2013年7月9日

第七十六話:残響 第七十七話:七人目 第七十八話:変若水 第七十九話:こだま

角川Twitter小説コンテストにて執筆中の『チョッとした話』を読みやすいようまとめてみました。読了後面白いと感じてくださったら章タイトルや本文のファボやRTなどいただけるとありがたいです。 以下のURLからもどうぞ。http://commucom.jp/t/fo9FMO
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さく@今日も生きる @C_N_nyanko

『――』  電話のメッセージは、高く遠くに響いた。私には、悲しみ以外よく伝わらなかった。  たどり着いた先は、海岸だった。  波打ち際に、それはいた。  私は持ち上げた。それは、もう呼吸をしていない。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-07-07 23:54:40
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 持ち上げた胸鰭は、ひんやり冷たくて、ゴムのような手触りだった。ただ、ぬめりが気持ち悪い。 「あなたの言葉はよくわからないの」  あらかじめ詫びておいて、私は小舟を拝借海へ出た。それを連れて、海の中心まで行った。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-07-07 23:55:09
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 だいたいこの辺だろうというところで、それを海におろした。  それは数度たゆたって、やがてまた、遠くへ流れていく。 「帰りたい、それが願いなのよね?」  確認するように尋ねると、一度だけ、それはぱしゃりと跳ねた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-07-07 23:55:31
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

「さようなら」  一言だけ告げて、小舟を岸へ戻す。  じきに夜が明けるだろう。  遠くに、イルカのなく高い声の、残響が聞こえた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-07-07 23:55:38
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 これは僕の見た夢の話。  夢の中に、一枚の扉があった。  ガチャりと開くと、その先にひとりの老人が立っている。 「儂は一人目だ」  彼は僕を見た。 「次は二人目だ」  そして、後ろの扉を示す。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-07-08 19:27:31
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 指示に従って次の扉を開くと、今度は若い女がいた。 「私は二人目よ」  彼女は僕を見た。 「次は三人目」  そして、後ろの扉を示す。  指示に従って次の扉を開くと、今度は小さな少年がいた。 「僕は三人目だ」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-07-08 19:27:46
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 彼は僕を見た。 「次は四人目」  そして、後ろの扉を示す。  その繰り返しだった。  四人目の老女、五人目の赤ん坊、六人目の少女。 「次は七人目」  少女は、後ろの扉を指差した。  その時、嫌な感じがした。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-07-08 19:28:00
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

「結構」  僕は踵を返して、部屋をもどった。  そうして一番目の男の部屋まで来て、床にぽっかり空いた穴に、ぽんと飛び込んだ。  そこで、目が覚めたんだ。  七人目の扉を開いていたら、どうなったんだろう。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-07-08 19:28:13
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 どうも僕が欲しがられていたような気がして、ゾッとする。  僕が入ればちょうど、性別不明の赤子を除いた男女で対が出来るだろ? 「目が覚めてよかった」  僕は小さく呟いて、扉を開き、寝室をあとにした。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-07-08 19:29:41
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 目の前で、ベンチに座った若い女性が泣いていた。  静かに、ほろりほろりと。 「どうしたんですか?」  尋ねると、彼女は思っていたより子供らしい顔で僕を見上げた。 「変若水を、飲んだの」 「おちみず?」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-07-09 16:38:18
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 彼女はまた、はらはらと涙をこぼす。 「若返りの、水なの。私、どんどん若返っていったの」  彼女は手を広げた。 「さっきまで私は、シワシワの、九十近いおばあさんだったのよ」 「まさか」  僕は信じられなかった。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-07-09 16:39:02
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

「だけど、どうして泣くんです?」  若さを求める話は、古今東西、枚挙に暇がない。 「あなたはまだ若いからわからないでしょう」  彼女は首を振った。 「九十年の命が、私の人生が、白紙に戻される、この虚しさが」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-07-09 16:39:39
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 そう言って僕を見上げた彼女は、もう十五歳程度の子供だった。 「ばいばい、お兄さん」  彼女はひらりと手を振った。  そして、てくてくと歩いて、曲がり角の向こうに消えた。  僕は心配になって、彼女の後を追った。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-07-09 16:40:09
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 曲がり角の向こうには、ベビーカーを押すひとりの母親が立っていた。 「どうかされましたか?」  母親はにこりと微笑んだ。 「赤ん坊の夢の世界でも、見たんですか?」  その声で、僕は、夢から醒めた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-07-09 16:41:16
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 公園のベンチでうたた寝していたらしい。  ふと遠くを見やると、陽炎の向こうにベビーカーを押す女性の姿が揺らめいた。  女性はゆっくり遠ざかっていって、やがて、曲がり角の向こうで、見えなくなった。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-07-09 16:42:25
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 こだまって、聞いたことあるだろ?  山に向かってやるとやまびこなんて呼ばれたりする、あれ。  声が跳ね返って響くあれのこと。  今日思わぬところでそいつを見かけたから、それの話をしようと思う。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-07-09 16:52:32
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 部屋を掃除していたときのことだ。 「意外といい出来じゃん」  僕の声が、すぐ後ろからした。  驚いて振り返ると、鏡がそこにあった。  そこに写った僕が、笑って言うんだ。 「意外と料理上手なんだな、僕」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-07-09 16:52:50
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 その言葉には覚えがあった。昨夜作ったパスタが存外いい出来で、つい呟いた独り言だ。 「驚いたなぁ」  僕がそう言うと、鏡のそいつは驚いた顔を真似してみせた。 「驚いたなぁ」 「これがこだまか」 「これがこだまか」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-07-09 16:53:29
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