第七十三話:兄、再来す。 第七十四話:お面 第七十五話:氷
- C_N_nyanko
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部屋に戻ると、兄さんが当然のような顔をして座っていた。 「よぉ」 勝手に冷蔵庫のビールとつまみを取り出して一杯やっている。 「鍵どうしたの」 「管理人に開けてもらった。ついでに、入口の妙な女追い払っといたぞ」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-06 23:32:17たぶん、あの悪魔のような女のことだろう。 「用件は何?」 「用がなきゃ、来ちゃいかんか」 相変わらずの言い草で、僕は苦笑した。 兄さんはことりとビール缶を置いて僕を見る。 「っつったが、ないわけじゃない」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-06 23:32:44前に預けた卵、あるな? と、兄さんは聞いた。すっかり忘れるところだった。 「棚の上に置いてあるよ」 「お前にやる」 「え?」 思わぬ返事に、少し驚く。よくは覚えていないが、あの卵は曰くの品だったはずだ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-06 23:33:53「どうして」 「やっといたほうがいい気がしたんだ」 兄さんはスルメをぶちぶち噛み切った。 そのままバラエティ番組を見ながら酒盛りになって、翌朝目を覚ますと、もう兄さんはいなくなっていた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-06 23:34:02ビール缶が散乱していなければ、兄さんの来訪はきっと夢のようなものに思えただろう。僕は二、三度首を振ってから、アイスを食べようと立ち上がり、冷凍庫を開いた。 その冷凍庫の中に、白髪の女の首が置いてあった。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-06 23:34:26「――はじめ、まして」 咄嗟に無言で閉める。 疲れているのか、二日酔いなのか。にしたってタチが悪い。 「開けて、ください」 中からくぐもった声がしたので、僕は仕方なく、恐る恐る冷凍庫を開いた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-06 23:34:44今度は女の子の脚がニョキりと伸びてきた。脚、腕、体、顔、ゆっくりと順番に、彼女は姿を現す。 「はじめまして、あなたのお兄さんの紹介で来ました。どうぞお世話をさせてください」 彼女は丁重に三つ指を付いた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-06 23:35:04――と思ったら、七月の熱に蒸発して、いなくなってしまった。 「……何なんだ一体」 彼女の姿は、跡形もない。 そのあと兄さんに連絡を何度か入れたけれど、ずっと話し中で応答してくれなかった。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-06 23:35:12それにしたって、出オチもいいところだと思わないか。 綺麗な女の子だったから、少し惜しいことしたと、思ったけどね。 もし次出迎えるときは、ちゃんと冷房を効かせておくよ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-06 23:35:17子供の頃、部屋に狐の面が立て掛けてあった。 特に使っちゃダメとは言われなかったんだけど、なんとなく触れちゃいけない気がしててね。反面で、なぜだか一度かぶってみたくもあった。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-07 22:56:09それである日、母さんが外出して一人で留守番してた時に、こっそりかぶってみたんだ。 「コンコン」 って、狐の物真似なんかしてみてね。 そしたら、窓ガラスを叩く人がいた。見ると、ひどいつり目の男がいる。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-07 22:56:18「やあ坊や、狐なのかい」 と、男はにこやかに笑った。 「コン」 そう返事すると、男はひょいと手を伸ばして僕の頭を撫でた。 「えらいね、君はいい子だ」 理由はわからなかったけれど、悪い気はしなかったよ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-07 22:58:01その時、母さんが家に帰ってきた。僕は慌ててお面を外そうとした。けど、紐が絡まってうまくいかない。 「何してるの!」 母さんの素っ頓狂な声がした。つり目の男は母さんに驚いて逃げていった。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-07 22:58:20僕は母さんに後ろから抱きかかえられて、ようやくお面を外した。 「触っちゃダメって、ちゃんと教えてなかったかしら」 母さんはふぅと息をついた。 「これはね、動物の世界が見えるお面なのよ」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-07 22:58:33「だから、これをかぶって人間を見たら、もう二度と人間に戻れなくなるの」 もうかぶっちゃだめよ、と言って、母さんは僕の頭を何度も撫でた。それで、僕はふと、なぜガラス越しの男が僕の頭を撫でられたんだろうと思った。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-07 22:59:22あのお面は、どこかに行ってしまって、今はもうない。 けれど縁日で狐のお面を見かけると、僕は、あの日見たつり目の男を思い出す。 そして、母さんの手とあの男の手を思い比べて、母が無性に、懐かしくなるんだ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-07 23:02:26かき氷を砕く機械が欲しかったんだ。自宅でかき氷を作れたら、その都度アイスクリームを買うよりよっぽど経済的だろ? というわけで、早速新品を購入して帰った。氷をセットして、さぁ作るぞ、とハンドルに手をかけてさ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-07 23:30:33途端、耳をつんざくような悲鳴が聞こえた。驚いて手を離すと、上蓋がバネのように跳ね跳んだ。驚く僕の目の前に、奇妙なやつらが立ち上がったんだ。 つららのように先端を尖らせた、氷だ。 「氷殺し!」 奴らは叫んだ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-07 23:31:13「俺たちをなんだと思ってやがる!」 奴らはきぃきぃ喚いて、鋭く尖った先端をずらりと僕に向けた。 「落ち着けよ……」 僕の言葉も虚しく、奴らは激しく怒り狂う。次の瞬間、ナイフのような氷が僕めがけて飛んできた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-07 23:31:57咄嗟に目を閉じて、逃げの構えを取る。 と。 目の前に真っ白なものが立ちふさがって、僕を守った。キィキィ喚いていた氷たちが、一気におとなしくなる。 「大丈夫ですか?」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
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