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tkq @tkq12
ヒマだから昔の話でもするか #恋する納豆
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それはまだ俺が20そこそこの若造だったときの話だ。その頃、俺は飲んだくれていた。週末になれば朝まで飲んだくれて、翌日は便器に顔を突っ込んで土曜日を台無しにする、そんなしょうもない週末を送っていた。 #恋する納豆
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その日もそんな夏の朝だった。俺は海外サッカーを見て、おぼつかない足取りでアパートに帰っていた。確かチェコのバロシュがゴールを決めた試合だった。あの頃のバロシュは偉大な選手だった。 #恋する納豆
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俺のアパートは狭い。どれくらい狭いかというと、中に洗濯機を置けないほどだった。洗濯機はアパートの廊下に置いて、そこで洗濯をする。それしか物理的に方法がなかった。当然、俺の洗濯機もアパートの廊下に置いていた。 #恋する納豆
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部屋は1階だった。俺はアパートの門を開け、部屋に向かう。そして、部屋の鍵を開け、気絶したように倒れ込む。その日もそうなるはずだった。 #恋する納豆
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しかし、その日はちょっとした異変があった。鍵を開けようとジーンズのポケットをまさぐっていると、洗濯機の蓋の上に異物があった。よく見ると、朝日に輝いてきらきらと光っている。 #恋する納豆
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それは納豆だった。もう誰も間違えようがないほど納豆だった。パックから出して、混ぜてあった。納豆ってタレと混ぜると朝日に輝いてなんかちょっと綺麗なんだな。 #恋する納豆
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俺は一瞬どうしていいのかわからなくて、吹き出した。納豆て。朝方に納豆て。いや、納豆は朝方食べるものだけど。いや、そういうことじゃなくて。 #恋する納豆
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俺は目の前のことがうまく処理できなかったが、このまま放っておくわけにもいかず、酔った頭で納豆を処理した。納豆を袋に詰めてゴミ箱に捨てる間の何してんだろ俺感がとてつもなかったが、最後までやり遂げた。そして、今度こそ気を失うように寝た。 #恋する納豆
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それから、色々なことがあったが、話は少し遡る。 #恋する納豆
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納豆が置かれる1ヶ月ほど前だろうか。俺は仕事から帰ってくると、毎度のように郵便受けに入っているビラを片付けた。あの不用品買い取ります、とか、風俗とかのチラシだ。いつもはすぐにゴミ箱に捨てるのだが、その日は明らかに違うものが入っていた。 #恋する納豆
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それは一通のかわいらしい青の便箋だった。裏返してみると差出人の名前はない。俺はゴミ箱に入れず、それをあけてみた。中には一枚の手書きの便箋が入っていた。 #恋する納豆
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そこには長々と文章が書いてあったが、要約するとこうだった。「いつも見ています。一目ぼれししました。」いわゆるラブレターだ。 #恋する納豆
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その頃の俺は若くて彼女もいなかった。ラブレターなんて小躍りするほど嬉しいものだろう、ほんとだったら。ただ、便箋にも名前はなかった。あったのはただ一つ。彼女(あるいは彼?)の携帯メールアドレスだけだった。 #恋する納豆
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喜びよりも気色悪さのほうが先に立った。一方的な視線は、怖い。手紙の内容からすると、けっこう前から俺は見られていたようだった。俺は連絡はしなかった。ただ、手紙もなんとなく捨てられなかった。封筒に押された消印は俺が一度も立ち寄ったことのない町だった。 #恋する納豆
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結局、それから2~3日後に俺はフリーメールアドレスからそのメールアドレスに連絡をした。一方的な視線に耐え切れなくなったのもある。そして、もちろん好奇心もあって、その2つが恐怖に勝った。俺はメールでこう書いた。「あなたは誰ですか?」 #恋する納豆
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返事はすぐにきた。「返事かえしてくれて嬉しいです・・・」メールの文章は携帯で打ったにしてはすさまじく長いものだった。ただ、結局その長い文章でも俺の質問には答えがなかった。俺は返事をしなかった。 #恋する納豆
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それから、毎日フリーメールアドレスに連絡がくるようになった。内容は彼女(彼?)の細々とした日常の記録だった。俺の返事があるかどうかはお構いなしだった。連絡をとったことを俺はだんだん後悔し始めた。 #恋する納豆
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毎日の彼女の生活報告にうんざりした俺は初めて返事をした。「あなたが誰だか教えてくれないと、このメアドは消します」と。30分ほどして、返事はきた。 #恋する納豆
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そこにはこう書いてあった「○号室の○○子です」。俺は反射的に壁をの方を見た。○号室は隣の部屋だった。 #恋する納豆
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ぞっとした。俺は携帯電話を持って、すぐに部屋を飛び出し、アパートから逃げた。その日は友達の家に厄介になり、アパートには戻らなかった。当然、彼女にも連絡はしなかった。 #恋する納豆
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それでも仕事には行かなければならない。俺は友達の家からアパートにそっと帰り、仕事の準備をするとすぐにアパートを出た。そんなことを何日も繰り返していた。しばらくして、ようやく気持ちが落ち着いてきた頃、俺はアパートの廊下で声をかけられた。 #恋する納豆
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当然、隣の部屋の子だった。「こんにちは」とにこやかに声をかけてきたその子は割と普通の子だった。俺は務めて表情に出さないようにしたが、正直すんげえ怖かった。 #恋する納豆
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彼女自体はまったく見たことがなかった。大抵、アパートの隣の部屋の人なんか見ることはないだろう。彼女は声をかけてきた割には特に話をするわけでもなかった。俺は沈黙が耐えられず、いくつか質問をした。 #恋する納豆
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「いつ頃から住んでいるのか?」「何度か俺を見たがいつか?」答えは明瞭に返ってこなかった。というよりも、もう一度聞きなおすと、答えが変わったりする。なにか変な感じだった。 #恋する納豆
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