永崎氏による大正新脩大藏經刊行の際の苦労話まとめ

人文情報学研究所の永崎研宣さんが、大蔵出版が大正新脩大藏經を刊行した際の苦労話を長文でツイートしてくれたので、まとめて読みたくてまとめを作成しました。
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Kiyonori Nagasaki @knagasaki

せっかくの機会ですので『大正新脩大藏經』刊行にまつわる苦労話について連続ツィートしようかと思います。元ネタは主に大正新脩大藏經刊行会編『大正新脩大藏經 会員通信合本』と1920~30年代に出ていた雑誌『現代佛教』です。 #大正蔵刊行

2013-06-20 21:16:44
Kiyonori Nagasaki @knagasaki

大正新脩大藏經は、大正十一年(十年の説もあり)に着手の是非についての議論が始まったそうです。既存の活版大蔵経を踏まえるなら梵本写経、天平写経、敦煌写経も含めて対照校合しなければ意味がなく極めて至難の業だという認識だったそうです。 #大正蔵刊行

2013-06-20 21:16:57
Kiyonori Nagasaki @knagasaki

高楠順次郎が石山寺の天平写経を明代の大蔵経と対照したさい、かなりの相違があって真っ赤になったことが英国大使エリヨット(ママ)の目ににたまたま止まり、 #大正蔵刊行

2013-06-20 21:17:20
Kiyonori Nagasaki @knagasaki

「西洋にこんな古いものがあるなら耶蘇教者は一寸きざみにして研究するであらう、今までは捨ててあつたとして、今よりは対照もし、発表もしなくてはならぬ義務があるではないかと迫られた」そうです。 #大正蔵刊行

2013-06-20 21:17:31
Kiyonori Nagasaki @knagasaki

刊行に当たっては、経典の配列順をこれまでとは異なったものにするということでかなりの議論を行ったそうで、高楠順次郎はこのことを「伝統の殻を脱して研究の実利に生きた」と記しています。 #大正蔵刊行

2013-06-20 21:17:41
Kiyonori Nagasaki @knagasaki

大正十二年四月八日より芝の増上寺にて国宝の三種の漢訳大蔵経及び明代大蔵経の照合に着手し、五月からは上野の帝室博物館で東京に移送された正倉院聖語蔵の古写経の校合が、十三年正月からは宮内省図書寮にて宋本一切経の校合が行われたそうです。 #大正蔵刊行

2013-06-20 21:17:54
Kiyonori Nagasaki @knagasaki

さて、少し時間が戻りますが、大正十二年九月一日、関東大震災により、一次資料や原稿目録類は無事だったものの当初担当していた新光社が焼失したそうです。その後も二度、関係者が火災に遭ったにも関わらず経典は無事で、 #大正蔵刊行

2013-06-20 21:18:02
Kiyonori Nagasaki @knagasaki

その後も「融通資金なくして経営するものの当然直面すべき苦難に遭遇し」「音義ある人々の援護に依って事なきを得」て、大正十三年五月に第一巻の刊行に至ったそうです。 #大正蔵刊行

2013-06-20 21:18:17
Kiyonori Nagasaki @knagasaki

編集の過程では「約三千萬本の大小活字」で、「校合で五回、校正で約五回、都合十回づつ吾々校訂員の目を通って」いたそうです。異体字表を作り適宜漢字の統合を行いながら編集は進んでいったようです。 #大正蔵刊行

2013-06-20 21:18:44
Kiyonori Nagasaki @knagasaki

高楠順次郎をして「君が一切経の主任として努力するに至っては予は全く安心して殆ど一任したのである」と言わしめ、大正蔵編集刊行の実務に従事中、その編集室において昭和十四年、五十七歳で急逝された小野玄妙は『現代佛教』にて次のように書いています。 #大正蔵刊行

2013-06-20 21:18:54
Kiyonori Nagasaki @knagasaki

「高楠先生が教界学界のため此の大業を成就しようとして心身を尽されたことは、実に涙ぐましい極みである。別して震災後自身で発行編集の両責任を引き受けられてから、約三年間の先生の心労は、とうてい私どもの想像を許さぬ程度の深刻さであった」 #大正蔵刊行

2013-06-20 21:19:05
Kiyonori Nagasaki @knagasaki

「毎月の経費の不足…印刷所の支払いがすめば、紙屋の支払いが足らぬ。やれ人件費がどう、臨時費がかうというようなわけで少なくて二三千円、多いときは四千五千といふ不足である。」 #大正蔵刊行

