あらすじ:アクマニンジャ「パーピヤース」にナラク・ニンジャを奪われたニンジャスレイヤー。その打倒の鍵となる聖典「テンジク」を求め遥かガンダーラまで辿り着いた矢先、待ち受けていたインドヨーガ同好会の首魁、アプリシアに敗北を喫する。
2013-08-09 21:07:06一方ネオサイタマでは、ニンジャスレイヤーの最も信頼する相棒ナンシー・リーが、西遊記の世界と化したコトダマ空間を突き進んでいた。目的は一つ。封じられたナラク・ニンジャを開放する。もう一つのジャーニー・トゥ・ザ・ウエストを重点傾注せよ。
2013-08-09 21:09:08「ノビロニョイボ!」ナンシーが放った奇妙なUNIXコマンドに応えその手に握られたボーが論理値十五フィートも伸びる!「アバーッ!?」ワータイガーめいた怪物の眉間を貫通!8bit機RPG敵キャラクターの如くドット化崩壊!包囲の輪に穴が空く!「手応えが無いわね!モドレ!」不敵! 1
2013-08-09 21:10:36「フエロニョイボ!」ナンシーが放った奇妙なUNIXコマンドに応えその手に握られたボーが論理値二本にも増える!「「アバーッ!?」」左右それぞれで金魚めいた怪物とサソリ怪人を打擲!花火状のドットを残し爆散!包囲の輪に穴が空く!「本当に手応えが無いわね!モドレ!」不敵! 2
2013-08-09 21:22:01「ヤレニョイボ!」ナンシーが放った奇妙なUNIXコマンドに応えその手に握られたボーが先端からビームを放つ!「「「「「アババババーッ!?」」」」」行く手を塞ぐヨーカイヘンゲの群れが特にエフェクトも無く点滅消滅!プログラマーの手抜きではない、処理が追いつかぬのだ! 3
2013-08-09 21:25:12「ハァーッ、ハァーッ…。手応えが…無いわね…!」不敵な言葉とは裏腹にナンシーの顔色は悪い。恐らく現実世界の肉体も同様だろう。ニョイボはあくまでマジックモンキーの武器であり、ボンズに扮した彼女が扱うにはシナリオの筋を…定義を書き変え続けなければならない。その負担はいか程ばかりか。4
2013-08-09 21:30:21物語の世界に入り込み、自らが主人公となる。それはヤバイ級の称号すらまだ生ぬるい超常的ハッカー、ナンシー・リーにしか出来ない仕事であった。だからやるのだ。無理をする価値は実際有る。無機質ゴシック体の「コングラチェレション」が黒いウインドウに浮かび、周囲を覆っていた霧が晴れてゆく。5
2013-08-09 21:33:29今や彼女の目の前には巨山がそびえ立っていた。遠近法など存在せぬコトダマ空間にあってなおその存在感は圧倒的である。だが、この世界がジャーニー・トゥ・ザ・ウエストに依って成り立つ限り、その運命はただ一つだ。ナンシーが崩す。「ドーモお久しぶり、はじめまして。ナラク・ニンジャ=サン」 6
2013-08-09 21:47:15その姿を痛々しいと形容するのは感傷であろうか。最も邪悪なニンジャ、妄執と殺意の影、あらゆるニンジャの天敵であるはずのそれは、巨岩に押し潰され、千切れた右腕を救いを求めるかのように伸ばしていた。否。その腕は殺すためである。何億、何兆年後かに偶然ここを通りかかるであろうニンジャを。7
2013-08-09 21:51:26「小娘…」「アイサツも無しなんて随分じゃない。知らない仲じゃないけど、そんなに仲良くもないわ。でしょ?」「解け…放てェ…!ニンジャ…!ニンジャ殺すべし…!」「本当に相変わらずなのね。待って、このサイズなのよ。時間がかかるわ」 8
2013-08-09 21:56:28ナンシーはナラクの傍らに座り込んだ。その自殺行為を咎める者はこの空間には存在しない。「時間がかかるわ。やだ、そんなコワイ目で見ないでよ。…そうね、取引よ。何かお話ししてちょうだい」そう呟くと、ナンシーはペケロッパめいたマントラを唱え始めた。岩塊が震え、パラパラと砂を落とす。 9
2013-08-09 22:00:30やがてナラクは何事かを語り始めた。それは不肖の弟子、フジキド・ケンジへの不平だったかもしれず、何かニンジャ殺しの手柄話めいた物だったのかもしれない。あるいは。いずれその言葉はコトダマ空間認識者でない我々には決して届かない。彼女と彼の間にのみ交わされる、触れ得ぬ会話であった。10
