北斗と南斗（捜神記より）

小泉怪奇＠怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

管輅が南陽を通り掛かった時の話だ。 畑で農作業をしている、一人の若者の顔を管輅が見て悲しそうな顔し、大きな溜息をついた。 その事が気になった若者は管輅に尋ねた。 「どうして、そんな悲しそうな顔をして溜息をついたのですか。」 すると管輅は若者の名を尋ねた。

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「趙顔と申します。」 「そうか、趙顔と言うのか。実はお前は二十歳まで生きる事が出来ぬのだ。それが不憫で思わず溜息をついてしまったのだ。」 相手が管輅だと知った趙顔は仰天し、管輅に助けてくれる様に頭を下げ懇願をした。

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しかし、管輅は「残念だが、それは天命と言うもの。人の手でどうこう出来るものでは無い。」と言い、立ち去ってしまった。 趙顔は真っ青になりながら急いで家に戻り、事の次第を父親に話した。 すると、父親も仰天をし、すぐさま息子を連れて管輅を追いかけた。

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管輅に追いついた親子は、平伏しながら管輅に助けを求め続けた。 そして、管輅もついに根負けしてしまい、助かる方法を教える事にした。 「清酒を一樽と鹿の肉を一斤ばかり用意せよ。そして後日、南の山に登るのだ、そこに大きな桑の木が有り、その木の下には碁を打っている二人の御仁が居る。

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「一人は南に向かい座って居る、白い着物を着た怖い顔をした人物で、もう一人は北に向かい座って居る、赤い着物を着た優しい顔した人物だ。その二人が碁に夢中になっている時に、黙って酒と肉を勧めとよい。但し、何を聞かれても黙って御辞儀をして、決して返事をするな。」

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「そして碁が終わった後に、寿命を延ばして欲しいと懇願してみるといい。但し、わしが教えた事は決して言わぬようにな。」

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それから、管輅に教わった通りに趙顔が南の山に行くと、そこには大きな桑の木が有り、その下で二人の男が碁を打っていた。 趙顔は静かに二人の側に行き、酒と肉をそっと勧めた。

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二人は碁に夢中で、趙顔の事など全く意に介さず、ただ目に付いた酒や肉を勧められるままに口にしていった。 やがて碁が終わり、趙顔の事に気が付いた二人は「貴様は誰だ。そこで何をして居る。」と尋ねて来た。 そして趙顔は管輅に言われたとおりに「どうか寿命を延ばして下さい。」と懇願した。

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すると赤い着物の男が「さては管輅の入れ知恵だな。しかし、二人とも散々飲み食いをしてしまった以上は、無碍には出来んな。」と言ったので、白い着物の男も仕方無さそうに「賄賂を受け取ってしまった以上は仕方有るまい。どれ、少し調べてみるか。」と言い、懐から一冊の帳面を取り出し眺め始めた。

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そして帳面から趙顔の名を見つけると「確かに、そなたの寿命は十九歳となっておるな。」と白い着物の男が言うと、赤い着物の男が筆を取り出し、帳面に書かれた十九の頭に九の字を付け足し、こう言った。 「さて、これでそなたの寿命は十九に九を付けたし、九十九歳となった。これで良いな。」

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その後、険しい表情になり「お前に、この事を教えたのは管輅であろう。今後は決して天機を洩らしてはならぬ、さも無くば天の咎を受けるであろうと、管輅に伝えておけ。」と言うと、二人は鶴の姿になり、天高く羽ばたいて行ってしまった。

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戻った趙顔がその事を管輅に伝えると「やはり、御見通しであったか。実はあの御二人は、白い着物を着た御仁が死を司る北斗で、赤い着物を着た御仁が生を司る南斗なのだ。ともかく、良かったのう。」と管輅は言い、趙親子は大層感謝した。 しかし、これ以後、管輅は軽々しく占いをしなくなった。