「ア・カインド・オブ・サツバツ・ナイト」＃１・再放送Ver(実況なし)

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「ネオサイタマ炎上」より「ア・カインド・オブ・サツバツ・ナイト」

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重金属酸性雨がしとしとと降り、ツチノコストリートのシンボル的存在である武田信玄像を静かに腐食させる、ごくありふれたネオサイタマの夜だった。ストリートギャングとヤクザの抗争が基盤屋地帯で起こり、サイバー神輿を担いだペケロッパカルトのデモ隊が巻き込まれて不幸な死傷者を出していた。　１

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見世物好きな下層市民らの視線と、上空を飛ぶネオサイタマ市警マグロツェッペリンの漢字サーチライトがストリートに注がれる横で、ニンジャ装束を纏った男がネオン街の上を人知れず飛び渡っていた。男の目はズバリ中毒者のごとく血走り、見えない猟犬を恐れるかのように、しきりに後方を振り返る。　２

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男の名はレオパルド。ソウカイヤの末端ニンジャだ。レオパルドはオイランハウスが詰まった５０階建てビルの屋上を走り抜け、燈篭を蹴って、隣のビルの壁へと飛び移る。彼は両腕に長いダイヤモンドチタン製の爪を装備しているため、垂直に切り立った壁でも野生のレオパルドのように巧みに登れるのだ。３

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「ハァーッ！ハァーッ！ハァーッ！」レオパルドの息は荒い。ニンジャとは思えないほど乱れている。背中を晒すのは危険であり、できるだけ速く壁を登り切りたいのであろう。彼の焦燥感を嘲笑うように、灰色の壁から生えたオイラン看板がカトゥーンめいた吹き出しで『寂しい秋な』と警句を発していた。４

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「ハァーッ！ハァーッ！ハァーッ！アアーッ！」焦る気持ちが、レオパルドの手元とバランスを狂わせる。壁に爪跡を残しながら、彼はぶざまに２メートルほど滑り落ちた。直後、カカカカッという鋭角な音！一瞬前までレオパルドの背中があった場所に、四枚のスリケンが突き刺さる！サイオー・ホース！　５

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「呪われろ、呪われろ！」レオパルドは小さく毒づきながら、壁を蹴って飛び降りる。敵はまだ自分を追ってきているのだと解った。日本において４は死を意味する不吉な数字であり、４枚のスリケンには冷徹な殺しのメタファーが込められている。冷や汗が一瞬遅れて掌ににじみ、胃が鉛めいて重くなった。６

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レオパルドは空中で巧みに身をひねり、燈篭のあるビル側の壁に爪で張り付いた。２つのビルの間には、タタミ３枚分程度の距離がある。さらに壁を蹴って反対側のビルへ。また壁を蹴って元のビルへ。爪と脚力を活かした連続ジャンプで、垂直に切り立ったコンクリートメガリスを素早く飛び降りてゆく。　７

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「奴は……奴は何者なんだ……もしかして……もしかして……！」２０階付近で、反対側のビルに手頃なガラス窓を発見したレオパルドは、飛び込み選手のように勢い良くダイブする。ダイヤモンドチタン製の爪によって、強化ガラスはショウジ戸のごとく軽々と破られた。　８

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「アイエエエエ！」突然のニンジャの侵入に驚き、部屋の主が悲鳴を上げる。暗い室内には、全面にＬＡＮケーブルが渡されていた。１００本はある。ケーブルの色も青や赤や白など様々だ。おそらく、部屋の主はハッカーだろう。観察と状況分析を一瞬で行いつつ、レオパルドは前転で着地の衝撃を殺した。９

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割れたガラス片が床に落ちるよりも速く、レオパルドは男に駆け寄る。ダイヤモンドチタン製の爪をＵＮＩＸモニタの放つ緑色の光でぎらつかせながら、脅迫を行った。「高速ＩＲＣ端末を出せ」「アイエエエエ！」男はパニックに陥り失禁するばかりだ。「速くしろ、出さねば殺す！」「アイエエエエ！」10