2013-06-20 21:19:16
Kiyonori Nagasaki @knagasaki

「それを何とか都合して行かなくてはならぬ先生の苦しみは、実にハタから見て居れぬ。そして月の二十三四日頃になると、「君今月はイクラ足らないだらうか」といつて一言聞かれる、なんといふ悲痛な言葉であらう。」 #大正蔵刊行

2013-06-20 21:19:25
Kiyonori Nagasaki @knagasaki

「学人としての先生に金銭の苦労、それも毎月毎月のこととて、此の間の先生の負債は嵩むばかりであつた。…忘れもせぬ大正十三年の七月十二日であつたと思ふ。」 #大正蔵刊行

2013-06-20 21:19:34
Kiyonori Nagasaki @knagasaki

「印刷所の猪木氏は廃業して鉛を売つて工賃を払わねばならぬといふ、先生も金の引き出し所がないといつて夜の一時過ぎまでも疑議し、止めるか続けるかのドン底まで行詰まつたことさへあつたのである。」 #大正蔵刊行

2013-06-20 21:19:41
Kiyonori Nagasaki @knagasaki

「この様な大出版になるとその設備が容易でない。如何な大出版所でもおいそれとやれるのではない。…手近いお話しが此の一切経の出版については、常に二千面の版が回転している。」 #大正蔵刊行

2013-06-20 21:19:51
Kiyonori Nagasaki @knagasaki

「つまり当月の分が校正されつつある間に、翌月の分をくみ上げてゆくのである。口でこそ二千面といふが、その二千面の版上に埋まる活字は、五号活字だけが約三百万本、これに脚注の六号活字や、字間の句点等是れ亦百万本以上に達するので、」 #大正蔵刊行

2013-06-20 21:19:58
Kiyonori Nagasaki @knagasaki

「之に予備の活字を加ふるときは、活字だけで七八百万本から一千万本近くの多数を要するのである。それが全部漢字であるばかりでなく、ご承知の仏教経典専用の文字で母型のない字、字引にない文字が沢山に使用されるのであるから、実にタマつたものではない。…」 #大正蔵刊行

2013-06-20 21:20:06
Kiyonori Nagasaki @knagasaki

「…此の二千面組置の設備をするために苦しまれたのは何と云つても高楠先生であつた。何しろ震災直後印刷設備が我国全体に根底から破壊されていた時であり」 #大正蔵刊行

2013-06-20 21:20:14
Kiyonori Nagasaki @knagasaki

「それに彼のモラトリュームで金融が極度に硬塞していた際に、是れ等設備に要する一切の費用を次から次へと印刷所へ交付されたのであるが、それ金、また金で実にヒドク先生を悩ましたものである。」 #大正蔵刊行

2013-06-20 21:20:20
Kiyonori Nagasaki @knagasaki

「…それにモー一つは人の問題である。御承知の通りその事業に熟練の人を得ることが甚だ難事である。此の一切経の仕事は整版としては文選の仕事である…機械設備の崩れるのも恐ろしいが熟練した幸甚に離るることはなお一層の大なる損失でなければならない。」 #大正蔵刊行

2013-06-20 21:20:28
Kiyonori Nagasaki @knagasaki

と、このように、小野玄妙はひたすら高楠順次郎を気遣いつつその事業の大変さ、金の工面の大変さについて述べているのですが、金の工面そのものについては他人事のようです。しかし他の人の言によると、 #大正蔵刊行

2013-06-20 21:20:35
Kiyonori Nagasaki @knagasaki

「経営の困難は最初から最後までつきまとつた。…相当の経済的援助もあつたのであるが、膨大な費用を要し、金融逼迫の度は増すばかりで、逆に悪質な高利の借金までするようになつた。」 #大正蔵刊行

2013-06-20 21:20:41
Kiyonori Nagasaki @knagasaki

「高楠、小野両先生は、個人的にも何度かの差押処分を受けられた。五十七回五十八回を刊行する頃は、…高楠先生を中心に、明日の手形支払いのため夜を徹して協議することが毎夜続き」 #大正蔵刊行

2013-06-20 21:20:59
Kiyonori Nagasaki @knagasaki

「朝になればその金策に八方手を尽して飛び回るのである。…このような高利貸しに責められる状態が続く限り自滅のほかないと、」一日もはやくこの状態を脱する手立てを講じるように両先生に献言し、実業と経理に明るい先生方の応援を得て切り抜けたそうです。 #大正蔵刊行

2013-06-20 21:21:10