「独白~新選組隊士たちのつぶやき 第三章 土方歳三~元治二年三月~光縁寺にて」
「独白~新選組隊士たちのつぶやき」信頼編 まず第3章「土方歳三~元治二年三月~光縁寺にて」 ここで山南さんの脱走の真相が語られます。 試衛館の青春で、こんなに仲の良い二人が何故? 疑問を持たれた方が多いと思います。 その謎が明かされます。 #試衛館の青春
2013-05-26 10:49:44お待たせいたしました。 「独白~新選組隊士たちのつぶやき」第13回 第三章「土方歳三~元治二年三月~光縁寺にて」第3回 ゆるゆると始めていきたいと思います。 #試衛館の青春
2013-05-26 18:59:10山南さんは、当惑している俺に、いつもの穏やかな笑顔を向け、諭すような口調で話し始めた。 「去年の永倉君達の件で、葛山に腹を切らせたこと、隊士達の間で、まだ、不満が燻っているのを、君は知っていますか」 #試衛館の青春
2013-05-26 19:01:52「新八つぁんと左之介、それに島田と尾関には、後で、奴が長州の間者だったってことを打ち分けて納得させたし、斎藤は、はなっから承知していた事じゃないですか」 「事に加わった五人のことではありません、他の隊士の間でです」 「と言うと・・・」 #試衛館の青春
2013-05-26 19:02:53「あの件の首謀者は永倉君、それはみんなの知っている事です。なのに、切腹したのは葛山ただひとり。他の者は謹慎だけでした。おまけに、謹慎のとける前に、永倉君は近藤さんについて江戸へ下っている。 #試衛館の青春
2013-05-26 19:04:18隊士達の間では、法度も上の者たちの匙加減でどうにでもなる、そういう空気が広がっている。ということです」 #試衛館の青春
2013-05-26 19:05:16「気付きませんでした」 「甘かったのですよ。土方君。永倉君達の不満の解消と、長州の間者の始末。一石二鳥、いい手を思いついたと思ったんですが・・・」 「そうですね。でも、その件と、今度の件と、どんな関係があるのですか」 #試衛館の青春
2013-05-26 19:06:23「土方歳三ともあろう者が、解らないのですか?いいですか、土方君。私は、新選組の総長です。その私が脱走する。そして、追手につかまり帰って来る。法度では切腹です。でも、隊士の中には、どうせ今度も謹慎ぐらいでお茶を濁すんだろう。そう思う者も多い筈です。 #試衛館の青春
2013-05-26 19:07:35そこで、私が腹を切らされる。法度には一切の例外も認めない。これを証明するのに、こんないい手はないじゃないですか。そして、そのどさくさに、西本願寺借受の話を進めればいい。 #試衛館の青春
2013-05-26 19:08:45こう言っては何だが、多くの隊士は単純です。決まってしまえば、広々としたところのほうがいいに決まっています」 「ばかな、そんなことで、腹を切るなんて」 #試衛館の青春
2013-05-26 19:10:14「烏合の衆の新選組がここまで来れたのは、厳しい法度で自らを律してきたからです。その法度を用いるのには、一切の妥協も例外も許してはならない。それは、君が常々言っていたことじゃないですか」 #試衛館の青春
2013-05-26 19:11:30「それはそうですが・・・」 「去年の件の絵は私が描いた。責任をとらせて下さい」 「それを言うなら、俺も同罪です」 #試衛館の青春
2013-05-26 19:12:35「土方君・・・。もう、私は新選組の為になにもする事はできない。最後のご奉公です。私に有意義な死場所を与えてはもらえませんか」 「山南さん・・・」 #試衛館の青春
2013-05-26 19:13:21山南さんの口調は、あくまでも、静かだった。 なぜかその時、俺は、試衛館に居た頃に、女のことでバカやって山南さんに説教されている自分の姿を思い出した。 その頃、俺は、しょっちゅう山南さんに説教されていた。 #試衛館の青春
2013-05-26 19:14:20山南さんは、声を荒げる事無く、微笑さえ浮かべ、俺を諭した。 山南さんの言う事は、いつも分別くさい大人の正論だった。正論すぎてばかばかしくなるほどの正論だった。女のことに関しても、まるで、枯れ果てた老僧のような言を吐いた。 #試衛館の青春
2013-05-26 19:15:02この人、この歳で、恥かしげもなく、ジジイみたいに、こんなまともな事がよく言えるなあ。 そう思いながらも、不思議に腹は立たず、俺は、たった二歳だけ年上のじいさんに、黙って神妙に叱られていた。 #試衛館の青春
2013-05-26 19:16:03だが、このときは、このときばかりは、絶対、俺の方が正論だった。 しかし、俺は、なにも言えなかった。 隊士達の前でのケンカごっこでなら、あんなに激しくやりあえるのに、素で山南さんの前に座ると、なぜか、俺は、殆ど逆らえない。 #試衛館の青春
2013-05-26 19:17:08この時も、俺は山南さんの静かな微笑を前に、だらしなく黙ってしまった。 勿論、納得したわけではない。 なんで、そんなことで、山南さんが腹を切らなければならいんだ? ばかばかしい。 #試衛館の青春
2013-05-26 19:17:59去年の一件。 永倉新八、原田左之介、斎藤一、島田魁、尾関雅次郎、葛山武八郎の六人が連名で、会津侯に近藤さんの専横を非難する建白書を提出した。 #試衛館の青春
2013-05-27 18:06:05新選組も大きくなった。最初十三名で始めたものが、百名をゆうに超えた。 組織が大きくなると、いろんな奴が入ってくる。 近藤さんの別け隔てのない隊士への接し方、それはそれで美徳なのだが、それも時と場合、そして人にもよる。 #試衛館の青春
2013-05-27 18:07:09比較的新しい、武田観流斎や谷三十郎などが、軍師として、また縁戚として近藤さんのそばで大きい顔をするのは、旗揚げ当時から居る者にとっては、面白くなかったのだと思う。 #試衛館の青春
2013-05-27 18:08:29また、近藤さんも決して悪気はないのだが、池田屋以後、京での新選組の位置がしっかりして、世間の見る目も違ってくると、隊士達を家臣のように扱う事があった。 新八つぁん達にしてみれば、 「俺達は同志だ。近藤さんの家来ではない」 そういった気持ちがある。 #試衛館の青春
2013-05-27 18:09:14一つ一つは小さい事だが、それらが重なり、近藤さんへの不満となって爆発寸前の状態になっていた。 #試衛館の青春
2013-05-27 18:10:19山南さんと俺は相談した。 「いっそ、爆発させますか」 俺が言うと、山南さんも同意した。 「そうですね。でも、そうすると後が・・・。何らかの処分が必要になる」 「それなんですよ。まさか、新八つぁんに腹を切らせるわけには・・・ね」 #試衛館の青春
2013-05-27 18:11:33「何かいい手はありませんかね」 「一つだけ・・・。監察の報告で、長州の間者が一人潜り込んでいる事が解りました。葛山武八郎という奴ですがご存知ですか」 「ええ、顔くらいは・・・。問題は、どうやって彼等の仲間に入れ、責任を負わせられる位置にもっていくかだ」 #試衛館の青春
2013-05-27 18:12:41