濱口竜介の「はじめのことば」 ④「聞く」ことについて(下)

今年(2013年)9月より開催される「即興演技ワークショップ in kobe」にあたり、映画監督濱口竜介が、演技をする上で重要の1つだとだと考える「聞く」ことについて、後半のツイートをまとめました。
0
濱口竜介 @hamryu

おはようございます。今日も「即興演技ワークショップ in Kobe」(http://t.co/bJgd9LETDm)のお題である「聞く」について。多少長くなりますが、ご容赦ください。段々と短くして行くつもりなのですが、大事なとこではあるので。

2013-06-12 05:31:14
濱口竜介 @hamryu

「聞く」ことの力について実感したのは、東北で『うたうひと』という民話語りの記録映画を撮ったときです。『うたうひと』に記録されているのは民話の「語り手」たちであるのはもちろん、その語りを40年の長きに渡って引き出し続けている小野和子さんという「聞き手」にもカメラを向けています。

2013-06-12 05:31:59
濱口竜介 @hamryu

真摯な聞き手を得た語り手が、いかに大胆に、自由に振る舞うかということについては是非『うたうひと』をご覧いただきたいのですが(http://t.co/amquPilf1y)、印象に残ったのは小野さんが車での移動中に仰った「聞くっていうのは話すより何倍も疲れること」という言葉です。

2013-06-12 05:33:24
濱口竜介 @hamryu

誤解を避けるべく言いますと、小野さんは自身も講演などをされる1人の語り手として、「聞く」ために費やす集中力が「話す」ことの比ではないことを仰られたわけです。ただ、「聞く」のが「話す」のより疲れる理由は、小野さんの聞き方、相づちの打ち方の特質にもあると、撮影しながら思ったものです。

2013-06-12 05:35:35
濱口竜介 @hamryu

その一言を聞き漏らさずに、相手の発言を否定することなく(自分も曲げず)、ひたすら次の言葉の訪れを促すための、待つための言葉を投げる。どこに球が飛んで来るかわからない状況で、どんな球でも受けては返すことを自分に課している。小野さんを見ていると「千手観音」みたいなイメージが湧きます。

2013-06-12 05:38:52
濱口竜介 @hamryu

ただ、小野さんも齢80近い1人の人間ですから、当然疲れるわけですね。一方で撮影終了後の語り手たちが、まだ語り足りないとばかりに力をみなぎらせていたことも思い出されます。真摯に「聞く」態度が、いかに人を勇気づけ、力づけるかという当たり前と言えば当たり前の事実をまざまざと感じました。

2013-06-12 05:40:10
濱口竜介 @hamryu

ここで少し、小野さんの講演の文章から引用します。山形に住むおばあちゃんは小野さんの前で、目を閉じて自分の伝え聞いた昔話を語って、こんなことを言います。「おれの話、こんなにいいもんだったかってときどき、うっとりすることがある」。このことを小野さんは以下のように捉えます。

2013-06-12 05:41:09
濱口竜介 @hamryu

「つまり、今まで自分が語ってきた話を、そんな風に客観的に考えたこともないし、好きだとも嫌いだともあんまり思わないで来たのにそこに聞くためだけに来ている人がいて、そして、語るためにだけ語る場が設けられたときにおばあちゃんはまじまじと、自分が伝承して来た昔話に初めて対面した→」

2013-06-12 05:42:53
濱口竜介 @hamryu

「→んじゃないかと思うんですね。(中略)目をつむって語りながら、おばあちゃんはある意味、自分のために語っているんですよ。語るために語っているんですね。こういうところに語りが到達することができたらなあ、と思わずにいられません」(「民話の面白さ、つよさ、ふかさ」より)

2013-06-12 05:44:06
濱口竜介 @hamryu

小野さんが言う「自分のための語り」とは、単に自己表現としての語りとはどうも違って(小野さんはそういう語りを一番嫌ったりします。厳しい方でもあるのです)、自身を先祖から受け取った昔話に捧げるような「語りのための語り」でもあります。「自分のため」と「語りのため」が一つになる境地ですね

2013-06-12 05:49:53
濱口竜介 @hamryu

仙台で、ひたすらインタビューや民話語りのテープ起こし作業を共同監督の酒井と二人でやってました。そのとき気づくのは、聞かれることによって現れてくる独特の声のトーンです。迷いや怖れを感じさせない非常にクリアな音質で、音量の大小に関わらずとても聞き取り易い音だったりします。

2013-06-12 05:52:55
濱口竜介 @hamryu

「語りのための語り」において現れる声を、僕は例えばそういう声として想像します。そして、現在興味があるのは、そういう声をフィクションにおいて、演技において聞くことは可能か、ということです。それはカメラの前で「普通に会話をする」ことは可能か、という先日の問いともつながる気がしてます。

2013-06-12 05:54:45
濱口竜介 @hamryu

やっている(やろうとしている)ことをできるだけわかり易く説明したいだけなんですが、混迷を深めている気もしつつ今日はこの辺で…。明日は「即興」もしくは「話す」ことについて少し。取り繕いようもなく宣伝ではあるわけですが、それこそ誰か聞いててくれたらいいな、という気持ちでおります。

2013-06-12 05:55:19