山本七平botまとめ/「対立概念無き」親日と反日/~対象の相反する矛盾を編集して、対立なき「一枚岩的対象」という”虚構”を作りあげる日本人~

山本七平著『存亡の条件――日本文化の伝統と変容――』/第五章 直線と回帰/不合理を合理化しようとしたダンテの神曲/154頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①【不合理を合理化しようとしたダンテの神曲】もちろん初代キリスト教はローマ化していった。 終末を歴史の進行方向に捉えるか、各人の死後の審判という形で捉えるかは、しだいしだいに後者に比重がかけられていく。<『存亡の条件』

2013-07-11 03:27:37
山本七平bot @yamamoto7hei

②しかし、前者は最後まで放棄されていない。 有名なダンテの神曲は、死後に天界・浄罪界・地獄を置いている点では後者だが、これが彼らすべての終末でなく、最後の審判という歴史の進行の直線上にもう一つの終末を予定し、ダンテはこれを「第二の死」と呼んでいる。

2013-07-11 03:57:48
山本七平bot @yamamoto7hei

③これは、一つの社会的形態だが、しかしこれの原初形態はすでに新約聖書に素朴な形で出ていることは否定できない。 第二章で述べたように、パレスチナはヘレニズム化されていたわけであるが、後代のヘレニズム自身の中に、さまざまなもの、さらに東方的なものが含まれていたからであろう。

2013-07-11 04:27:40
山本七平bot @yamamoto7hei

④ただダンテのように合理化するには、人間が三度死ななければならないという不合理を前提としてはじめて可能である。 従って、完全に歴史的な終末を無視していないとはいえ、彼の対象の捉え方は、あくまでも空間的現時点での捉え方で、歴史的ではない。

2013-07-11 04:58:01
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤いわば全ての対象は、古代人も同時代人も彼の眼前にあり、彼の時代の倫理で全てが律せられ、それを基にして彼と会談しているのである。 従ってあの時代の人間がああ考えるのは、あの時代としては当然であった、という意識はそこにはなく、(続

2013-07-11 05:27:38
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥続>同時、将来こうなれば人の意識や倫理もこうなるであろうという、歴史の延線上への予測、その予測に基づく現時点への判断という視点は全くない。 そういう意味では単にギリシア人のみならず中世のダンテにも、現代我々がもっているような歴史という意識はなかったか、殆どなかったといえる。

2013-07-11 05:57:47
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦こういう状態をインド・アリアン的と言えるなら、これはまさに、西欧におけるその作品の代表であり、皮肉なことに、聖書的思想から最も遠いものといえるであろう。 だが彼が、徹底的に対立概念で対象を見ていることは否定できない。

2013-07-11 06:27:39
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧一人の人間は、この世で法皇であり来世では地獄にある。 しかし、彼は、これなるがゆえに、歴史的な将来において法皇庁が改革されなければならないと積極的に主張しているのではない。 もちろんこのことは、彼が何らの積極的な改革の指向がなかったという意味ではないが――。

2013-07-11 06:57:55
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨しかし、どのように改革されても、人間とは前記のような対立概念で把握さるべきものとするのが彼の考え方であろう。 そして彼は、そういう人間の住むこの世界の政治体制を、やはり、一種の対立概念で捉え、そう捉えうる状態が、あるべき理想の状態であると考える。

2013-07-11 07:27:41
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩それは法皇と皇帝、いわば精神的秩序と政治的秩序が全くの相互不干渉で、車の両輪の如くなっている世界である。 ただし彼は、それを歴史的未来に予定し、その予定された未来で現在を規定しようと言っているのではない。

2013-07-11 08:27:54
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪以上、一八百年前の庶民ババタから最も非セム的と思われるダンテまで…様々な対立概念による把握の例をあげてきたが、彼らは現在でも対立概念で把握できない対象は一見把握しているように見えても実際には把握しえないという常識――というより今では本能的とも言いたい態度をそのままにもっている。

2013-07-11 08:57:59
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫そしてこれが、対象の対立した諸相を無意識のうちに捨象して、たとえ虚構でも、対立なき「一枚岩的対象」と見たがるわれわれと対蹠的なことは否定できない。 なぜであろうか。 次章でこれを追究してみたい。

2013-07-11 09:27:47