ダークサイド・オブ・ザ・ムーン #6 前半
「アーッ!?俺は軍隊!銃撃って殺す!俺は軍隊!銃撃って殺す!明日起きたら敬礼!明日起きたら敬礼!明日起きたら敬礼!明日起きたらアーッ!?アーーーーッ!!」イシマル・トウメのヘルメットに備わったスピーカーから、ハードコア・ヤクザパンクバンド「ケジメド」の最新チューンが漏れる。 1
2013-06-16 22:29:23快晴の下、些かも気分は晴れない。ケジメドは大変刺激的で人気のバンドだが、露骨なアティチュードがたたり音楽業界を追放された。この曲もイリーガルな方法で入手したものだ。トウメはメガデモという伝統芸能を違法化された自分たちの境遇をケジメドと重ね合わせ、やるせない怒りを滾らせていた。 2
2013-06-16 22:38:18「群生地な」「重点」「重点」IRCが交わされる。トウメが駆る熊殺しスノーモービルは、他の仲間たちとともにクマチャン・ロッジを出立し、計8機の編隊でドサンコ・ウェイストランドの雪原を渡っていた。家計を支える週末の副業だ。天頂からは素晴らしい陽光と紫外線と電磁波が降り注いでいる。 3
2013-06-16 22:47:04「トウメ=サン、機嫌が悪いんだな」荒っぽい運転を行うトウメのモービルと並走するように、灰色のリーダー機が巧みなステアリングで近づいてくる。彼の名はダトウ。このチーム内の最年長であり、グリズリーめいた白髪混じりの髪を持ち、厳めしい顔はバンザイ・テキーラで微かに上気している。 4
2013-06-16 22:54:26「八方塞がりですよ、くそったれめ……」トウメは悪態をついた。「何か俺たちの力じゃあどうしようもない、国の陰謀が動いてるんじゃないかって考えが、頭から離れないんです。結局、昨夜の都市ハッキングもいつの間にか鎮圧された。南じゃ、キョートとの緊張も高まってるって言うじゃないですか」 5
2013-06-16 23:02:38「考え過ぎだ。俺はUFOなんて信じちゃいねえぞ。ビョーキは気分の問題ってコトワザもある。あれもこれも国の陰謀に見えて来ちまう」ダトウが笑い飛ばして続ける。「それよりもなあ、家族の方はどうなんだい」「娘ですか…」トウメが口籠る。彼の怒りの原因が家族にあるとダトウは見抜いていた。 6
2013-06-16 23:11:55ごく短い間、父親同士のありふれた会話が交わされた。「娘さんにメガデモの英才教育をしてやるつもりだったんだってな」「半分はそうです。もう半分は仕方なく、たまたまそうなったんです」「その結果が、TVからメッセージか」「育て方を間違ったのかも知れないと何度も……。可哀相な事をした」 7
2013-06-16 23:27:20「自我科が言ってた通り、モニタばかり見てるお前さんの気を引きたかっただけなんじゃねえのか?」「かもしれません」「まだ迷ってんのか?」「ハイ」「迷いはここで置いてけ。仲間が死ぬぞ。デカい熊を狩って、家族を幸せにしてやれ」ダトウがぶっきらぼうな解決策を提示した。トウメが頷いた。 8
2013-06-16 23:32:53突然、視界が吹雪に覆われる。ドサンコ・ウェイストランドの気候は気紛れな悪魔のようにころころと変わる。狩人たちはそれを知っているため、IRC文化が高度に発展してきたのだ。スノーモービル編隊は臆することなく吹雪の中を進む。直後、大気を揺らすほどの威圧的な吠え声が響いてくる。 9
2013-06-16 23:44:36# KILKUMA : MAS:wtf(これは何ですか)||# KILKUMA : DATO:np(大丈夫です)||# KILKUMA : IZUI:BIG KUMA inc(大きな熊出ました)||# KILKUMA : TOUME:4649(よろしくお願いします)|| 10
2013-06-16 23:49:51「バモオオオオオオッ!」白い毛皮に包まれた巨大な怪物の姿が、吹雪の中に浮かび上がる。装甲車めいたたいへん危険な速度と質量で雪原の中を駆けるそれは、凶暴なバイオ生物、ドサンコ・グリズリーだ!しかもかなり大きい!トウメたちはIRCボタンを駆使して連携し、直ちにこれを包囲した。 11
2013-06-16 23:56:42ZZZZT!ZZZZT!白グリズリーと並走する各スノーモービルから緑色の照準光線が照射され、獲物の体にいくつもの斑点を生み出す。トウメも自ずと興奮し、精神を論理タイプに集中する。チーム内唯一の直結者でありUNIX技術者でもある彼が、ナビ情報を他のメンバーに提供しているのだ。 12
