【世界の果ての汚い部屋】福間健二 2factory35

武蔵小金井で朗読をしたあと、小山伸二さんに、タイトルなにかいいのないかなと尋ねたら、いくつか「部屋」の出てくるものをだしてくれた。そこから「世界の果ての汚い部屋」を思いつくまでの一晩が記憶からとんでいる。スコットランド民話「世界の果ての井戸」のことを思い出したのは、4か5くらいまで進んでから。途中、舞台がマケドニアになったのは、マザー・テレサの故郷であることよりも、実際にその首都スコピエの市場で、東洋のはずれでもあり西洋のはずれでもあるような「世界の果て」を実感したことがあるのを思い出したから。ぼくは、ポルトガルのリスボンのことを自分にとって身近な「世界の果て」だと書いたことがあるが、スコピエはもうすこし本格的に「世界の果て」だ。7~9は、大阪の十三で書いた。そこにも「世界の果て」を感じさせるものがあった。 続きを読む
2
福間健二 @acasaazul

状況は、絶望的。モテないやつはひたすらモテないし、モテるやつもモテたいところではモテなくて、どうでもいい相手を食いちらかしている。果物をつむ。食べるのはそんなもの食べあきたというママハハだ。片付けなさい。あんた、自分を片付けなさい。(世界の果ての汚い部屋1)#2factory35

2013-05-27 08:53:09
福間健二 @acasaazul

元気よく、自信ありげに、きょうの現場。効果のなさそうな誘惑の雨を降らせるアシスタントが用意した線の上、難問中の難問につきあたる「悲しい顔」の演技。こわれた傘の骨。ふたりだけになったら手首を洗いあい、お昼はまたカレーライスかタンメン?(世界の果ての汚い部屋2)#2factory35

2013-05-28 08:44:03
福間健二 @acasaazul

きみの母さん、きみを殺した。きみの父さん、きみを食べた。白い鳩になって飛ぶはずだったその骨をアクセサリーにして歩くきみの妹の愚かさと縫い目のほどけたスカートに欲情するぼくを殺して食べてくれるのは、どんな「悲しい顔」のカップルだろう。(世界の果ての汚い部屋3)#2factory35

2013-05-29 07:49:18
福間健二 @acasaazul

「悲しい顔」で気を引こうとするな。イエスも太宰治も言ってるのはこのこと。では、いばらの道を歩いても、膝から下、黒い靴の命令を拒否してたどりつくマケドニア、歌姫たちとマザー・テレサのあいだに立つ塔から落ちてこい、予言者のなりそこない!(世界の果ての汚い部屋4)#2factory35

2013-05-30 08:59:05
福間健二 @acasaazul

見る。自分が自分でなくなって。感じる。一回死んだ者として。迷い込んだスコピエの古い市場、いびつな影に走られている夕暮れ。何ダースものテレサの並ぶ屋台の下でさっきからガチャガチャ鳴っている貝たちの正体は、だれの涙、だれの盗まれた人生?(世界の果ての汚い部屋5)#2factory35

2013-06-05 08:52:38
福間健二 @acasaazul

ある日は使用料、ある日は仲介料、ある日は誘惑料、ある日は罰金。請求書はどうとでも書けるが、ポン、ペン、プン! ピンで刺した「心の牧場」をしまった箱の上を、焼きたての、本当のことを言うパンが逃げていく。二度と来ないわよ、おバカさん!(世界の果ての汚い部屋6)#2factory35

2013-06-01 09:09:44
福間健二 @acasaazul

このさびしい手、この痣、重力に負けているからではない。市場の裏、黄化病のひろがる葉におおわれた一台の発電機のそばで、ひとりのとても臆病な男に会う。彼の言葉、彼のおそれている世界に耳を傾けよう。それから、ゆっくりと彼を葬ってやるのだ。(世界の果ての汚い部屋7)#2factory35

2013-06-02 10:44:26
福間健二 @acasaazul

そうだ、言ったとおりだろう。男は、逃げられない。荷物は消えない。スランプ、スランプ! 悩みごと、終わらない。縄と磁石の力が、二十世紀のつるまき草が、赤んぼうを抱いたアレクサンドラが、悲しい歌をうたいつづけて。排水管をつまらせて。(世界の果ての汚い部屋8)#2factory35

2013-06-03 10:06:12
福間健二 @acasaazul

でも、深刻顏もニヤニヤ顔も追放だ。ハンシンでもハンキューでもない反逆電車、ミステリートレイン。若い市長たちを追いちらして、地面になにかポタポタ落としながら。セーターの下は裸の「世界の果て」の蜜。忘れることにしたのを忘れてしまった。(世界の果ての汚い部屋9)#2factory35

2013-06-04 09:10:22
福間健二 @acasaazul

つまり、思い出した。好きな人と、その人のためにした決定的なあやまち。荒地と荒地、溝と溝のあいだの、唾をかけられた赤いランプ。井戸は涸れていた。さて、この部屋だ。どうきれいに? まず、うろこにおおわれた首だけの男たちを洗ってからだ。(世界の果ての汚い部屋10)#2factory35

2013-06-05 08:45:40