山本七平botまとめ/多数者たる「民」の沈黙と盲従/自らへの統治力を失い、テロと無秩序に支配されたイスラエル

山本七平著『存亡の条件――日本文化の伝統と変容――』/第二章 民族と滅亡/多数者たる「民」の沈黙と盲従/81頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①【多数者たる「民」の沈黙と盲従】前略~とはいえこれは紀元前四年のことであり、彼らの減亡にはまだ70年の日時があった。 従ってこれまで記したことは、その詳細な死亡診断書『減亡について』の前文、いわば前駆的な症状にすぎないといえる。<『存亡の条件』

2013-06-02 16:57:54
山本七平bot @yamamoto7hei

②しかし、この減亡病の内実そのものには、以後、別に変化はなかった。 ただ症状が一歩一歩と悪化しただけである。 勿論ほんの三年ほど、不思議ともいえる小康状態もあった。 ヘロデ・アグリッパ一世の時代(紀元41―44年)である。 だがそれ以後は、着実に破減へと進んでいった。

2013-06-02 17:27:44
山本七平bot @yamamoto7hei

③やがてファリサイ派から生まれた過激派が、いわばファリサイ的共産党を偽善と断ずるファリサイ新左翼が主導権を握る。 ローマの支配下にある政府を悪と断じ、これへの被統治意識を拒否するなら、それが目の前に存在する事を黙視すべきでない、いう結論が大勢を制する事は…時間の問題にすぎない。

2013-06-02 17:57:52
山本七平bot @yamamoto7hei

④そして、この結論に正面から対抗してはっきりこれを否定し 「政府へ対してのみ被統治意識をもて――政府に忠誠を捧げよ」 とは、もうだれもいえない。 当然であろう。 今の今まで、悪として批判されつづけた対象なのだから――。

2013-06-02 18:27:46
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤だが現実に「カイサル」から、ローマ経済圏から離れることはできない。 餓死と死滅を覚悟しない限り。 従って人々は、その言葉を否定せず、といって実行できず、ただ逡巡し、その言葉と現状とを何とか合理的に結びつけようとする。 しかしその時には、それはもう偽善としか映らない。

2013-06-02 18:57:50
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥そして偽善は、殺害・抹殺の対象でしかない。 従ってそのテロは、いわゆる「ローマ帝国主義」の手先にだけでなく、彼らを育てたかつての穏健な同志にも向けられていく。 同時に、同じ過激派内の、意見の違う別のセクトヘも向けられていく。

2013-06-02 19:27:43
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦そして多くの者は、自らへの統治力を失い、テロと無秩序に支配される自国に絶望して国外に去っていく。 そして、その結果、対ローマ決起、鎮圧、全滅がわかっていても、だれにもこれをとめることはできなくなる。 当然である、 どうしてとめ得よう。

2013-06-02 19:58:07
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧前述のように緒戦に不幸な″大勝利″があった。その為、どうしても消えなかったマカバイ「興国史談」「経国美談」が新たな力を得て再燃する。しかし、滅亡は着実に一歩一歩と近づいてきた。空だのみの東方からの救援などはもとより来ない。

2013-06-02 20:27:49
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧前述のように緒戦に不幸な″大勝利″があった。 その為、どうしても消えなかったマカバイ「興国史談」「経国美談」が新たな力を得て再燃する。 しかし、減亡は着実に一歩一歩と近づいてきた。 空だのみの東方からの救援などはもとより来ない。 70年にエルサレムは陥落して廃墟となった。

2013-06-02 20:57:48
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨しかし過激派の一部は、前述のように南部のマサダの砦に逃れ、ここでなお三年間抵抗した。 そして、いよいよ最期が来て、前述のような形での集団自殺を決意しようとしたとき、最後の指導者エレアザル・ベン・ヤイルは次のように言った、とヨセフスは記している。

2013-06-02 21:27:46
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩「高邁なる友よ、以前われわれは、絶対にローマ人の召使にならず、唯一の義にして真なる人類の主である神自身以外の、何びとの召使にもならないと決心したのだから、今こそその決意を実行して、現実に行うべきときだ。」

2013-06-02 21:57:52
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪「かつてわれわれは、危険が伴わなくても奴隷になることを甘受しなかったのに、今になって、奴隷にされた上なお耐えがたい処罰を受けるという矛盾をおかした、という非難を受けない道を選ぼうではないか……」

2013-06-02 22:27:46
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫これらの言葉、またこれにつづく言葉は一種、殉教者的高貴さを示している。 それは否定できない。 だが忘れてはなるまい、 これを書いているのは、ヨセフスその人だということを――。

2013-06-02 22:57:53
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬この人たちは、はじめから少数者だったことを。 ただ多数者は沈黙と盲従とをせざるを得なかったことを。 ここに滅亡があったのだ、 そしてこれが「死亡診断書」の結びの言葉なのである。

2013-06-02 23:27:46