文字助コンフィデンシャル

立川談四楼 @Dgoutokuji

桂文字助が10月16日に死んでいた。口癖は「家元より長生きする」だったが奇しくも同年齢の75だった。それも咽頭癌という同じ病で。師匠孝行だなあ。入院させられると「窓から飛び降りるぞ」と脅かし、ついには病院から脱走、施設に舞い戻ったという。以来、意気軒昂だったがポックリ逝き、面目躍如だ。 pic.twitter.com/Dco60f4kZS

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扇子と手拭いを欲しがっていると伝え聞いたので、文字助に届けた。「入所者に披露するんですか」「まあそのうちな。落語家に関するモノを何も持ってねえ手持ち無沙汰ってのもあるよ。それに落語はやらねえと錆びるからな」文字助に落語家魂が残っていることに安心し、それが一番のリハビリとも思った。

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文字助はよく喋った。この施設から表へ出ることが叶わないこと。個室のテレビをヤケで壊してしまい、来年の今頃は五輪を見られないこと。おそらくここで死を迎えるであろうこと--。次、何を持ってくれば？に「小説は現代時代ミステリーを問わない。何でもいい、活字を頼む」ときた。さすが文字助だね。

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@noribiyori 禁酒禁煙できっちり三食いただき、しかも運動(リハビリ)付き。以前より元気とも言えます。

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文字助が、車椅子に乗り窓の外を見ていた。アニさんと後ろから声をかけると尋常ならざる早さで振り返った。師匠と呼びかける後輩はいたがこの施設でアニさんと呼ばれることはなかったのだ。「おめえ、今頃くるとは何事だ」なんて、どこが斑らボケだ。打てば響く反応ではないか。じっくり話し込んだよ。

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桂文字助は施設で生きていた。どうしても被写体にという人が執念で居場所に辿り着いた。暮に脳溢血で倒れ、単独での暮らしが困難となり、収容されたのだ。左足が麻痺し、酒もタバコも禁じられ、車椅子使用とのことだが、電話での口調は快活だった。死ぬほど退屈だと言ってたので、近々見舞うつもりだ。

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文字助は栄養失調で救急搬送されたらしい。酒ばかり飲んで食わないからだ。衛生と風紀の二つの理由で髭を剃り落としたとか。無念であったろう。退院した聞くが、相変わらず電話は不通で、まあ元気なんだろう。貴乃花の引退について聞きたいこともあるが、それは他の入院患者に語り尽くしたはずなのだ。

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以前出演を請うたTBSが、文字助と連絡を取りたいと言う。電話が止まっている理由を説明し、天気のいい早朝に公園を訪ねるべしと答えた。「公園にもアパートにもいません。近所に聞き込みをしたら、数日前に救急搬送されたそうです。今のところ病名も病院名も不明です」文字助の身に何が？ 続報を待て。

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文字助は何をしているのか？ 電話も「お客様の都合」から「現在使われておりません」と変わり、不通のままだ。梅雨は公園の掃除もできず手持ち無沙汰のはずだが、どう過ごしているのか。様子を見に行きたいが月末まで時間が取れない。菊正宗をチビチビ飲りながら、相撲の本でも読んでりゃいいのだが。

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公衆電話からの文字助の声に驚いた。薄謝だが電話料金未納の手当てはできたはずなのだ。「おめえに貰ったゼニを財布ごとタクシーに落っことしちまってよ。しばらく連絡つかねえけど気にするな」せめてもの救いは寸志が気を利かせて宅配にしたから着物が無事だったことか。誰かに送らせればよかったか。

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《文字助は無事、各位安心されたし》今まさに安否確認に出ようという矢先の連絡で、公衆電話からだった。「電話が壊れちまってよう、オレは何時にどこ行きゃいいんだ？」あれほど何度もと思ったが「15日、18時、北澤八幡」と伝えるも、念には念をと寸志を送迎に頼んだ。さあ各位、その目で生存確認を！

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【北澤八幡独演会 第217回】が4/15に迫ったが、弱った。ゲストの桂文字助と10日ばかり連絡が取れないのだ。電話は「お客様の都合により」と言うばかりで、カネに窮したとしても寂しがりの電話魔である文字助が放置するはずがないのだ。まさか倒れたまま？安否確認の必要がある。各位、続報を待たれよ。

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文字助に電話をしたら、いきなり「誰か死んだか？」とご機嫌な声が聞こえた。ムッとしつつ、冷静に左談次の死を告げると「マジか、シャレだろ？」と一調子上がり、私に質問を浴びせかけた。そして「オレより六つも若え。そんなことがあっていいのか。よし、オレは100まで生きる」って訳が分からない。

