リボルバー・アンド・ヌンチャク #3

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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【リボルバー・アンド・ヌンチャク】#3(最終セクション)

2013-07-21 21:18:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

薄暗いマンションの一室で、ホバタ老人はニンジャハンターに一部始終を語った。 1

2013-07-21 21:19:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

顛末はこうだ。ある日突然ニンジャがやって来て、金庫のカネを全て奪ったうえに、これから毎月カネを払えと言った。この事を誰かに言えば殺される。だがそもそも、ニンジャの話など誰も信じないだろう。狂ったと思われるのが関の山だ。ホバタ老人は誰にも相談できず、独りで苦しみ続けていたのだ。 2

2013-07-21 21:22:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「いいか爺さん……昔はソウカイヤという組織があり、ニンジャはその組織で働くアサシンだった」ジュンゴーはシケた煙草を吹かしながら語った。「だがソウカイヤは潰れたらしい。マキモノに書いてあった事務所に電話したが、誰も出なかった。実際に歩いて調査してみたらボーリング場になってたぜ」 3

2013-07-21 21:26:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「俺はヘビかコウモリのように狡猾に調べた……ニンジャの目をすり抜けてな」ハンターが煙を吹く。ホバタは何度も頷いた。ニンジャ…その生態を理解することで、神秘のヴェールが少しずつ剥がされてゆく。無敵の怪物と思われた半神的存在が、クリーチャーに変わる。銃で撃てば死ぬ。ならば殺せる。 4

2013-07-21 21:34:04
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「ニンジャは手下としてヤクザを使う。金の取り立てとか、そういうミミっちい事は、自分じゃやらん」「あいつはいつも、独りで来るぜ!」「そいつは恐らく、サンシタだな。俄然やる気になって来たぜ……つまり、そいつは仲間やボスに内緒で、爺さんを金ヅルにしてんだ。殺せば、あとは誰も来ない」 5

2013-07-21 21:37:24
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「テンサイ!」ホバタ爺さんは感服する。この推理こそは、ジュンゴーが二年かけて練ったニンジャ・フローチャートの効果だった。「それに、毎月来る時間が決まってるんだろ。こっちは罠をしかけて待ち構えられる」「そ、そうだ!今夜だ!奴の集金スケジュールは、丁度今夜だ!」「今夜だって…?」 6

2013-07-21 21:42:06
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「よおし、今夜そいつを殺してやるぜ!」ハンターは銃を回した。「何だって!今日殺す?」老人は弱気になった。「待てよ、あと数時間でウシミツ・アワーだ!罠を用意するにゃあ、時間が足りねえんじゃねえのか?来月にだって来るぜ。セプクさえしなきゃな。わしは大丈夫さ!もうセプクしねえ!な?」7

2013-07-21 21:48:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ジュンゴーの決意が揺らぎかけた。人生を反芻した。来月までこの衝動と力が持続するか?答えはノーだった。「…駄目だ。爺さん、今夜だ。チャンスは今夜だけだ!今夜ならニンジャを殺せる。頼む、やらせてくれ!来月まで伸ばしたら、一生ズルズル行くぞ!」「……よし、わかった!」老人は頷いた。 8

2013-07-21 21:53:26
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ウシミツ・アワーまで残り四時間。ジュンゴーはこの日のために用意したジュラルミンケースを取り出し、ホバタ邸に向かった。「爺さん、念のために聞くが、他に頼りになる奴はこのマンションにいるか」「いるもんかよ!腰抜けの薄情者ばかりさ!」「同感だな。あんたの協力が必要だ」「やるさ!」 9 

2013-07-21 22:00:07
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十二畳のメインルーム。ニンジャハンターは必要な全ての情報をホバタに質問した。「奴はどこから侵入する」「あそこの忌々しいショウジ窓だ!それから、ここのフスマを開けて、この部屋さ!」その他にもニンジャの名前や武器などを聞いた。タタミの血の染みを見て、ハンターはやや顔をしかめた。 10

2013-07-21 22:05:10
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「さあ、全部話したぜ!どうやってニンジャを殺すんだ?」「こいつさ」ジュンゴーは秘密のケースを開いた。スプーン、ペンチ、バイオアルコールランプ、特殊注射器、ピンセット、白い粉、謎の液体……まるで中世の吸血鬼狩りに使われたブードゥーか、あるいは薬物中毒者の七つ道具を連想させる。 11

2013-07-21 22:08:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……毒スシさ。毒スシを仕掛けて食わせるんだ。爺さん、最上級のオーガニック・イクラスシを、今すぐデリバリーしてくれ……」ニンジャハンターは確かにそう言った。ホバタは、にわかには理解できなかった。「何だって!?そんな事が…可能なのか!?毒スシでニンジャを殺した事があるのか?」 12

