古典ギリシア語の動詞活用　－未来とアオリスト－

ギリシア語たん（自転車操業中） @Hellenike_tan

【古典ギリシア語の動詞活用－「未来」と「アオリスト」】直説法現在について連続ツイートした後、時制の総論にまで話を広げておきながら、その後停滞したままの動詞活用について、深夜帯の連続ツイートで説明を進めさせていただきます。今夜は「未来」と「アオリスト」を取り上げます。

ギリシア語たん（自転車操業中） @Hellenike_tan

【なぜ「未来」と「アオリスト」？】この二つをなぜ一回で説明しようとするのか…という疑問もあろうかと思われます。その理由は単純で、「動詞時制幹がおおむね共通しているから」です。このため、古典ギリシア語の文法教科書の多くは、未来とアオリストを続けて取り扱います。

ギリシア語たん（自転車操業中） @Hellenike_tan

【「未来」と「アオリスト」とは】早速説明に入ります。「未来」は「未来時制」、「アオリスト」は「完結相」です。この「完結相」の説明の便宜のため「時制と相」について説明した次第です。詳しくはこちら http://t.co/dgeMXgdyWH をご参照ください。

ギリシア語たん（自転車操業中） @Hellenike_tan

【動詞の構造について】「加音」や「動詞時制幹」や「時称語尾」については、こちらの拙まとめ http://t.co/mxh0diBr1u を適宜ご参照くださいませ。

ギリシア語たん（自転車操業中） @Hellenike_tan

【未来の活用形】基本構造は「動詞時制幹－時称語尾」です。「未来」の場合、受動態以外は、「動詞語幹」に"σ"を続けた上で、現在と同様の幹母音を後続させて「未来幹」を作ります。時称語尾は「現在以降」なので「本時称語尾」です。

ギリシア語たん（自転車操業中） @Hellenike_tan

【活用の具体例】前回と同様に、動詞"λύω"（緩める）を例にとります。「動詞語幹」は"λύ"で、これに"σ"を続けた"λύσ"に幹母音が後続したものが「未来幹」となります。

ギリシア語たん（自転車操業中） @Hellenike_tan

【直説法未来能動態の活用例】「λύσω / λύσεις / λύσει / λύσομεν / λύσετε / λύσουσι」。

ギリシア語たん（自転車操業中） @Hellenike_tan

【直説法未来中動態の活用例】「λύσομαι / λύσῃ / λύσεται / λυσόμεθα / λύσεσθε / λύσονται」。

ギリシア語たん（自転車操業中） @Hellenike_tan

【アオリストの活用形】いきなり次に進みます。「アオリスト」の場合、受動態以外は、活用形は「第一アオリスト」「第二アオリスト」「語根アオリスト」の三種類のいずれかに該当します。うち「第一アオリスト」は「未来幹」の幹母音部分を"α"に置き換えて「動詞時制幹」を作ります。

ギリシア語たん（自転車操業中） @Hellenike_tan

【第一アオリスト】"λύω"の場合、「未来幹」の「動詞幹－σ」による"λύσ"に"α"を続けた"λύσα"が「アオリスト幹」となります。「過去」のことになるため、加音と副時称語尾をとります。

ギリシア語たん（自転車操業中） @Hellenike_tan

【直説法アオリスト能動態（第一アオリスト）の活用例】「ἔλυσα / ἔλυσας / ἔλυσε / ἐλύσαμεν / ἐλύσατε / ἔλυσαν」。①一人称単数の語末のνは落ちます。②三人称単数はアオリスト幹の語末がεになります。

ギリシア語たん（自転車操業中） @Hellenike_tan

【直説法アオリスト中動態（第一アオリスト）の活用例】「ἐλυσάμην / ἐλύσω ← σα-ο ← σασο / ἐλύσατο / ἐλυσάμεθα / ἐλύσασθε / ἐλύσαντο」。二人称単数に「σの脱落」が生じて約音しています。

