「独白~新選組隊士たちのつぶやき 第四章 山南敬助~明治元年十月~天上から
お待たせいたしました。 「独白~新選組隊士たちのつぶやき」第17回 第四章「山南敬助~明治元年十月~天上から」第1回 ゆるゆると始めていきたいと思います。 #試衛館の青春
2013-05-30 18:06:04四章前文 元新選組総長山南敬介は、元治二年二月志半ばで斃れた後、天上からずっと仲間達を見守りつづけていた。試衛館の仲間たち、特に、近藤勇と新選組の全てを託してきた土方歳三のことが気がかりだったのだ。 #試衛館の青春
2013-05-30 18:07:22鬼の副長、仏の総長。土方とは表向きは対立を装った。だがその実、二人で力を合わせて局長近藤勇を盛り立てて新選組を形作った。 #試衛館の青春
2013-05-30 18:08:12土方は自分より優れたものを持っている。そう山南は思っていた。 自分より優れたもの、それは知恵と勘だ。知識は自分の方がある。しかし、いざという時に役に立つのは、知識よりも知恵と勘だと思う。 #試衛館の青春
2013-05-30 18:08:52そしてもう一つ、山南が土方にかなわないと思っていること、それは無私。私が無いこと。近藤勇のため新選組のためならどんなことでもやれることだ。 #試衛館の青春
2013-05-30 18:09:38誰よりも仲間のことを思いやる土方が、新選組の闇の部分を全部引き受け、嫌われ役・憎まれ役に徹するには、相当な忍耐が必要なことを、山南はよく知っていた。しかし、土方は誰にも弱音を吐くことなく鬼を演じ続けていた。 #試衛館の青春
2013-05-30 18:10:21天上では、一部始終が見渡せる。 山南は、生きているときは見たことが無かった土方の辛苦を目の当たりにすることができた。それに一人耐えている二歳年下の土方を素直に尊敬した。 しかし、また、それはなんとも痛々しかった。いじらしかった。 #試衛館の青春
2013-05-30 18:11:12何故か、山南の脳裏に、沖田総司・藤堂平助・斎藤一の三人を従えて良からぬ所へ出かけようとしている試衛館時代の土方の姿が浮かび、そして、それを見咎められて、神妙な顔で自分に叱られている土方の姿が浮かんだ。 #試衛館の青春
2013-05-30 18:12:19今、山南は、斎藤と別れひとり最後の戦いの地に向う土方に、労いと感謝、そしていとしさを込めて、語りかける。 勿論、その声は土方には聞こえない。 いや、ひょっとしたら聞こえるかもしれない。そう、多分聞こえるだろう。遠い北の海鳴りに混じって。 #試衛館の青春
2013-05-30 18:13:18第四章 山南敬介 ~明治元年十月 天上から~ とうとう一人になってしまいましたね、土方君。 斎藤君を置いてきたこと、正解だったと思います。 彼は若い。新しい世の中で、どんな未来が待っているか・・・。 #試衛館の青春
2013-05-30 18:14:59総司、平助がこちらに来てしまった今、彼だけは、こちらに連れてくるべきではない、私もそう思いますよ。 #試衛館の青春
2013-05-30 18:16:52本当を言うとね、土方君、私は、君にも、まだまだそちらに居て欲しいと思うんですよ。新しい世の中に、君がどう対応して生きて行くか、見てみたい気がするんです。 #試衛館の青春
2013-05-30 18:17:35そんなこと言ったら、君は怒りますか? そうですよね。君に全部任せて、君を悪者にして、さっさとこちらに来てしまったのですから。 #試衛館の青春
2013-05-30 18:18:35本当に君には、貧乏くじをひかせてしまった。 鬼の副長ですか・・・。君ほど思いやりのある人はいないのにね。 #試衛館の青春
2013-05-30 18:19:29近藤さんを盛り立て、新選組を、御公儀のため、日本のために役に立つ組織にする。それが私達二人の役目でした。 鬼の副長、仏の総長、この役割分担は、別に話し合ったわけでもなく、何時の頃からか、自然に出来あがっていましたね。 #試衛館の青春
2013-05-31 18:01:21公平で誠実な近藤さんを頭に戴いて、君が隊士たちを厳しく取りしまり、私が少し甘やかす。 そして、仕事では、近藤さんの意を汲んで、君が大きな方針を立て、私がそれに沿って事務的処理を行う。 #試衛館の青春
2013-05-31 18:02:08自分で言うのもなんですが、私達三人、組織を動かしていく上で、ほんと、最高でした。 #試衛館の青春
2013-05-31 18:02:53大変でしたけど、面白かった。 もっともっと、君と組んで仕事がしたかった。 #試衛館の青春
2013-05-31 18:03:44今から思うと京での新選組の唯一最大の見せ場だった池田屋襲撃に、私は、夏風邪をこじらせて高熱を出して寝こんでいて、参加出来ませんでした。くやしかったなあ。早く治して、今度こそと思った蛤御門の変にも、結局体調が悪くて、屯所の守りがやっとだった。 #試衛館の青春
2013-05-31 18:04:45あの頃から、胃の腑が時々痛み、剣を振るのさえ辛くなっていました。 君は、そんな私を気遣って、第一線から外してくれた。 #試衛館の青春
2013-05-31 18:05:54でも、それを、君が、意見の合わない私を閑職に祭り上げたんだという者がいて、そうすると、それに賛同して、君を非難する者も多かった。 #試衛館の青春
2013-05-31 18:07:02君も君です。何も言わないものだから、私がどんなに否定しても、君をかばっているととられてしまった。 でも、それが君の思う壺だったのかもしれませんね。 誰一人として、君と私の対立が、仕組まれたものだと気付いた者はいなかったのですから。 #試衛館の青春
2013-05-31 18:07:59いや、斎藤君、ピン、彼だけは気付いていたかもしれません。 永倉君たちの事件の時、彼を間者として使ったでしょう。あの時、私達の関係に気付いたらしいのです。あの後、私達がいくら激しく対立しても、彼だけは平気な顔をして何も言わなかった。 #試衛館の青春
2013-05-31 18:08:48まあ、もともと口数の少ない子でしたけどね。 でも、それまでは、私達二人が言い争うのを、心配そうに見ていることがありましたから。 #試衛館の青春
2013-05-31 18:09:46総司と平助は、面白かったなあ。 何も知らないで、一所懸命私たちの仲を取り持とうとして、さんざん気を揉んで、走りまわっていた。 見ていて気の毒になってしまいました。 でも、あの二人には申し訳ないが、面白かった。 #試衛館の青春
2013-05-31 18:11:24