2013-08-09 22:04:54那由多のクロックが刻まれた頃、岩山は既に形を失い、ナラク・ニンジャは立ち上がった。片腕、片足である。窄まった瞳孔が天を睨んだ。暗雲が千切れ、飛び来た。「イヤーッ!」戦慄すべき、そしてどこか晴れやかなカラテ・シャウト。ナラクは雲に乗り、西の彼方へと飛び去った。 11
2013-08-09 22:11:16血中カラテがもう無い。無謀はいつもの事だが、今回は勝手が違った。遠い異国、ニューロンの同居者も今は無く、相手は得体知れぬインドニンジャ。力なく宙を舞うニンジャスレイヤー…フジキド・ケンジはそれでも冷静であった。こうなる事は分かっていたからだ。これはいつか訪れる結末に過ぎない。12
2013-08-09 22:17:47思い残す事と言えば、ネオサイタマで死ねたなら、それだけだ。猥雑なネオン街、降りしきる重金属酸性雨、無秩序にわめき立てる広告音声、跋扈するヤクザ、ニンジャ、有象無象、…マルノウチ・スゴイタカイビル。故郷で死ねたなら。ニンジャへの憎しみを故郷ネオサイタマに刻み付けて死ねたなら。 13
2013-08-09 22:21:26上昇はいつしか下降へと変わっていた。体に力が入らぬ。モータルと、人と同じだ。熟したカキが地に落ちるが如く潰れて死ぬだろう。ガンドー、アコライト、エーリアス。巻き込んでしまった。スマヌ。せめて逃げ延びてくれ。取り留めのないソーマト・プロープ・リコールが流れる。 15
2013-08-09 22:24:34眼下には大河…母なるガンジス川。もっとも、地理に明るくないフジキドはそれを知らぬ。墜落死の予定が溺死に変わった、それだけの事であった。炎の消えた双眸を閉じ、未練がましく続けていたチャドー呼吸を止める。数秒後、隕石衝突めいた着水音と水柱を残し、その体は濁流へと沈んでいった。16
2013-08-09 22:30:31残った右の聴覚がまとわりつく泡の音を捉える。それもすぐに消えた。ウシミツ・アワー、透明度皆無の水中は完全なる無明である。死とは無である。堆積する無である。フジキドもそれに混じろうとしていた。川底から死者の手が伸び、その傷だらけの肩を掴んだ。だが彼は抗った。手を振り解く。17
2013-08-09 22:34:09反射的な行動である。一定以上のカラテ段位を持つ者は敵意を持って自らに触れる何かを本能レベルで拒むのだ。それは意志とは無関係の、本人とは乖離したカラテの結果である。意志が無くば死人である。死体が動き、数秒の生を得た。ただそれだけだった。それだけのはずだった。(((グググ…)))18
2013-08-09 22:36:16フジキドの総毛が逆立つ。余りに聞き覚えのあるしわがれた声。有り得ぬ。(((グググ…渦巻いておるわ…!恨みが…ニンジャへの恨みが…!死人よのう、ここは死人だらけよのう…!ニンジャに殺されたモータルどもが、掃いて捨てるほど沈んでおるわ…!ググ…グググ……!))) 19
2013-08-10 11:59:55((殺せ))((殺せ))((殺せ))((殺せ))水底より無数の声が湧き上がる。聖水を湛える大河にそぐわぬノロイはしわがれた声へと重なってゆく。慈悲深い女神は怨念までを流しはしなかった。彼らはわだかまり、待ち続けていたのだ。代弁者を、代行者を。(((何をしておる…?))) 20
2013-08-10 12:05:46「ナラク」フジキドはそう声に出した。口から泡が漏れた。(((待ちわびたか…?このワシを…!そうであろう、そうであろう…!さあ体を貸せ…!殺そうぞ…!ニンジャ殺すべし…!)))「黙れナラク」((インド…?ヨーガ…?タワゴトよ、ニンジャはニンジャ…!殺すべし!))「黙れナラク!」21
2013-08-10 12:11:03叫びと共に肺に残る空気を全て吐き切ったフジキドは、ガンガーの生水を深々と飲み込んだ。乏しい酸素を巡らせるべく心臓が鼓動を早める。血流に乗った鉄と硫黄が全身を走る。もはや上下すら定かで無い暗黒の中、ニンジャ視力が月光を見出す。道標である!(((やろうぞ…フジキド…!))) 23
2013-08-10 12:17:07