鍋になる

豆腐 @toufu_soy

パックには「鍋とうふ」と銘打たれた。中にいる自分には大して違いは無いのだが。豆腐は苦笑した。しかしまあ自分が進むべき道が明確に示されているというのも悪くない。その道を極めれば良いのだ。他の具材と如何にリレーションを構築、シナジーを生んでいくか、豆腐はシミュレーションを繰り返した。

豆腐 @toufu_soy

ある日、豆腐はある若い女に買われて行った。女の買い物カゴには、葱や白菜等、いかにも鍋の準備だという食材が揃っていた。女の家への道中、豆腐は葱や白菜に話しかけてみた。鍋だな。ああ、鍋だ。良い鍋にしよう。旨くなろうな。そんな話だ。豆腐は他の食材たちの志の高さに満足し、鼻息を荒くした。

豆腐 @toufu_soy

女はやはり鍋の支度を始めた。カセットコンロ、土鍋、取り皿に蓮華…。豆腐達食材も鼻息荒く切られていった。いよいよだな、ああ、いよいよだ。豆腐と白菜は言葉少なに頷き合った。しかし、と豆腐は思った。メインは何だ？そこにはメインとなるべき具材が存在しなかった。豆腐は鍋の行く末を案じた。

豆腐 @toufu_soy

豆腐の不安は杞憂に終わった。杞憂、どころの話ではない。メインは自分自身だった。女は出来合いの豆腐チゲのスープを取り出した時、豆腐は全てを了解した。鍋の王たるメイン具材。まさか自分がその椅子に座ろうとは、スーパーに並びながら想像だにしなかった。身が引き締まる思いがした。