翔べ!必殺うらごろし(現代版)

昇ってくる朝日を見ていたらどこからともなくシンセサイザーと読経が聞こえてきた。徳の高い行者様のありがたいご霊言を、私がチャネリングして書きました(本気にしないように)。
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hilowmix @hilowmix

地方都市、駅前のシャッター通り。短期で店を借りている怪しげな一行。「血がさらさらに」「自然食品」などとかかれた幟が店頭に掲げられている。店に入ると中年の女性が手慣れた手つきでベーグルを切り分けている。妙な緑色のペーストをベーグルに塗り、客らに勧める。 #うらごろし

2013-05-19 09:15:50
hilowmix @hilowmix

「自然のものです、先生が特に調合しておられます」いぶかしみ、断る客達。まれに口にする者もいるが、ひどく渋く、苦い。「淀み濁った血も、さらさらになるんですよ」屈託のない笑顔でおばさんは言う。先生と呼ばれた男は、ただ黙って野草をすり鉢にあける。 #うらごろし

2013-05-19 09:20:27
hilowmix @hilowmix

先生とやらは、麻のごわついたジャケットを着ている。眼差しは真剣だが、客のことは気にしていない。その助手であろうか、若い大男が木の実や野草の皿を先生に手渡す。先生は黙ってすりこぎでそれらを潰す。「おれひどいアトピーだったんだぜ」大男は言う。 #うらごろし

2013-05-19 09:26:01
hilowmix @hilowmix

「先生の調合したスムージーはそこらへんで売ってるやつとは全然違うんだ、なんせ先生の波動が入ってるからな」その声は大柄な身体に似合わず、若々しい。警戒感を憶えたのだろう、客らはひそひそ語りつつ店を出る。「ちっ」「若、あんたを嫌ったんじゃないよ」おばさんが言う。 #うらごろし

2013-05-19 09:29:17
hilowmix @hilowmix

「聞こえたんだよ『あの男詐欺師だろう』って」若と呼ばれた大男…いや、大女が応える。「どいつもこいつも、オレのタッパだけで男だと思いやがる」空を打つその拳は鋭く、固い。「若ぁ、そんな態度だから客がヒクんだよ」折り畳椅子にだらしなく腰掛けた男が言う。 #うらごろし

2013-05-19 09:32:38
hilowmix @hilowmix

「あ?」「そりゃそんな態度じゃ男も逃げ出すさ」若は答える代わりに、彼の襟元を掴み、にらみつける。「…なんだって?正十、もういっぺんいってみろよ」「あの…すいませんごめんなさい」セルフレームの眼鏡の奥で目をしばたかせながら、正十は泣きそうな顔をする。 #うらごろし

2013-05-19 09:35:54
hilowmix @hilowmix

「ちょっとおやめよ。いつ客が来るかわからないんだから」おばさんが二人に割って入る。「そそ、おばさんの言うとおり、商売第一、ね!」調子よく言う正十を投げ出し、若はそっぽを向く。「おばさーん、このベーグル食べていーい?」バックヤードから派手なメイクの女が出てくる。 #うらごろし

2013-05-19 09:38:30
hilowmix @hilowmix

いわゆるギャル系のメイクだ。試食用に積んであるベーグルを両手に掴むと、その女はもりもりと食べ始める。瞬く間に平らげると、大あくびをしながらバックヤードに戻っていく。「まったく、名は体を表すってのはおねむのためにあるような言葉だねえ」おばさんは笑う。 #うらごろし

2013-05-19 09:41:20
hilowmix @hilowmix

「あの…すいません」女の客だ。「こちらでデトックスによいスムージーを売っているとうかがったんですが」「ええ、血の汚れ、淀みを洗い流してくれるスムージーです」おばさんがにこやかに言う。「とっても健康にいいんですよ、お試しになりますか?」「いえ、私ではなく…」 #うらごろし

2013-05-19 09:49:18
hilowmix @hilowmix

「娘さん、だね?」不意に先生が顔も上げずに言う。「娘さんの悲しみが、あんたにもこびりついている」あっけにとられた客だったが、小さくうなづく。「娘はひどいアトピーで、いつもいじめられているんです。最近では学校にも行きたがらず…」「わかるぜ、それ」若が言う。 #うらごろし

2013-05-19 09:52:55
hilowmix @hilowmix

「肌がきたねえからってバイキン扱いしやがるヤツとかな」はき出すように若が言う。「いろいろ薬やお医者さんも試したんですが、あまり効果がなく」「因縁、ですね」「え?」「あなたの家が負っている業が娘さんを苦しめているんです」先生が断定する。 #うらごろし

2013-05-19 09:55:37
hilowmix @hilowmix

「この先生ね、そういうの分かっちゃうんだ。波動とか読めるんだよ。すげー先生なんだ」商機とみた正十が畳みかけるように言う。「先生、善は急げ、すぐおうかがいしましょうよ、先生」せかす正十に答えず、先生は立ち上がる。「たしかに、一度直接拝見した方がいいかもしれん」 #うらごろし

