第十三話:手 第十四話:噂 第十五話:階段

角川Twitter小説コンテストにて執筆中の『チョッとした話』を読みやすいようまとめてみました。読了後面白いと感じてくださったら章タイトルや本文のファボやRTなどいただけるとありがたいです。 以下のURLからもどうぞ。http://commucom.jp/t/fo9FMO
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さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 一昨日の話をしようと思う。  洋服を干して、朝方取り込んで、でも畳む時間がなかったから仕方なくベッドの上に放置しておいたことがあってね。  それで大学から帰って何気なく部屋を眺めたとき、何か違和感があった。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-20 10:19:54
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 誰かいる、って、そう思ったんだ。  もちろんそんなはずはない。でも、何かいるのはちらっと見えた。  それでもう一度ちゃんと部屋を見て、見つけた。心臓が止まるかと思ったよ。  僕の服から、人の手が伸びていたんだ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-20 10:26:28
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 僕に気づいたのか、手がピクリと動いた。ギョッとしたよ。そしたら手の奴、バイバイでもするように左右に振れてね。  そうして嘘みたいに消えた。  僕はしばらく呆けて座りこんでしまったけど、とりあえず洗濯物を畳んだ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-20 10:31:17
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 以来あの手を見かけていない。  落ち着いて考えてみれば、あんな茶目っ気があるんだ、悪い奴じゃないのかもしれない。  次会ったら、筆談でも試みてみようか。  留守中の家事ぐらい、頼めるかもしれないよ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-20 10:43:03
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 放課後、君と並んで帰りのバスを待っていた。 「なぁ」  携帯をいじっていた君は、ふと思い出したように顔を上げてこちらを見る。 「そういえば、最近ちょっと気になることがあるんだよ。大したことでもないんだけどさ」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-20 12:05:21
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

「ふぅん」  お決まりの相槌を打つ。気が進まないように切り出す君が、本当は僕に何か話したくて仕方がないのだとよく知っているからだ。 「それで、どんな話なの」  君は携帯をポケットにしまって、荷物を背負い直した。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-20 12:06:45
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

「よくわからないんだけど、俺がもうひとりいるらしい」 「ドッペルゲンガーみたいな?」  君はきょとんとする。 「なんだそれ」 「いや、大したことじゃないんだけど」  君の話の腰を折る気はない。 「どうぞ、続けて」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-20 12:07:33
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 君は思い出すように目を動かした。 「例えば、出てないはずの授業に出席してたり。入ってないサークルに所属してたり。知らない子と付き合ってたり。俺には覚えがないんだ」 「で、そいつには会った?」  君は首を振った。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-20 12:11:33
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

「会えるはずないだろ、俺なんだから」 「そうか」  頷いてみせると、君はなお首を傾げる。 「ただ、俺のやりたかったことばかりなんだよな、それが。出てるのはクジで落ちた授業だし、入ってるのは大分迷ったサークルだし」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-20 12:13:43
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

「ふぅん。ちなみに女の子は?」 「会ってないがタイプだと思う」  その言い方があんまり真面目で、僕はつい吹き出してしまう。 「笑うなよな」  君は少し顔をしかめた。 「悪い悪い」  軽く謝って、先を促す。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-20 12:15:04
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

「それで? 君はどうしたの?」  君は、別に、と首を振った。 「どうしたいとかじゃない。薄気味悪いんだ」 「それは確かに」  同意したところでバスが来た。そこからはくだらないことを喋って、この話は一度終わった。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-20 12:48:29
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 それから数日後の夜。切羽詰まった声で、君から電話があった。 「お前、俺のクラスとサークル、知ってるよな?」  聞かれるまま正答すると、君は安堵の息を漏らす。 「おかしいんだよ」  君は泣きそうな声で言った。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-20 12:53:02
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

「俺がなりたかった俺が、どんどん本物になってきてるんだ。履修登録もなぜかされてる、出席もしてる。今日教務課に二重出席になってるって言われて知ったんだ……」  君は、恐る恐る言った。 「俺、俺じゃなかったりして」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-20 12:58:51
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 その声を耳にした途端、ざわりと総毛立った。 「何馬鹿言ってるんだ」  そこに居ろ、と強く命じて、君の家へ向かう。  古びたアパートの階段を駆け上がって、部屋のドアを叩く。 「君、開けるんだ」  返事はなかった。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-20 15:24:41
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 と。 「開いてます」  嫌に落ち着いた声をかけられた。見れば、君が立っている。 「君……」 「弟です」  君に似た男は頭を下げた。 「兄さんは今、いなくなりましたよ。どこかへ行ってしまった」 「どうして……」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-20 15:26:55
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

「僕が完璧な兄さんになったからじゃないでしょうか」  男は少し自慢げに笑った。 「高い金貰って学生やってるのに、兄さん自堕落だから」  だから兄さんの代わりになってやろうと思ったんですよ、と、男は自慢げに笑った。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-20 15:29:27
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

「自分がこれから兄さんになる。これからどうぞよろしく」  男は丁寧に頭を下げる。 「……兄さんを探そうとは思わないの?」 「いる意味がないでしょう」  じゃあ、と言って、君に似た男は部屋のドアノブに手をかける。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-20 15:33:42
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 僕は唖然としてその背を見送った。  さっきまで電話の向こうにいた君は、どこに行ってしまったのだろう。  電話をかけなおしてみたが、応対したのは弟だった。 「なんです?」  僕は肩を落とした。  そして、訊く。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-20 15:57:13
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

「君はそれで、さぞかし小気味いいだろうね?」  その問いかけに。  『君』は、電話越しで笑った。  そういう訳で、僕は今、『新しい君』といる。  君よりよっぽどできる君と、並んで講義を受けているよ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-20 15:38:58
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 少し短いんだけど、階段にまつわるエピソードを一つ。  ある日のこと、僕は階段を下りていた。そこで偶然君に会ってね。  君はひとりで階段の上り下りをせわしなく繰り返していて、額に嫌な汗を浮かべて必死だった。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-20 23:54:05