第四十六話:今、行くよ。 第四十七話:人魚 第四十八話:鬼
- C_N_nyanko
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夜遅く、友人から電話をもらった。 「もしもし?」 「もしもし」 「今何時だと思ってる。こんな遅くに迷惑なやつ」 「お前のところ行っていいか?」 「バカ、また終電逃したのか」 僕はうんざりしてため息をついた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-02 19:12:07「まあ、すっかり目も覚めたし。起きてる間に来れるなら、僕の部屋に来ていいよ」 そう言って電話を切った。 だけど、何かしら胸騒ぎがしてね。 気になって着信履歴を調べたら、今しがたの着信が残ってなかった。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-02 19:12:31ゾッとしたね。落ち着いてみたら、さっきの奴を誰だと思ったのか思い出せない。 僕は急いで近所の友人に電話して、携帯と財布と部屋の鍵だけ持ってジャージのままアパートを飛び出した。 心臓はひどくバクバクしていた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-02 19:13:08途中で、妙なのとすれ違ったよ。大きく見開かれた真っ赤な目、血を滴らせる白い腕、ボロボロで黄ばんだ歯、ずたずたの服。 振り向くと、そいつは僕のアパートを見上げてにたりと笑って消えた。血が凍ったような気が、した。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-02 19:13:54殺されるところだった、それは明確に直感した。 友人の家に着いても生きた心地がしなくてね、徹夜したよ。 翌朝部屋に戻ってみると、部屋の前に錆びた携帯電話が落ちていた。電池は抜けていて、どこにも発信できない。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-02 19:14:26拾い上げた、そのときだった。 僕の携帯が、鳴った。おそるおそる耳に携帯をあてがう。 「もしもし」 「もしもし?」 昨日と同じ声だ。 「今、行くよ」 動けなくなる僕の後ろに、チン、とエレベーターが到着した。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-02 19:15:17そこから先は、君の想像に任せるよ。とにかく、生きた心地はしなかったね。 僕が最近携帯電話を持ち歩かないのも、深夜に人を家に泊めないのも、実は、こういうわけなのさ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-02 19:16:28大学に入学して初の長期休暇、僕は一人旅に出た。ミステリーツアーってやつに参加して、カメラ片手に行ったことのない地へぶらりと行ってみたんだ。 海の綺麗な、素敵な土地だった。未だに地名は知らないままなんだけどね。 http://commucom.jp/t/fo9FMO #角川小説
2013-06-02 20:32:45それで、旅の二日目のことだったかな。 朝早くに、止まっていた旅館のそばの砂浜を一人ぶらぶら歩いていたんだ。その時、波打ち際で何かがもがいているのが見えたんだ。 ひどい暴れようだったから、急いで駆けつけた。 http://commucom.jp/t/fo9FMO #角川小説
2013-06-02 20:33:25すると、トップレスの美人が転がってた。女は僕の方を見てウミネコの鳴き声をあげたよ。 更によく観察すると、女の下半身は魚だった。ははぁと思ったね。これは、噂に聞く人魚ってやつに違いない。 「僕の言葉が分かる?」 http://commucom.jp/t/fo9FMO #角川小説
2013-06-02 20:33:46訊ねると、女はやはりウミネコの声で答えた。会話にならない。 すると、女は僕を招き寄せた。近づいてみると、首元に唇で触れられた。痺れるようなキスだったよ。 女はそのまま、ふっと掻き消えるようにいなくなった。 http://commucom.jp/t/fo9FMO #角川小説
2013-06-02 20:38:01あとには巨大で不気味な魚が一匹、転がってた。これ以上の関わり合いは持ちたくなかったし、僕はその魚を放って宿に戻った。 朝から刺身が出たよ。 なんだか妙な気がしてね、とりあえず刺身には手をつけないでおいた。 http://commucom.jp/t/fo9FMO #角川小説
2013-06-02 20:39:07あんな魚を見たあとじゃ、食欲もわかないし。 それで、自由時間になってほかの旅行客が宿を出るのを待ってから、旅館の女を捕まえて話を聞いてみた。 「大きな魚が波打ち際にいたんです。あれってもしかして人魚ですかね」 http://commucom.jp/t/fo9FMO #角川小説
2013-06-02 20:39:53すると女は柔らかく微笑んだ。 「ええ、そうです。ここで働いているものは、満月の明けた朝に人魚の肉をいただいて、生きづつけているんですよ」 「へぇ」 どこまで本当で、どこまで嘘なんだか。 http://commucom.jp/t/fo9FMO #角川小説
2013-06-02 20:40:02「先ほどお出ししたのも人魚の肉ですよ。食べれば、一ヶ月は良い体でいられます。でもあなたは、頂かれませんでしたね」 僕は笑ってごまかした。 あとで波打ち際に戻ってみたら、魚を引きずった跡が旅館まで続いていた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-02 20:41:39だからといってどうということでもない。僕は波打ち際の写真を何枚か収めて、ついでにさっきの女と旅館も写真に収めて、帰郷した。 人魚の肉を食べてみればよかったとも思ったけれど、一ヶ月の不死じゃ話にならないしね。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-02 20:42:31今でもその旅館はあると思う。旅館の名前は分からないから、行き方は定かじゃないけれど。 例の旅行会社は今年もミステリーツアーを組むから、気になるなら参加してみるといい。 人魚の肉を、食べられるかもしれないよ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-02 20:45:03数日ぶりに出会った君は、挨拶もそこそこに本題に入った。 「大した話じゃないんだけど、橋の上に女が立ってるらしいって噂が気になって仕方なくてね。兄さんそういうの詳しそうだし、判じてもらえないかと思って」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-03 22:42:15人間のことを話す口ぶりではない。心霊関係だ。 「プロに頼めよ」 「兄さんプロだろ?」 「僕はただの大学生だ」 が、君は取り合わない。 「少し見てくるだけでいいよ。あんまりヤバそうだったらさっさと逃げていい」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-03 22:43:09君は電子端末を起動させて、マップで場所を示した。 「場所はここ、最近じゃあまり交通量もないみたいだし、明日の夜にでも行って見てきてもらえないかな」 言われて示されたのは、繁華街の中にある小さな橋だった。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
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