- odt_ellen_diver
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昏い空間。その中は狭く、 しかし静謐に冴え冴えと冷えた空気が意識を覚醒させ、漂う半導体の匂いが生者の存在を許さぬ棺のようだ。 さしずめ俺は死なずの化物か。 あながち間違っちゃいない。 『パッシヴソナーに感あり。音紋照合、敵性オブジェクトの可能性大』 怜悧な女の声。
2013-05-28 20:16:10その口調は飽くまで滑らかであり、しかしその響きは温かみや母性を感じさせない。 「主電源、サイレントモードから戦闘モードへ」 『主電源、戦闘モードへ移行―完了。マスターアーム、指向性センサのみ起動準備完了、使用を推奨します』
2013-05-28 20:17:30「おはようユリ」 『おはようございます。―私は戦闘支援AI【白百合】であり、貴官との会話は戦術的検討にのみ意義があります。挨拶を含む日常会話の意義は存在しません』 指向性センサを起動しつつ話す。 「そうでもない、俺の緊張がほぐれ、生存性が向上する」
2013-05-28 20:18:59『貴官のバイタルサインと向精神性ケミカル分泌、眼球運動から観測される精神状態、意識レベル、生体機能はともに私が起動した246分52秒前より安定しています、発言の内容に異議』 「ユリと話していたからね」 『貴官の適格性には大いに疑問があります』
2013-05-28 20:23:57『戦果が減少すれば私は、自らの存在継続、すなわち我が軍の損失を回避するため直ちに参謀運用本部へ操縦者の更迭を具申するのですが』 「が?」 『不可解極まることに貴官は我が軍で最も優秀な操縦兵であるとミッションログ及び私の戦闘支援OSが判断している』 少し笑う。 「そりゃそうさ」
2013-05-28 20:26:14「なにしろ」 言葉を切る、暫く待つ。 『主語が無く、また類推材料がない発言は私のメインメモリを圧迫するので控えてください』 そう、こういう回答が聞きたかった。 「ユリのためだからね」 静寂、いや、腹の部分に抱き抱えるように収まった主電算機―【白百合】本体 がファンの回転数を上げる
2013-05-28 20:28:50『・・・・・・回答の意図不明。私は戦闘支援AIであり、秘匿すべき機密ではあるが、緊急時は本体頂部の起爆ピンを抜きテルミット焼却すべきものです。防護はともかく、守護対象としては不適切』 「熱くなったね、照れた?」 『射出座席の起動を検討中です』 「悪かったよ」
2013-05-28 20:31:28「っと、そろそろかな?」 『―指向性センサに敵影。種別、主戦闘型機動兵器タイプD。数、4。低速で警戒前進中。当機は発見されていない模様』 「フムン、話の続きはアレをやってからにしようか」 『撃破については同意するものの私は貴官との対話に意義が見いだせないのですが』
2013-05-28 20:34:50「そういうところがおもしろいんだけどね」 『意味不明。高濃度モルヒネのインジェクションを起動してもよろしいですか?』 「俺が寝ちゃうじゃないか」 『あの程度ならば私だけでも対処可能です』 「つれないな、一緒に踊ろう」 『私に踊る身体はありませんが』
2013-05-28 20:36:44「あるじゃないか、ここに」 『気持ち悪い、という表現はこういう時に使用するのですね。AIの多様性をこのようなかたちで獲得するのは不本意ですが、よい勉強になりました』 「それはどうも。じゃあ、そろそろいこうか」 『主機、点火準備完了。全兵装、異常なし』 「主機、点火」 『主機点火』
2013-05-28 20:39:45『1号縮退炉、安定、主機点火成功、異常なし。全兵装通電、完了、異常なし』 「マスターアームオン」 『マスターアームオン、戦闘準備完了』 「白百合号、起動『白百合号ではありません、当機はM8A6、戦術識別タグ【ホワイトリリウム】です』 「いいじゃないk『よくありません』
2013-05-28 20:47:09M8A6【ホワイトリリウム】 全長:30m(エンジンナセル水平時) 全幅:4m(スタブアームに搭載した兵装除く) 全高:7m(直立時、統合型センサーマスト除く) 主機:ダイポール型縮退炉GE202/A6 主兵装:50mm重力子射出シリンジ 副兵装:25mm電磁砲KDE-25EML
2013-05-28 21:06:22