってる。おいオヤジ、これ昨日の鮪じゃねえか」 主人「いやあ、昨日のなんかじゃありませんよ」 弥次「だけどこりゃ食えたもんじゃないぞ」
2013-05-17 19:32:20主人「昨日のが気に入らなけりゃ一昨日のを出しましょうか。きっと酔いますよ」 弥次「やっぱり昨日のかよ。そんな物で酔ってたまるか。それにこの酒、水が半分も入ってるぞ。おい、行こう。いくらだ」 主人「魚が800円、酒が350円です」 弥次「なんだよ、まずいくせに高ぇな」
2013-05-17 19:32:25【中ぼん】原作で使われている用語をご紹介します。 「根深」→葱のこと。 「雉子焼」→魚などを醤油につけて焼くこと。 「お陀仏」→腐ってること。 「酔う」→食中毒のときにも使われる。 なお、この当時のお酒は水で薄めて供するのが一般的で、ビール並みのアルコール度数でした。
2013-05-17 19:32:37金を払って店を出た。 しばらく行き、鎧ヶ淵という所に至る。 弥次「ここもとは 鞍のあぶみがふちなれど 踏みまたがりて 通られもせず」 そこから平嶋口、田中を過ぎ、藤枝宿が近づいてきた。 街道の 松の木の間に 見えたるは これむらさきの 藤枝の宿
2013-05-17 19:32:31藤枝宿
江戸から四十九里三十町四十五間 (195.8 km)
宿場の入り口に差しかかった頃、風呂敷包を肩にかけた田舎のオヤジが、横を通った馬が跳ねたのに驚いて喜多八にぶつかってしまった。喜多はその拍子に転び、水たまりに尻もちをついてしまう。
2013-05-20 19:32:57喜多八はカッとなり、オヤジにくってかかった。 喜多「馬鹿ヤロー! てめえ、どこに目をつけてんだよっ。目が悪いならカラスの黒焼きでも食ってやがれ!」 オヤジ「ああ、これはすみません」
2013-05-20 19:33:04喜多「すみませんじゃすみませんっての。この俺様はな、オギャアと産まれたときから金のシャチホコを睨み、産湯も水道の水を浴びた男だぞ!」 オヤジ「あぁ、水ならまだいいが、あんたの突っ込んだ水たまりは馬の小便だからなあー」
2013-05-20 19:33:12喜多「な、な、な…くぉの野郎!そんな所へなぜ俺を落としやがった!」 オヤジ「だって、馬に跳ねられちゃびっくりもするだろう。どうにもなりませんて。許してくださいよー」
2013-05-20 19:33:21喜多「やなこった。大江山の親分が鉄棒もってなだめに来ようが、大山の石尊様が猪熊の絵の提灯下げて平謝りしようが、俺は許さねえ。たとえ久米のお侍が居座って脅しに来たってビクともしねえからな」
2013-05-21 19:38:54オヤジ「はぁ~何だか面倒なことを言っておるが、ワシにゃ知ったこっちゃない。ワシは近くの長田村じゃ領主も務めた家柄だ。今でも新年会じゃあ上座に座る男だ。そんな口を叩くものではないわ」
2013-05-21 19:38:59喜多「うっせえケツが痒くなるわ。てめえの頭をカチ割って、かけらでも拾わせてやろうか」 オヤジ「どこまで横柄な男だ。ワシにだって荒神様がついておる。いつまでも偉そうな口をきくでない」 喜多「くそうっこのすりこ木ヤロー」
2013-05-21 19:39:05