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文字助はごく狭い世界に生きている。つまり世事に疎い。「忖度って何だ」と訊いてくるぐらいに。去年の流行語大賞も知らないのだ。流行の背景と使用例を説明したら「二宮忖度」とのダジャレを飛ばし、それはすでに廃れていると指摘したらウッと言い、しばし黙った。少しはニュースをとは言わなかった。

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松竹演芸場裏方時代の文字助は、各劇場フリーパスだった。「渥美清は達者だったよ。ストリップの合間のツナギだから2、3分で、仕込みのあるネタはできなかったけど、ちゃんと笑いを取ってた。滑舌がよかったな。だけどあすこまで大物になるとは思わなかった。痩せてて暗かったし、オレの見込み違いだ」

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文字助が三升家小勝の弟子になると告げた時、松竹演芸場に出演中の新山ノリロートリローのノリローさんは、あそこはキツいからキミには無理だと言った。5年務め上げ二つ目になり、挨拶に行くと目を丸くし、そのまま呉服屋に赴いて羽織を誂えてくれたという。「粋な祝いをするアニさんだろ」と文字助。

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文字助の恩人、林家ライスさん(76)が死んだ。素人時代、文字助は松竹演芸場の裏方を務めた。そこで知己を得たのが三升家勝丸から漫才に転身した三升小粒(さんしょうこつぶ)、後のライスさんで、文字助の落語家志望を知り、小勝に紹介してくれたのだった。そこから当時の浅草芸人の長い長い話となった。

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文字助がスーパーで揉めた。ウニが入っていた小瓶を持ち、見比べ、ウン、これだと商品をレジへ。店を出たところで警備員「ポケットの物を見せてください」 空瓶を取り出した文字助「てめんとこじゃ入ってねえウニでカネを取るのか。店長を呼べ」かくして大騒動、珍味の瓶詰めセットが届いたという1席。

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公園の掃除を続ける奇特な落語家がいると地元与党の代議士に伝わり、区議にどうかと文字助に白羽の矢が立った。文字助はスーツで議場に通うのは真っ平と言うが「生活保護の立場から一転月収50万となればマスコミが食い付くし、議会より掃除を優先させるならそれはそれで話題になる」とケシかけている。

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文字助は基本酔っている。だから概ね話は信用できないが、たまには真実が紛れ込むこともある。これはどうか。「相撲協会の理事選だけどよ、あれ、貴乃花親方は出馬しねえぞ」一部マスコミが報じた当選確実とはえらい違いだ。根拠はと問うと「オレが昔住んでたアパートの近くに貴乃花部屋があるからさ」

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文字助は志ん駒師匠の死を知らなかった。「年季が近くて楽屋仕事のすべてを教わったよ。カミさんを紹介してくれたのもアニさんだ。あそこのご婦人が威勢のいい前座だと言ってるんだ。ほら行けよってなもんでな、後を押してくれたんだ。ああ、同期がみんな逝くなあ」「アニさんはしぶとい」「うるせえ」

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昔、文字助のお供で客からご馳走になった。程のいいところで文字助「社長、あっしは祝儀なんてもらいたくねえんだ。だけどこいつ(私)は弟弟子、立てにくいツラかもしれませんが、ちょいとアッシを立てちゃくれませんか」私が祝儀をもらい、礼を言って表へ出た途端「さっきのを出せ、さあもう一軒だ」

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文字助からの玉子焼きを寸志経由で受け取る。築地は松露のものでズシリと持ち重りがする。例年貰うが、毎年10月頃から「おまえに遣る」と文字助は言い続け、その度に私は礼を言う。何十回も礼を言った玉子焼きは格別な味で、おっとその前に受け取った旨の電話を。これを怠ると面倒なことになるのだ。

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「二日の新年会になぜオレが呼ばれねえんだ」とベロベロの文字助。「アニさんが自ら辞めたからです。今、文字助組の組長のはずです」「寂しいじゃねえかよ」「お年玉をふんだんに配ればゲストとして迎えないわけじゃありません」「てめえオレにカネがねえのを知ってて」「駅伝でもどうぞ」「バカ野郎」

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文字助が区役所に赴き、口上を述べた。「生活保護費のお陰で今年も無事過ごせました。お返しに公園の掃除をしてますが、町内の皆様に感謝され、酒肴とタバコに不自由しておりません。来年も宜しくお願い致します」 課の担当が「そんなことを言ってきた人は初めてです」と感激し、目を潤ませたという。