2013-06-17 00:06:07ヘルメット内のバイザーには、獲物や仲間たちの位置、射線などが、全て緑色のワイヤフレームで表示されている。ワイヤフレーム状態でも、この獲物の巨大さは一目で分かった。(((なんて大きなグリズリーなんだ…!こいつを仕留めれば自治体からかなりのカネが手に入る)))トウメが意気込む。 13
2013-06-17 00:11:47BLAM!BLAM!BLAM!トウメの的確なナビを受け、スノーモービルの先端部に備わった自動旋回式猟銃から麻酔弾が次々射出される!「バモオオオオッ!」荒々しい吠え声を上げるグリズリー。だが勢いを止めずに駆け続ける。通常、このような狩りは数分から数十分間の持久戦となるのだ。 14
2013-06-17 00:18:29かなりの大物だ。このメンバーで狩り殺せるだろうか? ダトウが吹雪越しに獲物の表情を睨みつけた瞬間……それは屈み込んでから大きく斜め横にパウンスし、新近距離からのヘッドショットを狙っていたマス=サンのスノーモービルを襲った!「バモオオオオッ!」「アバーッ!」マス=サンが即死! 15
2013-06-17 00:25:20# KILKUMA : IZUI:omg(ナムアミダブツ!)|| # KILKUMA : DATO:aim(再度照準合わせろ)|| # KILKUMA : TATU:rgr(わかりました)|| # KILKUMA : TOUME:rgr(わかりました)|| 16
2013-06-17 00:29:01さも当たり前の光景であるかのように、スノーモービル編隊は獲物を中心にフォーメーションを取り直した。そして再び吹雪の中を猛スピードで駆け始める!「バモオオオオッ!」BLAM!BLAM!BLAM!「アイエエエエエエエ!」「アババババーッ!」サツバツ!何たる過酷な世界であろうか! 17
2013-06-17 00:34:34……そして十数分後。麻酔弾を使った捕獲を諦め、神経毒弾に切り替えたダトウのチームは、このモビーディックめいた巨大な怪物を狩り殺すことに成功していた。 # KILKUMA : TATU:gk!(グッドキル!)|| # KILKUMA : IZUI:gk!(グッドキル!)|| 18
2013-06-17 00:42:11何も無い荒涼とした雪原にビルほどの高さもある巨大なトリイがひとつ聳え立っており、獲物はその手前で口惜しげに力尽きている。「ヤッタ!」「危ない所でしたね」「このトリイの先は確か立入禁止区域ですからね」「こんな所まで来たのは初めてです」「スゴイ!」健闘をたたえ合う狩人たち。 19
2013-06-17 00:48:25獲物をフックで引き摺って帰ろうとした矢先…イズイ=サンが異常に気づく。「ニュービーがいませんね」「トウメ=サンか?」「生きてるはずですけど」「自動操縦モードの解除を忘れたんじゃあるまいな」ダトウが眉をひそめる。この一帯は魔の電波障害トライアングル地帯として知られているのだ! 20
2013-06-17 00:52:42短く話し合った結果、ダトウ、イズイ、タツの3人が捜索に向かう事になった。「あのトリイの先はなんで立ち入り禁止だったんですか?」「さあな。昔からそうなってんだ。国有地か企業の私有地か、はたまたセイシンテキ・スポットか」硬い表情でダトウ。「大丈夫なんですかね」「知らねえよ……」 21
2013-06-17 01:08:11十数分後。吹雪は強さを増し、トウメの捜索は絶望的となった。立入禁止区域内への侵入を自治体にレコードされぬよう、三人は熊殺しスノーモービルの走行記録をハルトし、さらに識別電波をオフにしている。この状態では、トウメがIRCの有効範囲内に入るか、または彼を目視で発見するしかない。 22
2013-06-17 01:19:45狩人たちの目はイーグルめいて鋭かったが、この状態では打つ手が無い。稜線の反対側に行ってしまったのかもしれない。「どうやら潮時か。さらば、トウメ=サン!運が良ければまた会おう!」ダトウはIRCで他の2人に旋回命令を下す。これ以上深入りすれば、他のメンバーを危険に晒すからだ。 23
2013-06-17 01:26:15熟練の狩人たちは見事な連携を見せ、スノーモービルを巧みに回頭させてからアクセルを吹かした。トリイの前で待つ仲間たちのもとへ帰ろうとした矢先、タツが不穏なIRCをタイプする。 # KILKUMA : TATU:UFO || # KILKUMA : DATOU:UFO? || 24
2013-06-17 01:29:50