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男は恐怖のあまり何も喋れないらしく、６本指のひとつで机を指さす。やはりこの男はハッカーだ。タイピング速度を増すため、危険なサイバネ手術を行って指を１本増やしているのだ。机の上にはレオパルドの期待通り、違法改造が施されたスゴイテック社製の最新型ＩＲＣトランスミッターがあった。　11

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「上出来だ」レオパルドは左腕に備わったダイヤモンドチタン製の爪で、ハッカーの心臓を突き刺す。「アイエーエエエエ！！」ナムアミダブツ！　レオパルドはＩＲＣ端末を引ったくると、セキュリティロックのかかったドアを蹴破って部屋を脱出した。　12

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レオパルドは片手で高速ＩＲＣ端末を操作しながら、粉塵の降り積もった廊下を駆け抜ける。ここは廃ビルのようだ。重犯罪刑務所の独房棟めいて、中央部分は階段と吹き抜けになっており、天井は崩落している。時折漢字サーチライトの光が空から差し込み、ハイクじみた神秘的なシルエットを描いた。 13

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風のように廊下を抜け、重金属酸性雨の雨粒に濡れた階段を駆け下りながら、レオパルドはＩＲＣ端末でソウカイ・ネットのデータベースにログインする。自分を追ってきている敵が何者なのか、これで確かめることができるはずだ。　14

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（特徴……奴の特徴…！）レオパルドは３０分前の出来事を思い出す。ニュービーである彼は、エリート部隊であるシックスゲイツからマルナゲされたケチな調査任務のため、スゴイタカイ・ビルの屋上へと向かった。そこで遭遇したのは……ソウカイヤ所属とは思えぬ、ジゴクめいたニンジャであった。 15

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雨の中で互いを認識した後、赤黒いニンジャ装束を着た敵は、不気味なほど静かにオジギをした。そして「ドーモ」とアイサツし、名を名乗った……はずだ。だが彼は敵の名を聞いていない。ウシミツ・アワーの鐘と同時に、敵の片眼が赤く光った。それを見た彼は恐怖に呑まれ、逃げ出していたからだ。　16

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#SOUKAI_NET：SYSTEM_BOT：いつもお世話になっております || #SOUKAI_NET：LEOPARD：ニンジャ検索重点 || #SOUKAI_NET：SYSTEM_BOT：ニンジャの特徴を入力してください、よろしくお願いします ||　　17

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#SOUKAI_NET：LEOPARD：赤黒いニンジャ装束、極めて高い身体能力、猟犬のごとき執念深さ、「忍」「殺」と彫られたメンポで口元を隠している || #SOUKAI_NET：SYSTEM_BOT：検索中です、よろしくお願いします ||　　18

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なかなか検索レスポンスが返ってこない。だが、もう助かったも同然だろう。レオパルドは階段を駆け下りながら、安堵を覚えていた。敵がソウカイヤ所属でないと解れば、ソウカイ・ネットを介して救援を要請できるはずだ。あの忌々しいシックスゲイツの連中が、これほど頼もしく思えるとは。 19

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その時！崩落した天井部分から、赤黒い影が稲妻のごとき速度で飛び降り、暗い廊下を駆け抜けるレオパルドの前に立ちはだかった。そのニンジャは改めてオジギをし、呪わしき名を名乗る。それと全く同じ名が、驚きのあまり床に取り落とされたＩＲＣ端末にも、検索結果として確かに表示されていた。　20

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「ドーモ、ニンジャスレイヤーです」敵は鋼鉄メンポのスリットから蒸気めいた息を吐き出しつつ、無慈悲な声で言い放った。違法薬物シャカリキ・タブレットの摂取で昂ぶったレオパルドのニューロンが、自分がネオサイタマの死神と向かい合っている事を理解するまで、さほど時間はかからなかった。　21

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「ア・カインド・オブ・サツバツ・ナイト」＃1終わり　＃２に続く