山本七平botまとめ/「死後閣魔様に舌を抜かれるから嘘をつくな」的終末論が横行する日本/~未来の確定を絶対視する事で、現在を徹底的に規制する終末論の恐ろしさ~
- yamamoto7hei
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①【原初的終末論の横行】…マサダの悲劇へと進む過程に…指摘しておくべき事は、終末論である。 彼らは歴史的進行のある一点に終末を置いても、人間の死後には置かなかった。 この考え方は極めて″現代的″ともいえるし、現代は、彼らの呪縛から解放されていないともいえる。<『存亡の条件』
2014-05-29 22:04:20②今の状態は、進行する歴史のある時点で終末を迎える。 それは、絶対者(神) の意志であるがゆえに「必然」であって、人間の意志はそれを左右し得ない。 この考え方は、実は、 決定的にその人間を拘束してしまう のである。
2014-05-29 22:05:12③日本では、 「死後の地獄にあって、嘘をつくと閣魔さまに舌を抜かれる」 といえば、無知なる迷信である。 しかしこれは、個人の死後に一つの終末的審判を置く考え方であって、その終末を歴史的未来に置くことと、大差ない考え方なのである。
2014-05-29 22:06:11④いわば、「死後に舌を抜かれる」を個人の未来に設定することによって、それが逆に現在のその人を規制する。 従ってこの種の考え方は、未来を語っているようで、実はその未来を現在語ることによって、現在を規定しているにすぎない。 「だから、嘘をついては、いけません」と。
2014-05-29 22:07:39⑤これが終末論なるものの基本的図式なのである。 いわば、未来を確定することによって現在を規定しているので、この場合、 未来の確定を絶対視すれば、現在の規定も絶対化される。 このまことに原初的終末論的規定は、常に日本に横行して絶対の権威を握っている。
2014-05-29 22:08:43⑥たとえば60年の「安保を破棄しなければ原爆が落ちる」である。 これは、原爆が落ちるという未来を確定することにより、現在を規定する行き方、 さらに「日本人は公害で30年後に減びて……(終末が来る)」は、30年後の終末を確定することにより、現在を規制する行き方である。
2014-05-29 22:09:26⑦これは 「死後閻魔様に舌を抜かれるから……」 と基本的には変りのない発想であって、原初的終末論的規定のままであるといってよい。 というのは、両者共に、「歴史の延長上に……」という、前提がなく、これを歴史と結びつける論証は皆無だからである。
2014-05-29 22:10:51⑧そしてこれが、そのまま通用して社会を規制し得たのは、あるいは仏教的な伝統のためかも知れない。 そして戦前これが決定的に作用したのは 『そんなことすれば日本が滅びる(あるいは「負ける」)』 という形の終末論による徹底的な規制である。
2014-05-29 22:11:26⑨いうまでもなく終末論とは一見まことに消極的な規制に見えるが、これの作用は絶対的である。 というのはその主張には常に逆の意味が含まれているからである。 いわば 「安保を破棄すれば原爆は落ちない…」 「工場を閉鎖して公害をとめれば終末は来ない」 という形に逆に作用する。
2014-05-29 22:13:33⑩これは、実に積極的な規定もしくは絶対的な命令になりうる。 従ってこの面では 終末論は、実に積極的・決定的に作用し得、時には、その一民族を動かしうる のである。
2014-05-29 22:14:28⑪現在の日本で最も問題になる点は、 この原初的終末論の乱用と、それが大きな効果をもち得る という現状であろう。 そしてこの状態からは、まだ当分、脱却できないものと思われる。
2014-05-29 22:15:09