夕焼け・土方歳三はゆく【シナリオ版】第四章「江戸へ」
お待たせしました! 「夕焼け・土方歳三はゆく」【シナリオ版】第20回 第四章「江戸へ」第1回 ゆるゆると始めて行きたいと思います。 #試衛館の青春
2013-08-04 18:00:57① 不動堂村・新選組屯所・廊下 夜、静まりかえっている。 一つの部屋から、咳が聞こえる。 咳、段々と激しく、苦しそうになる。 別の部屋の障子が開き、中から寝巻に上衣をはおった千代が出てくる。 #試衛館の青春
2013-08-04 18:02:25千代、咳の聞こえる部屋の前に立つ。 千代「総司さん」 答えはなく、苦しそうな咳が続く。 千代「総司さん、入るわよ」 #試衛館の青春
2013-08-04 18:03:27② 沖田の部屋 障子が開いて、千代が入ってくる。 沖田、激しく咳込んでいる。 喀血で、寝巻も布団も真っ赤。 #試衛館の青春
2013-08-04 18:05:01千代、慌てて沖田にかけより、 千代「大丈夫、大丈夫よ。じきに楽になるからね」 と言いながら、沖田の背中をさする。 暫くして、沖田の咳が治まる。 千代、顔を上げた沖田に優しく微笑む #試衛館の青春
2013-08-04 18:06:18③ 歳三の部屋 歳三、仰向けに寝ている。 目は開いている。 沖田の部屋の方から咳が聞こえる。 歳三、天井を見たまま、動かない。 #試衛館の青春
2013-08-04 18:07:48④ 斎藤の部屋 斎藤、布団から上半身を起している。 沖田の部屋の方から咳が聞こえる。 障子は閉っているが、沖田の部屋の方をじっと見つめている。 #試衛館の青春
2013-08-04 18:08:58⑤ 数日後、沖田の部屋 沖田が寝ている。 千代、枕下に座り、本を読んでいる。 歳三「入るぞ」 障子が開き、歳三が入って来て座る。 #試衛館の青春
2013-08-04 18:11:32歳三、沖田に優しく微笑む。 歳三「思ったより顔色がいいじゃないか」 沖田「いよいよ、京を出ていくんですね」 歳三「えっ」 沖田「寝てても、それぐらいの事、解りますよ」 #試衛館の青春
2013-08-04 18:12:45歳三「そうか」 沖田「で、何処に・・・」 歳三「伏見だ。伏見奉行所」 沖田「そうですか」 #試衛館の青春
2013-08-04 18:14:00歳三「明後日出発する。それまでに、何か始末しておかないといけない事があったら、誰かに頼め」 沖田「私は別に・・・。永倉さん、どうしてます?」 #試衛館の青春
2013-08-04 18:15:11歳三「新八さん?左之助と飲み屋のつけを払うのに走り回ってたが・・・。なんで、お前が気にする?」 沖田「永倉さん。本気で惚れてるひとがいるみたいだから・・・」 #試衛館の青春
2013-08-04 18:16:59歳三「ほう、新八さんにそんな女が・・・ま、新八さんのことだ。心配はないだろう。それよりお前、今日明日、ゆっくり休め」 歳三、出て行く。 #試衛館の青春
2013-08-04 18:18:17千代、大きく嘆息をつく。 沖田「うん?」 千代「お兄ちゃん、一回も、私の顔、見なかった」 #試衛館の青春
2013-08-04 18:19:25沖田「そうだね。でも、千代ちゃんだって一度も、土方さんの方、見なかったじゃないか。・・・可哀想だよ・・・土方さん」 千代「・・・私は?・・・」 沖田「千代ちゃん・・・」 #試衛館の青春
2013-08-04 18:20:53⑥ おりんの店 永倉が、奥の畳の席で、一人手酌で酒を飲んでいる。 最後の客が帰る。 おりん、その客を送り出し、暖簾を仕舞う。 #試衛館の青春
2013-08-05 18:03:24おりん、永倉の傍に行き、酌をする。 おりん「すんまへん。放っといて・・・」 永倉「いいさ、今日はゆっくりしていけるんだから」 #試衛館の青春
2013-08-05 18:04:35おりん「ほんまどすか」 おりん、嬉しそうに微笑む。が、直ぐに、微笑みが消える。 永倉「ん?どうした?」 おりん「いえ、なんでもおへん」 おりん、淋しく微笑む。 #試衛館の青春
2013-08-05 18:05:58おりん「一月ぐらい前どしたやろか、土方 先生が店へ来はりましてん」 永倉「土方さんが?一人でか?」 おりん「へえ、お一人でどす」 永倉「おかしいな。土方さん、酒は飲まないはずだが・・・」 #試衛館の青春
2013-08-05 18:07:29おりん「お一人で、黙って、哀しそうに飲んではりました。うち、男はんのあないな哀しそうなお顔、初めて見ましたわ。そんで、うち、話して、ちょっとでも気ィが晴れるんやったら、聞いてあげよ思たんどす。 #試衛館の青春
2013-08-05 18:09:13うちがそう言うと、土方先生―その時には、そのお人が土方先生やて知らんかったんどすけど―前よりも哀しそうな寂しそうなお顔しはって、うちに、『優しすぎて幸せを掴み損ねることもある。自分のまわりの人達は、自分が幸せになったら、それで喜んでくれる』て言わはりましてん」 #試衛館の青春
2013-08-05 18:11:16永倉「土方さんが。そんな事を・・・」 おりん「そんな時、近藤先生が迎えに来はったんどす」 永倉「局長が・・・」 #試衛館の青春
2013-08-05 18:12:16おりん「へえ。近藤先生は、前に一度、あんさんとご一緒においでになったことがおすさかい、お顔覚えさせてもろとりました。そんで、土方先生やいうこともわかったんどす。近藤先生のお顔見はったとたん、土方先生、泣き出さはりましてん」 #試衛館の青春
2013-08-05 18:13:53永倉「泣いた?あの土方さんが・・・」 おりん「へえ。うちもびっくりしました。土方先生いうたら、鬼の副長て言われてはるお人どすやろ。そやけど、うち思いましてん。土方先生て、ほんまはすごく心根のお優しいお人なんやなあて・・・」 #試衛館の青春
2013-08-05 18:15:24おりん、永倉を見ていた目を、ふと転じ、調理場で後片付けをしている父親を見つめる。 永倉、おりんの横顔をじっと見つめながら、酒が満たされた盃をゆっくりと口へ運ぶ。 #試衛館の青春
2013-08-05 18:16:49