オレの妹がカリフなわけがない！#20-21

カリフラノベ『オレカリ（略称）』 @caliphnovel

「オレの妹がカリフなわけがない！」 #２０

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あいつがカリフになってからも、君府学院には、旧校舎の廊下が塵一つなく綺麗に磨き上げられた以外には目立った変化はなく、平穏な日々が続いていた。 しかし、その裏では、新校舎の最上階を占める演劇部の部室ではカリフ制打倒の陰謀が練り上げられていたんだ。１

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「ブロンズクラスの垂葉如きではあの女には歯が立ちません。あの日は衣織のまさかのパフォーマンスに呆気にとられてしてやられましたが、本来なら無碍様のカリスマに、学院のアイドルのこの私の応援があれば、あいつのリコールなど容易いことです」 演劇部副部長の藤田が部長の石造無碍に言った。２

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「リコール？そんなダサいやり方はこの私に似合わない。それよりも面白い座興を思いついた。 もともと学校の生徒会長になるのは世界征服への第一歩のつもりだった。そこであいつがカリフ就任なんて訳の分からないことを言い出してくれたおかげで、私も野望を口にし易くなったと思わないか？」３

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「いや、いかに私でも生徒会長は世界皇帝へのワンステップ、と言い出すのは厨二病みたいで少し恥ずかしかったのだ。そこに好都合にも、あいつが身の程知らずにカリフなど名乗ってくれたわけだ」４

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「おかげで、あいつをダシにして、世界の支配者に相応しいのはあの厨二病ではなくこの私だ、と愚民どもにも自然に分からせることができるようになったじゃないか」 「さすが無碍様、常人には考えの及ばぬセコさです！」 「そして次の学園祭で私がカリフを倒して世界皇帝になる活劇を上演するのだ」５

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「おお、演劇部部長の地位を悪用して生徒会長を陥れるとは、まさに卑劣さの王道！」 「そしてそのカリフ役にはあいつ自身にやってもらう」 「世界皇帝に倒される敵役をあの女自身にやらせるとは、なんたる鬼畜の発想！ぅん？でもあの女そんな役やりますか？そもそも演劇部員でもないし」６

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「ふふん、それには秘策がある。あの出来損ないの兄を餌におびき出すのだ」 「エサ？」 「そうだ。落第点続きで退学、放校の危機にある兄をこの劇に出し、部活の評価で内申書を上げて学校に残らせてやると持ちかけるのだ」 「なるほど、人の弱みにつけ込むとは、あくまでも汚いやり口！」８

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「…しかしあの男が引き受けますか。この前、あれだけ妹にボロボロに言い負かされて。それにあの深海の海底に張り付いた平目のように目立たないヤツが学園祭の大舞台に立てるとは思えませんが…」 「この前はあの出来損ないが独りでやったから失敗したのだ。今度は我々がついている、と言えばいい」９

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「さぁ、行ってあいつを籠絡してくるのだ」 　というわけで、演劇部副部長藤田波瑠哉が学園のアイドルに相応しい極上の作り笑いを浮かべてオレの教室に現れたというわけだ。１０ （#２０終わり　#２１に続く）

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「オレの妹がカリフなわけがない！」 #２１

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藤田波瑠哉は天才子役として国民的アイドルであったのを、石造高遠理事長が石造財閥企業グループの専属CMモデル契約を結び、君府学院の広告塔としてプラチナクラスの特待生にスカウトしたのだ。昔の天才子役は今やスラリとした長身の絶世の美青年。演劇部のスター、学院のアイドルだ。１

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藤田が天才である所以は演技力ではない。いや、演技力はまるでないと言ってよい。しかし百％作り笑いと分かってなお、万人を魅了するその極上の笑顔は誰にも真似のできない天才の技だ。その藤田が極上の笑顔で教室にやってきて猫なで声でオレに言った。「天馬君、放課後演劇部室に来てくれるね」２

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前回の呼び出しとは違う。アウトカーストのオレがこともあろうに学院のアイドル藤田からあの極上の笑顔を向けられたことへの教室中の差すような冷たい視線に耐えて、授業が終わって逃げるように教室を後にしたオレに、しばらくしてミクが全力で追いすがってきた。３

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「あんた独りで何してるのよ！？」 「オレは何時だって独りだ！」 「また独りで波瑠哉様に会い？に行くつもりね」 「独りで行かない理由がどこにある？それにあいつに会いに行くんじゃねぇ、演劇部長に呼び出されただけだ！」 「私が波瑠哉様と仲良くなれるせっかくの機会を見逃すつもり？」４

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「その文章変じゃないか？！見逃すの主語はオレの筈だろう？！」 「あんた垂葉の分際で文章の主語になろうなんて百年早いのよ！」 「文章の主語にもなっちゃいけないの、オレ？」 「主語にして欲しかったなら、私をさっさと演劇部室に連れて行って」 「でも呼び出されたのはオレだけだし…」５

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「独りじゃ迷子になるから付いて来てもらった、って」 「どこの幼児だよ、オレは？！」 「小学校3年生の時に算数の宿題忘れたあんたにノート見せてあげた恩を忘れたの？」 「忘れたよ！そんな昔の話は、っていうか、１５年の付き合いで、売れる恩がそれしかないのか、お前？」６

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「じゃぁ、この１５年で他に誰かあんたに手を貸してくれた人がいた？」 「…え～ぇ～っと…えぇ～、本当に誰もいないの、オレ？！」 「分かった？分かったなら、おとなしく連れて行って、私は独りでは何もできないので保護者の越誉さんを連れてきました、って言うのよ」 「いや、それは勘弁」７

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などという会話をしている間にオレたち演劇部室に着いた。 演劇部室は、演劇部に入部した無碍のために理事長が部室として建てたシドニー・オペラハウスを模した豪華な大講堂であり、その場所を学院で知らない者はない。８

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理事長の息子で石造財閥の御曹司の無碍が部長、国民的アイドルの本職の俳優の藤田が副部長を務めるこの超セレブな演劇部に入部する勇気のある者はプラチナクラスにすらおいそれとはいない。ましてやブロンズクラスの生徒にとっては、演劇部は近づくのも気圧される高嶺の花だ。９

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部室の前に着くと、メクも先ほどまでの威勢の良いお喋りが嘘のように黙ってしまう。緊張のせいか顔色も少し青ざめてみえる。 勇気を振り絞ってオレが部室の扉を開けようとすると、扉が内側から開いた。 そこには、１００％作り笑いの極上の笑みを浮かべた藤田の顔があった。「ようこそ演劇部へ」１０

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ミクに一顧だにせず、百％作り笑いの極上の笑みで藤田はオレに向けて言った。 「さぁどうぞ、天馬君。部長は天馬　君をお呼びですよ」 オレには後ろにいるミクの血の気を失った顔、震える身体がはっきりと脳裏に浮かんだ。 オレは思わず口にしていた。「越誉さんが行けと言うから僕は来たんだ」１１

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「部長に呼ばれた。…　しかしここに来たのは、越誉さんが来いと行ったから…　ねぇ」 藤田は百％の作り笑いでニッコリと微笑むと、我々に背を向けて歩き始めた。 オレはミクの震える手を握りしめて黙って藤田の後を追った。１２ （#２１終わり　#２２に続く）

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ご指摘で確認したところ間違えて消してしまったようです。思い出そうとしましたが、思い出せず書き直しました。なんだかもっと名作だったような…記録している方が居たら教えて下さい。m(_ _)m→ @raizoh1966: @caliphnovel 4と6が見当たらないです…(T_T)