九十二話:おやつのじかん 第九十三話:嘘つき 第九十四話:『会いたい』
- C_N_nyanko
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小学生の頃、おやつの時間というのがあった。 家に帰ると、母さんがおやつを出してくれるんだ。 決まった時間までに宿題や課題が終わってないと、おやつは減る。逆に、たくさん頑張れたらおやつが増える。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-16 01:49:24そうやって、多分僕のモチベーションを維持してくれていたのだと思う。 ある日、僕はちょっとお腹がすいていて、困ったなぁと思いながら勉強していた。 宿題は、終わるような量じゃなかったしね。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-16 01:49:40すると、机の下から誰かが呼びかけてくる。 「課題、手伝ってやろうか」 「ほんと?」 僕はすぐさまお願いした。 宿題はあっという間に終わって、僕は母さんから褒美分までおやつをもらえた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-16 01:49:48それで部屋に帰ると、そいつが言うんだ。 「俺のおかげだろう、俺の取り分をよこせ」 僕は、やられたな、と思った。 でももうどうしようもない。 「ちぇっ」 机の下のそいつにおやつを分けて、リビングに戻った。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-16 01:50:10すると、母さんがしょうがないなと言うかのように微笑んでいた。 どうやらお見通しだったらしい。 「今度からずるはダメよ」 と、僕に釘を刺した。 この時以来、僕は一切の不正をやめたように思う。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-16 01:50:44割に合わないってのを、教え込まれたように思ったんだ。 あの勉強机は、今でもまだ実家にあるよ。 この前帰って眺めたら、随分小さく見えたけれど。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-16 01:51:49「おうい、まだいるかい」 僕は机の下のあいつに声をかけて、ほい、と、せんべいを放って、部屋をあとにした。 無人の部屋から、ぽりぽりと、せんべいを噛み砕く音がしたよ。 そういう、ちょっとした話。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-16 01:52:12「大した話じゃないんだけどさ」 喫茶店で向かい合った僕に、君はそう切り出した。 駅の中、学生も多くいる喫茶店で、僕らは最近よく会っていた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-16 10:41:12「ふぅん」 お決まりの相槌を打つ。気が進まないように切り出す君が、本当は僕に何か話したくて仕方がないのだとよく知っているからだ。 「それで、どんな話なの」 君は頬杖をついて、少し楽しげに言った。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-16 10:41:22「ジャック・オ・ランタンを知ってる?」 「いいや」 僕は首を振る。君は続けた。 「とても悪い男の話だよ。彼は天使も悪魔も騙して、天国にも地獄にも行けなくなって、それで今もここを彷徨ってるんだって」 「へぇ」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-16 10:41:55じゃあ、と、僕は訊く。 「さぞかし物知りだろうね、歴史の生き証人じゃないか」 「そうだね」 君は頷く。 「そんな奴ら、世界にたくさんいるんだよ。地獄を騙して、極楽から見放されて、ただ生き続けるしかない連中は」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-16 10:42:31「ふぅん」 僕は、相槌を打つ。 「まるで見てきたように語るじゃないか」 「うん」 だって、と、君は言った。 「私もその、生き証人だからね」 そして、ブラックコーヒーに口をつけた。 「またいつもの冗談?」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-16 10:42:50僕は苦笑する。 「どうだろうね」 君はにやりと笑う。 「それよりほら、砂糖が足りない」 そう言って砂糖の塊を、ひとつ、ふたつ、みっつ落として、ようやくおいしそうにコーヒーを飲んだ。僕は黙ってココアを飲んだ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-16 10:43:46と。 「『騙したな』」 すぐ後ろで、地の底から這うような、低い声がした。 振り向くと、大きな黒い翼を持った竜が僕らのすぐ隣に立っている。 君はガチャンと音をさせて立ち上がった。 「そこには行かないよ!」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-16 10:44:27君は叫んで、逃げ惑う。龍は口から赤い炎を吹き出した。炎はみるみる獄卒になり、君を追ってゆく。君は疾走して、あっという間に見えなくなった。 僕は唖然とした。 龍はするする縮んで、ひとりの華奢な女に変わった。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-16 10:45:39ハッとした。以前、彼女が蛇に化けて亡者の恨みを晴らすのを、見たことがある。 僕は思わず、呼びかけた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-16 10:45:58「君は……」 その言葉に。 『君』は静かにこちらを向いた。 そういう訳で、僕は今、『新しい君』といる。 君の冷めたコーヒーを挟んで、君と対峙しているところ。 とんでもないのに、であってしまった。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-16 10:46:37「会いたい」 そう言って、電話は切れた。 「君は……」 男は驚いた顔をして私を見た。 どうやら私を知っている風だ。 「僕にも、伝言が?」 そう尋ねられて、確信した。 「――私を知ってるのね」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-16 11:06:04「君が前に蛇に化けるのを見たよ」 男はそう言って、座ったらどう、と、私を喫茶に誘った。こんなふうに扱われることはなかったから、私は一層面食らう。 それでも誘いに応じて、テーブルの上で手を組んだ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-16 11:06:49「あなた随分冷静なのね。さっきも怖がらなかったようだし。――私が何か、知ってるんでしょう?」 「人じゃないだろうとは思うよ」 「それで?」 「それは僕のセリフさ。誰かが僕を恨んでて、君はそれを伝えに来たんだろ?」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-16 11:08:05