モーサイダー!~Motorcycle Diary~Episode of Summer II~
- IngaSakimori
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しばしの時は流れ、月半ばの日曜日。 「三分遅刻、ですわ」 VT250スパーダが目の前に停車すると、少女は不満げに目を細めてそう言った。 #mor_cy_dar
2013-07-19 17:11:06「道路が混んでたんだよ」 「何のためのバイクです?」 「……最近は安全運転が俺のブームなんだよ」 #mor_cy_dar
2013-07-19 17:11:17JR八王子駅前のロータリーでたたずむ亞璃須の姿は、学校での制服と大多磨周遊道路でのゴスロリ、そしてレーシングスーツ姿を知っている志智にとって、失笑してしまうほど地味なものだった。 #mor_cy_dar
2013-07-19 17:11:25少年のそれかと疑いたくなるようなパンツルック。 それでいて、片手には無造作にヘルメットの入った袋をぶら下げているのだから、女子力の低さは相当なものである。 もっとも、それでも長い金髪と愛らしい顔立ちの放つ魅力だけは、まったく衰えていない。 #mor_cy_dar
2013-07-19 17:12:09「お前、本当に亞璃須(ありす)か?」 「どういう意味です」 「いや、そんな格好してるとこ見たことなかったからな」 #mor_cy_dar
2013-07-19 17:12:34「誰かの後ろに乗ることなんて、滅多にありませんものね。 服を探していたら、なかなか合うのがなくて」 「なるほど、な」 #mor_cy_dar
2013-07-19 17:12:48道行く男たちは、亞璃須になんとなく注意をむけてはいるものの、積極的に近づいたり誘いの声をかける様子はない。 これが制服姿なら違っただろう。ごく普通に出かける時の服装でも、同じことだ。 #mor_cy_dar
2013-07-19 17:13:06(……どうしてだろうな) どこか、今の亞璃須に安心している自分がいることに志智(しち)は気づく。 #mor_cy_dar
2013-07-19 17:13:36男どもの興味をひかない今の日原院亞璃須(にっぱらいん ありす)が、本当はくらべものにならないほど魅力的であることを知ってる。そんな自分に安堵していることに、志智は気づく。 #mor_cy_dar
2013-07-19 17:13:44「………………」 「ちなみに━━」 スパーダをアイドリングさせたままで、タンクへ視線を落としていると、亞璃須は何か得意げに口を開いてた。 #mor_cy_dar
2013-07-19 17:13:58「トップとボトム、どちらかはティックから強奪したものですわ。 当ててみます?」 「いや、興味ないから。早くいこうぜ」 #mor_cy_dar
2013-07-19 17:14:11「むむむん」 ぴくぴくとまなじりを震わせつつ、ヘルメット袋の中から、薄手のレザーグローブを取り出して指を通した亞璃須は、スパーダのタンデムステップへ手をかける。 かちゃん、という音が志智の背中で響き、ずしりと重い感触が伝わった。 #mor_cy_dar
2013-07-19 17:14:30「シートが狭いですわ」 「そんなものか?」 「せっかくVT一族なんですから、シートの狭さまで走りに振らなくてもよかったですのにね。 スパーダさんスパーダさん。今度からこういう時はゼルビスに変身してくれません?」 #mor_cy_dar
2013-07-19 17:14:42「なんだゼルビスって。シューティングゲームか?」 「……いえ、何でもないです。いつでもどうぞ」 「OK。ちゃんと掴まってろよ」 タンデムベルトを亞璃須が握ると同時にスパーダが走り出━━そうとして、がくりとエンストした。 #mor_cy_dar
2013-07-19 17:14:59「あああっ!!」 「……えーと。 もうちょっと回転をあげてからクラッチをつないだ方がいいと思いますわ」 #mor_cy_dar
2013-07-19 17:15:10「うわっ、エンストした! 何ヶ月ぶりだ!? おい亞璃須、お前太ったんじゃないか? バイク便で荷物満載のときでも、こうはならないぞ━━あだっ」 #mor_cy_dar
2013-07-19 17:15:22「そういうことを人の多い場所で叫ばないでくださいます?」 「わ、悪かったよ」 ヘルメットごしに伝わった拳の衝撃は、亞璃須の怒りと本気を示していた。 #mor_cy_dar
2013-07-19 17:15:32「まったくもう」 「おい。くっつくなよ」 「志智ったら知らないんですか? 男女のタンデムはこうするんですよ。 ベルトをつかむより荷重が前にかかって、エンストもしにくいと思いますけれど?」 #mor_cy_dar
2013-07-19 17:15:53「知るかそんなこと。 ……まあいいや。出発するからな」 回転を5000まであげて、ゆっくりとクラッチをつなぐ。 米袋をステップに乗せたスクーターのように、スパーダの赤い車体が前へ進み始める。 #mor_cy_dar
2013-07-19 17:16:12「うふふ、いいものですわね。誰かの運転するバイクの後ろに乗るのも」 「そんなもんかな」 #mor_cy_dar
2013-07-19 17:16:32肋骨をなぞるように絡みつく亞璃須の両腕は、じわりとまとわりつく湿気と同一の感触がした。 街乗り用のメッシュジャケットに仕込まれた薄手のウレタンパッドごしに、慎ましやかなふくらみの形が伝わってくる。 #mor_cy_dar
2013-07-19 17:16:47「……小さい……」 「な・に・か・言いました?」 「うぉぉぉぉぉぉっ!! く、首を絞めるなっ!!」 黄色信号の交差点でぐらりと車体がハーフバンクする。 #mor_cy_dar
2013-07-19 17:17:01「ここでいいのか」 「ええ、そうです」 混み合う国道16号の旧道を数キロほど走り、南大沢の方角へむかうと、多摩ニュータウン通りに面してそのアウトドア用品店は存在した。 #mor_cy_dar
2013-07-19 17:17:32