ダークサイド・オブ・ザ・ムーン #5
(あらすじ:極北の地ドサンコで怪事件が多発。TVノイズから黄金立方体存在を読み取る少女、大規模な都市ハッキング、事件記者の死体、暗躍するハッカーカルト、そしてアマクダリ。カルトのアジトに潜入したナンシーは、かつての導師から遠隔ハッキング攻撃を受け生死不明に!敵の狙いは果たして?)
2013-06-10 21:05:35ZZOOOM……黒い流線型の機体が月明かりの下で大変素晴らしい急加速を見せた。昨今この一帯で目撃情報が囁かれたUFO存在の正体……それはオナタカミ社がアマクダリに提供した試作ステルス輸送機「ナイミツ」である。キルナインを空中投下したのもこの輸送機だが、彼はもはや爆発四散した。 1
2013-06-10 21:13:06そして今、吹雪の中を飛ぶナイミツの下腹部に水平姿勢で捕まったままIRC通信を行う者あり!「そうだ、キルナイン=サンは死んだ。ニンジャスレイヤーに殺されたのだ」人間業ではない。彼女はニンジャである。「ケジメする気はない。貴様らが愚鈍なバイオ水牛のようにモタモタしているからだ!」 2
2013-06-10 21:20:21黒い軍服ニンジャ装束を纏うその女ニンジャの名は、ダイアウルフ。暴力沙汰で湾岸警備隊を追放された元女軍曹、現在は残忍なるアマクダリ・ニンジャのひとりだ。彼女は激しい苛立ちと焦燥、そして屈辱感の中にあった。ハーヴェスターから任されたこの重要ミッションに失敗すれば、セプクあるのみ。 3
2013-06-10 21:26:55時折機体側面を奥ゆかしく緑色に発光させながら超高速で飛ぶナイミツは、クマチャン・ロッジの近くで車を襲い乗客を食っていたグリズリーたちを驚かせると、あっという間に北東へと飛び去った。スザリンドのデータ解析と符合した、地図データが存在しないあの謎の空白地帯を、最短距離で突っ切る。 4
2013-06-10 21:34:55広大な雪原。バイオウルフの群がオーロラの中を進むナイミツを見上げて不穏な遠吠えを上げる。その声が彼女の魂を引っ掻いた。満月を明日に控え、彼女の好戦性は最高潮に達しようとしている。今すぐにでも取って返し、あの男と決着をつけたい。だが彼女には果たさねばならぬ任務があるのだ。 5
2013-06-10 21:38:29間もなく山岳地帯へ。吹雪が止む。ダイアウルフの鋭いニンジャ視力がベースを捉える。黒い山肌に築かれた秘密電波塔と、南西を向いたまま半壊して動かない超巨大パラボラアンテナ。その鏡面には、死して久しい暗黒メガコーポ、メガトリイ社の紋章……すなわちフジサン頂上に聳え立つ赤鳥居が。 6
2013-06-10 21:46:37メガトリイ社はかつて、電脳ネット系の強大な暗黒メガコーポであった。だが彼らはY2Kの影響を受けて弱体化した所を、他の暗黒メガコーポ群から囲んで棒で叩かれるかの如き徹底攻撃を受け、電子戦争勃発前に崩壊。オムラ社、ヨロシサン社、スゴイテック社等がその死骸を喰らい自らの血肉とした。 7
2013-06-10 21:56:40その時ばかりは、暗黒メガコーポ各社も一致団結の姿勢を見せた。メガトリイ社の独占分野はあまりにもクリティカルで、滅ぼさねば今後数百年間に渡って世界経済を支配すると予測されていたからだ。各地にはメガトリイ社の忘れ去られた秘密施設が残されている……重要データや埋蔵IPを抱えたまま。 8
2013-06-10 22:04:20彼女に与えられた任務は、データとIPアドレスの回収。容易い仕事のはずだった。「到着。直ちにブリーフィング」ダイアウルフが吐き捨てる。ナイミツが減速旋回し、彼女の掴まるハンガー機構の根元からワイヤロープが伸びる。ダイアウルフは空中ブランコめいた姿勢からヘリポートへ回転跳躍着地! 9
2013-06-10 22:14:05クローンヤクザが二列で彼女を出迎え、敬礼する。「ナイミツは直ちにMIB回収」IRCを飛ばすと、ダイアウルフは敬礼を返してタラップを歩き、施設内へ向かう。ZBR葉巻が思考速度をブーストする。補佐クローンヤクザによって速やかに行われる報告。都市ハッキングの犯人確保。暴動沈静化。 10
2013-06-10 22:24:38ジェネレーターの遠い唸りとタービン回転音が不気味に響く回廊を、ダイアウルフは軍靴を威圧的に鳴らしながら進む。補佐クローンヤクザの報告が一通り終わる頃、彼女は制御センターの前に到着。入口には「アマクダリ作戦本部」の垂れ幕がショドーされ、このミッションの緊張感を重点していた。 11