2013-07-21 22:14:25
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「初の試みだ。きっと誰も思いついてない。思いついてもやってない。だからいいんだ!」「で、でもな!」「爺さん、そのニンジャに牙を剥いた事があるか?」「あるワケがねえ!相手はニンジャだぞ!」「だからやる価値があるんだ!奴は油断してる!一回きりのチャンスだ!」「……よしわかった!」13

2013-07-21 22:19:54
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二時間後。真っ赤なルビーのような高価なイクラ・スシのグンカン巻きが、丸い漆塗りの重箱に入って届けられた。「やるぞ…」イクラ成分を極細注射針で吸い出し、スプーンで熱して溶かした薬物を注入する。サファリパークから盗んできた、猛獣ハントの恐るべき麻痺毒。膨張圧によって穴は塞がる。 14

2013-07-21 22:24:53
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ニンジャハンターは額に汗を浮かべ、爆発物処理班じみた慎重な手つきで毒スシを次々製造した。ホバタは酒を抜くためにエスプレッソを飲んだ。「まったくよ……驚いたぜ……お前が入居した時、わしは言ったもんさ。こんな所にいつまでも住んでんじゃねえぞ、いつかは出てけよ、ってな。それが…」 15

2013-07-21 22:28:35
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「シケた話なら後にしてくれ」「お、おう……」「俺はこれから、生きるか死ぬかの賭けをやるんだぜ。ハンターの殺意が、錆び付いちまうよ」「こいつぁ、済まねえ……」ホバタ老人は恐れ入った。室内はしんと静まり返った。「……静かなのも気が滅入るから、音楽かけてくれよ」彼は素子を抜いた。 16

2013-07-21 22:31:35
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「アーッ!そいつは、モーターサイクルに乗った……!ヴァンパイア・ヤクザの差し金……!アーッ!知らねえ街まで連れてかれるぜ……!乗せてた女がくたばった!アーッ!朝陽で死ぬぜ!ヴァンパイア・ヤクザ!アーッ!」……サイコビリー・ヤクザパンクの性急なリフが、湿った室内で荒れ狂った。 17

2013-07-21 22:34:58
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「ミュミュ、ミュージック、ですか、ジャンプ!ダンス!ジャンプ!」上空を飛ぶマグロツェッペリンから、アイドルデュオ「ネコネコカワイイ」のリミックスPVが大音量ループする。メガロ・キモチ社が手がけたその歌詞は、サツバツに倦んだ無垢なるネオサイタマ市民の心を狡猾に掴んで離さない。 19

2013-07-21 22:43:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ツェッペリンの放つ漢字サーチライトが、荒み切ったホバタ邸の庭を撫でてゆく。やがて遠ざかる。重金属酸性雨をはらんだ冷たい北東の風が、ショウジ戸の隙間から吹き込む。ホバタが持つトックリとオチョコが、緊張でカチャカチャと震えた。チャブの上には、食べかけを装ったイクラ・スシの重箱。 20

2013-07-21 22:47:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゼンめいた静寂の中、ウシミツ・アワーを告げる鐘。ホバタは隅のコケシ箪笥を見た。その中にリボルバーとヌンチャクを構えたニンジャハンターが潜んでいるのだ。「ナムサン……!」老人は最後の晩餐めいてイクラ・スシを食った。毒スシとそうでないスシは、バンブーの葉で巧妙に仕切られている。 21

2013-07-21 22:50:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」恐るべきカラテシャウトとともに、ショウジ窓を開けてニンジャが現れた。老人は泥酔した風を装うため、黙々とスシを食い、オチョコを口に運ぶ。「……おい、何を食ってる?」ニンジャが問う。ホバタは無言。肝の座った見事な演技だ。老人だからこそ出せるアトモスフィアがある。 22

2013-07-21 22:55:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何を食っているかと聞いている」「スシだよ」老人はぶっきらぼうに返した。やや恐怖による震え。それが逆に自然さを生んだ。強欲なニンジャの目は、一瞬でそれが最上級スシである事を見抜く。「何もかも、どうでもよくなっちまってよ」「貴様!」ニンジャは重箱を奪い、スシを掴んだ!2貫も! 23

2013-07-21 23:03:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ふざけるんじゃねえぞ、ホバタ=サン。エエッ!?」咀嚼!「まだまだカネを隠し持ってたって事じゃねえか!こんなに上等なイクラを……イク…ラを……グワーッ!」アックスソードは痺れた己の両腕を見ながら膝をついた!全身から汗が噴き出す!「ホバタ=サン、てめえ……スシに麻痺毒を……!」24

2013-07-21 23:08:42