ギリシア語たん（自転車操業中） @Hellenike_tan

【第二アオリスト】「動詞語幹」に現在と同様の幹母音を後続させて「アオリスト幹」を作り、これに加音と副時称語尾をとります。活用語尾が未完了過去と同様に見えますが、未完了過去は「現在幹」をとるので両者は区別可能です。動詞"βαλλω"（投げる・動詞語幹は"βαλ"）を例にとります。

ギリシア語たん（自転車操業中） @Hellenike_tan

【直説法アオリスト能動態（第二アオリスト）の活用例】「ἔβαλον / ἔβαλες / ἔβαλε / ἐβάλομεν / ἐβάλετε / ἔβαλον」。

ギリシア語たん（自転車操業中） @Hellenike_tan

【直説法アオリスト中動態（第二アオリスト）の活用例】「ἐβάλομην / ἔβαλου ← ε-ο ← εσο / ἔβαλετο / ἐβάλομεθα / ἐβάλεσθε / ἐβάλοντο」。二人称単数に「σの脱落」が生じて約音しています。

ギリシア語たん（自転車操業中） @Hellenike_tan

【語根アオリスト】といって区別する本もありますし、第二アオリストの中に入れてしまっている本もありますが、「動詞語幹」に幹母音をつけずにそのまま副時称語尾につなげる形です（加音は伴います）。μι動詞は基本的にこれに該当します。

ギリシア語たん（自転車操業中） @Hellenike_tan

【語根アオリストの例】以前出した"δίδωμι"（与える）を出すべきところですが、この動詞は若干特殊なので、代わりに"ἶστημι"（置く）を例にとります。

ギリシア語たん（自転車操業中） @Hellenike_tan

【直説法アオリスト能動態（語根アオリスト）の活用例】「ἕστην / ἕστης / ἕστη / ἕστημεν / ἕστητε / ἕστησαν」。

ギリシア語たん（自転車操業中） @Hellenike_tan

【直説法アオリスト中動態（語根アオリスト）の活用例】語幹が"πρία"に変化します。「ἐπριάμην / ἐπρίσω ← σα-ο ← ασο / ἐπρίατο / ἐπριάομεθα / ἐπρίασθε / ἐπρίαντο」。二人称単数に「σの脱落」と約音が生じます

ギリシア語たん（自転車操業中） @Hellenike_tan

【受動態は…】さて。みなさまお気づきと思いますが、ここまで「受動態」をひたすら省いてきました。その理由は、「未来・アオリストの受動態は独自の形式をとる」からです。…ここまで引っ張っておいて更にそれか―というご批判の声は甘受しますが、今少しおつきあいのほどを…

ギリシア語たん（自転車操業中） @Hellenike_tan

【アオリスト受動幹】「動詞語幹」に"θη"又は"η"を後続させたものを「アオリスト受動幹」と言います。この「アオリスト受動幹」を「動詞語幹」の代わりにして、①語根アオリスト能動態の形をとるとアオリスト受動態、②未来中動態の形をとると未来受動態になります。

ギリシア語たん（自転車操業中） @Hellenike_tan

【第一アオリスト受動幹と第二アオリスト受動幹】…「いい加減にしろ」という声が聞こえてきそうですが、この「アオリスト受動幹」にも第一と第二があります。といっても、第一が"θη"、第二が"η"という違いだけですが。

ギリシア語たん（自転車操業中） @Hellenike_tan

【"λύω"の場合】「動詞語幹」は"λύ"。これに"θη"を続けた"λύθη"が「アオリスト受動幹」です。これを「動詞語幹」の部分に「代入」していきます。

ギリシア語たん（自転車操業中） @Hellenike_tan

【直説法未来受動態の活用例】「λυθήσομαι / λυθήσῃ / λυθήσεται / λυθησόμεθα / λυθήσεσθε / λυθήσονται」。

ギリシア語たん（自転車操業中） @Hellenike_tan

【直説法アオリスト受動態の活用例】「ἐλύθην / ἐλύθης / ἐλύθη / ἐλύθημεν / ἐλύθητε / ἐλύθην」。「受動態」であるにもかかわらず「能動態」の語尾をとる点が要注意です。