山本七平botまとめ/教育勅語”口伝”で絶対化された権威で、その権威を否定していく西欧的体制を強行してきた「矛盾」が致命傷となった日本

山本七平著『存亡の条件――日本文化の伝統と変容――』/第三章 指導者とその時代/美濃部達吉博士の場合/116頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①【美濃部達吉博士の場合】前述したように、近代の天皇制が、中国的儒教的な絶対主義を基にし、その絶対権威によって、明治憲法=制限君主制に象徴される欧化主義を「上からの改革」として推し進めたことは、結局、抜きさしならぬ矛盾に逢着せざるを得なかった。<『存亡の条件』

2013-06-08 02:57:45
山本七平bot @yamamoto7hei

②この矛盾はユダヤ人が陥った矛盾の裏返しである。 彼らは「先祖の律法通り」といいつつ、ギリシア=ローマ化した基準で生きていた。 一方、日本は基本的には「欧化憲法体制通り」といいつつ、伝来の伝統的生き方で生きていた。

2013-06-08 03:27:37
山本七平bot @yamamoto7hei

③そして権威は伝統に由来している。 この権威がなければ急速な欧化主義は強行できないが、しかし欧化主義自体は欧化主義を推し進めている権威そのものを否定する結果になる。 言いかえれば、教育勅語″口伝″で絶対化された権威で、その権威を否定していく西欧的体制を強行してきたからである。

2013-06-08 03:57:53
山本七平bot @yamamoto7hei

④こうなると、どちらかが否定されざるを得ない。 「欧化」が″口伝″を否定するか、″口伝″が欧化を否定するかの二者択一にならざるを得ない。 この両者が、危ういバランスをかろうじてとっていたのが、大正7年から10年までの原敬内閣のときであろう。

2013-06-08 04:27:38
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤そして原首相は、同年11月4日、中岡艮一に暗殺された。 これはいわば、大正・昭和期の「暗殺史」の幕開けといえる。 そしてこの暗殺ぐらい理由がわからないものはない。 中岡には思想もなく、動機も不明で、背後組織もなく、もちろん明確な組織の指令といったものもない。

2013-06-08 04:57:50
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥ただ一つ理由は、中岡が、当時の新聞・雑誌の論調から、原敬を極悪人の国賊と信じ切っていたことである。

2013-06-08 05:27:38
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦いうまでもなく新聞・雑誌の背後には、彼を暗殺へと走らせた一つの″口伝″的思想があり、この思想は、二・二六事件の将校とほぼ同一の基盤をもち、これが昭和初期から二十年まで日本を暴走させたデーモン・天皇尊崇→現人神化の根底にある。

2013-06-08 05:57:48
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧当時の新聞・雑誌からのその思想の抽出過程は、非常に煩雑かつ膨大なので本稿では省略し、一応、その思想を生み出した思考過程を要約するにとどめよう。 現在にも、新しい装いをもった同一の思想は基本的には存在する。 従ってこれは過去の問題とはいえない。

2013-06-08 06:27:35
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨というのは、この思想は必ずしも実在の天皇を必要とせず、大正天皇のように天皇自身が実質的に「無」であろうと、またどのように自己規定しようと、それと関係なく二重の基準が存在する限りは存在するからである。 従って将来、日本に「天皇なき天皇制」が出現しても不思議ではないからである。

2013-06-08 06:57:50
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩その結果は常にどう形を変えようと、欧化の極限では逆に天皇を現人神化しなければならなくなるという結果になる。これが基本図式だが問題は欧化主義そのものにもあった。昭和期の天皇思想は明治初期のそれと違って、輸入された西欧的思考と西欧的思考に形を変えた伝統的思考が大きな比重を占めてくる

2013-06-08 07:27:42
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪図式は簡単だが、その個々の形態になると…解明できないほど複雑といわなければならない。 しかし極端に図式化して日本とユダヤの両極端を示せば、エッセネとその逆といった形で出てくるであろう。 前述のように、エッセネは、″理念としての荒野″に生きる純粋で全く妥協なき存在であった。

2013-06-08 07:58:05
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫ヨセフスは彼らが、ローマ軍と寸毫の妥協もなく死んでいったさまを描くとともに、彼らの思想内容が最もギリシア=ローマ的であったと記している。 同じことは、日本の伝統的国粋思想の権化のようにいわれた日本軍にもいえる。

2013-06-08 08:27:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬この″狂信的超国家主義者集団″と規定された者の軍事思想は、全くヨーロッパのそれの模倣であり、独創性といいうるものは皆無であった。 この軍が、最も強く非難したのは美濃部博士の天皇機関説である。

2013-06-08 08:57:48
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭この説は、美濃部博士が貴族院の答弁で述べているように「国家法人説」であり、これは、帝国憲法から当然に出てくる説であり、また何回も記すように、西欧では、ギリシア=ローマ時代からの考え方の、当然の帰結である。

2013-06-08 09:27:44
山本七平bot @yamamoto7hei

⑮だがしかしそれは、教育勅語″口伝″律法の考え方とは全く相いれない説といわなければならない。 従ってもし国家法人説をとり、国家を完全な合理性をもつ集団組織と規定するなら、あらゆる組織に内在する非合理性を何らかの形で処理しなければならない。

2013-06-08 09:57:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑯西欧には西欧型のこの安全弁があり、儒教圏には儒教圏のこの安全弁がある。 そして、この安全弁をどこに置くか、という問題が、ここでは忘れられてしまった。 そして、この大きな問題は、だれも気づかぬままに、日本の致命傷となったわけである。

2013-06-08 10:27:46