夏の雲は増えゆくss

夏の雲がもくもくしていて美味しそうなのでssを即興で書きました。
0
てい @orztee

もしゃもしゃと、何かを美味しそうに頬張る浴衣姿の女の子に、僕は何を食べているのか尋ねてみた。あまりに美味しそうに食べているので気になったのだ。女の子はまだ口を動かしながら、もごもごと答えた。 「雲だよ」

2013-07-07 17:56:08
てい @orztee

「雲なんて食べられるの」 「ん。美味しいよ」 女の子は肯いて立ち上がり、それまで自分が腰掛けていた神社の石段の上で、ぴょんとジャンプした。その際に、空へ向かって伸ばした腕で、夏の入道雲を掴んだらしい。着地した彼女の手の中には、確かに雲が握られていた。

2013-07-07 17:59:54
てい @orztee

女の子は、その雲を握った手を、僕に差し出した。 「くれるの?」 「うん」 「有難う」 僕はそれを受け取って、女の子を真似て口の中へ放り込んだ。軽くて綿のような、しかし綿あめのように粘ついたりはしない、とにかくこれは雲である。雲は口の中でもくもくと成長して行くようだった。

2013-07-07 18:03:06
てい @orztee

「美味しいでしょ」 「うん。美味しい」 美味しいのだが、雲はなかなか溶けない。そもそも、これは溶ける物なのだろうか。でも、美味しいのは間違いない。それなら、問題はない。 「美味しいね」 にっこり笑う女の子の言葉が雲になり、笑い返す僕の言葉も雲になる。こうして雲が、増えていくのだ。

2013-07-07 18:06:50