2013-06-10 22:34:35「ドーモ、ダイアウルフ=サン。ネオサイタマの死神が現れたというのは本当ですか!?」ソウカイヤ残党、リマーカブルが血相を変えて彼女を出迎えた。ダイアウルフは舌打ちし、カラテパンチを彼の鳩尾に叩き込む!「イヤーッ!」「グワーッ!?」「その話は後だ!データ回収の現状把握を重点!」 12
2013-06-10 22:42:43薄暗い制御センターは大学講堂めいた階段状構造になっている。全ての机にはUNIXモニタが埋め込まれ、数十人単位のクローンヤクザが整然とタイピングを続けていた。段の中央に設置された戦略チャブへ向かうダイアウルフとリマーカブル。正面の巨大モニタに映された進行バーの数字は、78%。 13
2013-06-10 22:50:52「78%です」リマーカブルが告げる。「貴様は黙っていろ」ダイアウルフは着席し、面々とデータを見渡す。同じく元ソウカイヤのベアハンターとコールドホワイトが、神妙な目で彼女の表情をうかがっていた。敢えて口にこそ出さぬが、彼女はソウカイヤ残党を規律の無い無能共として見下している。 14
2013-06-10 23:00:12それだけではない。この重点任務にはやむを得ぬ同盟者がいる。彼らの存在がダイアウルフの軍人精神を更に逆撫でしていた。「シーカー=サン、見通しを報告しろ」「良いハッカーを調達し、より速い、明日この神聖なバーが満たされます」ハッカーカルトから派遣されたニンジャが電子音声で答えた。 15
2013-06-10 23:11:15ダイアウルフは十字架を睨む吸血鬼めいて、忌々しげに進行バーを睨む。ミッション開始当初は、秘密施設を発見し、残された無人攻撃装置を突破して、マザーUNIXからデータを抜けば全て終了と高を括っていた。だがマザーUNIX内に強固な自衛プログラムが存在し、干渉を拒否したのである。 16
2013-06-10 23:21:53アマクダリ内のハッカーを動員したが、全員が自我崩壊または死亡という無惨な失敗に終わった。理由はいくつかあるが、第一に自衛プログラムが異常なまでに強力な事。第二に、この施設内には厄介な旧世紀レガシ群が混在しており、忘れ去られし古のBASIC言語等で論理防壁が貼られていた事だ。 17
2013-06-10 23:28:21かくしてペケロッパ・カルトとの間に大規模な同盟が構築された。無論、アマクダリはこの組織と何度も交渉を試みていたが、その教義が全く理解不能であるため、これまでは隔離して監視下に置くという体勢が取られていたのだ。「結局、あれの正体は何だ?報告をせねばならん」ダイアウルフが問う。 18
2013-06-10 23:38:18「あれとは不明瞭です」「自衛プログラムだ。構築された時代に比して高度すぎるとの報告がある。誰かが我々より先に施設内に侵入していたのか?」女軍人が問う。「あれはプログラムではないであろう」「では何だ?誰かがハッキング介在しているのか?」「新種の電子生命体、あるいは神聖な亡霊」 19
2013-06-10 23:47:27「電子生命体……」「神聖な亡霊……」元ソウカイヤ勢は、迷信深い暗黒時代の農民めいて眉をひそめた。「ハ!訳が解らんな、カルト」ダイアウルフは異教徒を見る褪めた目でシーカーを睨んだ。「訳が解らない」シーカーに表情は無く、頭部右側に並んだ昆虫めいた七個の複眼カメラアイで彼女を見た。20
2013-06-11 00:00:30「もういい。排除とデータ抽出を急げ。明日では遅い。ニンジャスレイヤーが嗅ぎ付けた。計画が失敗したら何が起こる?契約内容を言ってみろ」「アマクダリはペケロッパ・カルトを総攻撃し破壊します」恐怖や焦燥の色は無い。調子が狂う。「では成功したら何だ」「旧世紀レガシとIPの報酬」 21
2013-06-11 00:08:44「そういう事だ。MOVE!MOVE!MOVE!とっとと進行バーを伸ばせ!貴様らの怠惰がキルナイン=サンを殺したと知れ!」ダイアウルフはチャブを叩く。「また作ります」シーカーは機械じみた動きでぎこちなく立ち上がり、ロボットダンス的な歩行でマザーUNIXのある電算室へ向かった。 22
2013-06-11 00:16:20「不気味な奴らです、何を考えているか解らない」コールドホワイトが言う。「ロボットか何かだと思え。奴らは報酬さえ与えてやれば機械のように動くのだ」ダイアウルフは葉巻を軍靴で踏み消す。「…ニンジャスレイヤーの件ですが」ニンジャ装束の上に熊毛皮を被った手練、ベアハンターが言った。 23
2013-06-11 00:24:07