【twitter小説】死霊の末裔#1
酔っ払った男が千鳥足で墓地の前を歩いていた。大分飲んだのだろう、顔は赤く足元がおぼつかない。ふと彼の視界に燐光がよぎった。視線を移すと……そこには渦巻く半透明の白い靄が見えた。男はぎょっとして近寄ってみる。墓地は月夜に照らされ薄暗い。 1
2013-05-22 17:27:50たくさんの石碑の間を白い靄は駆け抜ける。そしてその奥に……はっきりと髑髏の影が見えたのだった。男は悲鳴を上げて墓地から逃げ出していった……。 2
2013-05-22 17:32:21クノーム市は灰土地域の中央あたりにある中規模の街だ。帝都からかなり離れているものの、街は適度に蒸気機関で機械化され、あちこちの工場の煙突から黒い排煙を立ち上らせる。川などは近くにないが、この街の地下からは貴重な鉱石が取れるため街はにぎわっている。 4
2013-05-22 17:40:28露天掘りの跡に街が出来たため、街はすり鉢状のクレーターのようになっている。南の大河から大きな水道橋が渡され街のライフラインになっていた。街は交易の中間地点としても役立っており、街の大通りには旅の商人が珍しい品を並べては売りさばいている。 5
2013-05-22 17:44:25緑の機動スクーターがパププププと排気音を上げながら街の大通りを駆けていった。運転者はグレーのスーツを着て帽子を被った青年だ。髑髏のピンで止められたネクタイが風に揺れる。機動スクーターはそのまま赤レンガの建物が立ち並ぶ路地へと進んでいく。 6
2013-05-22 17:47:25路地裏の先に小さな扉があった。扉には『ミックラン事務所』と表札がかかっている。グレーのスーツの青年はスクーターから降り、その扉をノックした。 「ミックランさーん! こんにちはー、レックウィルです」 すると事務所の中から声が帰ってくる。 7
2013-05-22 17:55:07「鍵は開いてるよ、どうぞ」 レックウィルは赤いドアを開けて中に入っていった。中は薄暗く、書類が大量に乗った机が並べられていた。戸棚は扉が開いたまま大量の書類が顔を覗かせている。煙草の煙が充満する奥の机に……ミックランはいた。 8
2013-05-22 17:58:41ミックランは太った中年の男で、黄ばんだシャツを羽織り黒いズボンをサスペンダーで吊っている。彼はレックウィルに片手で挨拶をすると、開いた左手でくわえた煙草を吸いがらで溢れた灰皿にねじこんだ。レックウィルは煙草の煙を感じ鼻をすすらせる。 「問題だよ、レックウィル君」 9
2013-05-22 18:04:44「今回の仕事だ。君は霊障コンサルタントだったね」 「死霊相手の相談・交渉・除霊はまかせてください」 ミックランは彼の名刺を受取り頷く。 10
2013-05-22 18:10:20「正直うちのモンたちじゃお手上げだよ、今回の事例は」 そう言ってミックランは写真をクリップで止めた書類をレックウィルに寄こした。レックウィルはそれを手に取り眺める。 「知っての通りウチはよろず相談事務所だ。冒険者斡旋や揉め事解決。だが今回の相手は死霊の群れだ」 11
2013-05-22 18:15:14ミックランの事務所に依頼が舞い込んだのは今朝だ。墓地に死霊の群れが出現し誰も入れなくなっていると――。死霊は恐るべき体力を持つ危険存在。普通に冒険者に依頼すれば大赤字だ。なのでこういう時には専門職……レックウィルのような者に仕事を依頼する。 12
2013-05-22 18:19:23「資料にも書いてあるが、浮遊霊14体、恐らくスケルトン1体の大所帯だ。大丈夫か? 必要なら増援を斡旋しよう」 「いえ、あくまで彼らは元人間です。武装して大勢で臨めば警戒されるでしょう。とりあえず僕に任せてください。話を聞くだけ聞いてから考えます」 13
2013-05-22 18:23:14「大丈夫なのか? 死霊祓いが死霊になったら笑えんぞ」 ミックランはびっくりしてレックウィルを見た。懐から煙草を取り出し火をつける。 「心配ご無用。僕も場数は踏んでますから危なくなったら逃げますよ。奴らは体力こそありますが武装していない限り非力ですから」 14
2013-05-22 18:27:03レックウィルはトントンと資料の端を机で叩いて揃え、にこりと笑った。 「それでは行ってきます。吉報をご期待ください」 「ああ、頼むよ」 そして彼は例の墓地に緑の機動スクーターで向かった。パププププと小気味よく排気音が響き、小鳥が空に舞う。 15
2013-05-22 18:32:55例の墓地は街外れの小高い丘にあった。下から見上げると、確かに何か靄が見える。街のひとも丘を見上げ噂話をしていた。赤レンガの建物は次第に低く少なくなり、ようやく墓地に辿りついた。墓地は自治体によって封鎖されており、警官が見張りをしている。 16
2013-05-22 18:40:00警官に話を聞くとレックウィルを墓地へと通してくれた。レックウィルはネクタイを正し、慎重に墓地の中を進む。するとすぐさま靄のような死霊が彼の周りを渦巻き始めた。ぎょっとして立ち止まるレックウィルだったが、死霊たちはすぐさま道の両脇に整列した。この先に来いと言うのだ。 17
2013-05-22 18:48:03死霊たちに見つめられながらレックウィルは墓地を進む。墓地は死霊が招きだしたのか、深い霧に覆われていた。やがて墓地のいちばん奥、崩れた石碑に腰かけた一人の死霊が見えた。それは白骨の髑髏で、頭に錆びた王冠を被っていたのだった。眼の奥は爛々と光りどこか笑っているようだ。 18
2013-05-22 18:51:42レックウィルは怯むことなく、髑髏に交渉を開始した。 「私は霊障コンサルタントのレックウィルです。あなたの悩み解決してみませんか?」 彼は帽子を取りお辞儀をした。いつでも逃げられるようにはなっている。友好的か、狂っているかは相手の出方次第だ。 19
2013-05-22 19:00:18死霊は現世に未練を持つことで存在している。その未練は死霊自身を激しく苛むものだ。その未練によって狂っていなければ交渉の余地はある。未練を断ち切り、浄化されることこそ死霊にとっての救いでもあるのだ。その術はセリキラル精神交霊団によって研究されている。 20
2013-05-22 19:04:04髑髏がにやりと笑った気がした。 「わたしはクリード公だ。この地を支配し、この場所に城を建てたものだ」 クリード公! クリード公……? レックウィルは記憶を掘り起こし名前の正体を掴もうとした。確か千年前くらいにこの地を支配していた諸侯だったような……。 21
2013-05-22 19:07:43「わたしを……知らんのか?」 「いえ、とんでもない。ちゃんと知ってますってば。クリード公ね、クリード公……」 「まぁいい」 クリード公はため息をつくようなしぐさをして、ゆっくりと自分が化けて出た理由を話し始める。 22
2013-05-22 19:11:49聞くと、クリード公の子孫がいまこの街で生きているようなのだが……その血が途絶えようとしているらしいのだ。 「なるほど、病気とかですか?」 「いや……恥ずかしながら、縁談が無いのだ」 「……え?」 23
2013-05-22 19:14:38