2013-05-19 09:58:37
hilowmix @hilowmix

「お母さん、この人達は」立派な家にふさわしくない、乱雑な部屋。カーテンを閉め切った部屋でその娘は不安げに問う。肌は荒れ、目には劣等感がにじんでいる。「他のアレルギーはないんですが、肌だけは」先生は黙って娘に近づき、その瞳を覗き込む。娘は魅入られたように立ちすくむ。 #うらごろし

2013-05-19 10:39:14
hilowmix @hilowmix

「娘さん、あんたのせいでもお母さんのせいでもない。自分たちを責めないことだ」「というと?」「奥さん、あなた飛騨の出だね?」「え…はい」「あんたのご先祖が昔、この辺りの代官だったんだ。年貢の取り立てが厳しく、何人もの百姓が娘を売ったり、飢え死にしたりした」 #うらごろし

2013-05-19 10:47:02
hilowmix @hilowmix

「そんな…」「遠い昔の話だ。しかし、怨みの波動は容易く消えない。憎しみの念が、この娘さんにこびりついている」「かわいそうに…」「おばさん、スムージーを」 #うらごろし

2013-05-19 10:49:54
hilowmix @hilowmix

「私の気で負の波動を打ち消す」「そんなことが」「少し時間はかかるが大丈夫だろう」「お母さん、この人達大丈夫なの?」「いいじゃないの、ね、おぼれる者は藁をもつかむって言うじゃない、ね!」正十が意味の分からぬ事を調子よく言う。 #うらごろし

2013-05-19 10:56:17
hilowmix @hilowmix

「それでその娘さんはぁ?」あくびをしながら、おねむは問う。両手にはおにぎりを掴んだままだ。「少しずつだけど、良くなっているそうよ。奥さんも喜んでらした」おばさんはおにぎりを作りながら答える。「よーやくお金になる仕事が来たよ、先生、いっつもお気持ちでとか言うし」 #うらごろし

2013-05-19 11:04:34
hilowmix @hilowmix

正十がうれしげに缶酎ハイをあおる。「やっぱお金がないとおまんまも食べられないし、ね」おねむの尻を触りながら言う正十を睨むと、若が席を蹴る。のしのしと歩き、店の前に出ようとすると、戸が開いた。あの奥さんだ。「あの…」「あ、今日の分は今先生が」 #うらごろし

2013-05-19 11:08:29
hilowmix @hilowmix

「もういらなくなったんです」若はそこで、ようやく彼女の服がいつもと違うのに気付く。黒づくめの服、喪服だ。「娘は…亡くなりました」「どういうことでえ?」「自殺…と警察は言ってます」「そんな…アトピーは良くなりかけてたじゃないか?学校にも行き始めたんだろ?」 #うらごろし

2013-05-19 11:11:04
hilowmix @hilowmix

「娘は、いじめられると言っていました。少しずつ良くなっているとはいえ、ふつうの子には気持ち悪かったのかもしれません」「そんなバカな話があるか!正十来い!」「え、なに?」「調べるんだよ、お前も手伝え!」「オレもう呑んでるし」「ぶっとばすぞてめえ!」 #うらごろし

2013-05-19 11:14:58
hilowmix @hilowmix

「いやもうひどいもんだよ先生」「どういうことだ」「塾帰りの子たちとかに聞いたんだけどさ、ひでーいじめだったんだって。おまけに先生までいじめに加わっていたって話」「はあ?止めなきゃいけない立場でしょ?」「でその先生がさ、警察署のエライ人の息子なんだって」 #うらごろし

2013-05-19 11:21:24
hilowmix @hilowmix

「するとなにか、正十!自殺ってのも!」「ぐ、く、苦しい!オレを締めてどうすんのぉ!」「落ち着きな、若」「もーやめてよー…どうもそうみたいなんだよぉ。言うこと聞けば仲間に入れてやるとか言って、例の廃屋に連れて行ったらしいんだよお」静かに聞いていた先生が不意に立つ。 #うらごろし

2013-05-19 14:43:24
hilowmix @hilowmix

突風のように走る先生。人気のない坂を越え、朽ちた鉄階段を駆け上がると、彼は廃屋の屋上に立つ。娘が自殺した現場だ。闇の中、冷たいコンクリートの上に座禅を組むと、彼は指で不可思議な印を描き、目を閉じる。唇からは奇怪なマントラが流れ出る。チャネリングだ! #うらごろし

2013-05-19 14:50:13
hilowmix @hilowmix

(苦しい…)(私は友達になりたかっただけなのに…)(この業から逃れ、やっと幸せになれると思っていたのに…)(なぜ…なぜ私を苦しめ、喜ぶの…)(あの部屋から、業から逃れてきた私を…)(なぜ…こんなふうに堕としたの…)(怨みを…怨みをはらして…) #うらごろし

2013-05-19 14:52:53
hilowmix @hilowmix

家並みの彼方、太陽が昇ってくる。赤みがかる空を、金色の円盤が飛ぶ。その軌跡が怪しげな梵字を描く。その瞬間、先生の目が開いた。なにかを決したかのようにぎらつく輝きを宿した目で、彼は一点を睨む。力強く立ち上がると、彼は再び駆けだした。 #うらごろし

2013-05-19 14:57:00