救済の物語構造(仮)とロマンチックラブ・イデオロギーについて

『眠れる森の美女』や『白雪姫』等に代表される、王子様がお姫様にかけられた呪いを打ち破って結ばれるようなお話を『救済の物語構造』と定義し、社会学で言われるロマンチックラブ・イデオロギー(一夫一婦制度に基づく恋愛、婚姻、性交の三位一体主義)との関連で、記述しています。大きなテーマなので、文章については徐々に加筆していければと思います。
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へなへなQ @Braumaz

先ほど少し言及した「救済の物語構造(仮)」について長く追記。救済の物語構造(仮)とは、一方の性(A)が、他方の性(B)にある課題を解決する事で(B)が(A)を好きになる恋愛物語の構造を指す。時にAに反するCやDというライバルも存在する。

2013-08-11 20:32:00
へなへなQ @Braumaz

中世フランスの騎士道恋愛ものに始まり、童話等でも描かれてきた。アニメでは、涼宮ハルヒ(閉鎖空間)俺妹(人生相談)、宮崎駿作品の多く、ディズニーアニメ等。『言の葉』は、男/女が女/男に相互に救済される構造を持つが、ここに含まれると言ってよい。

2013-08-11 20:32:18
へなへなQ @Braumaz

こうした物語構造は、恋愛の結果、近代のキリスト教+資本主義的的な価値観(妻の人格、財産、生活のすべてを夫の管理下に置く)を強化する、ロマンチックラブ・イデオロギーを構成するもののひとつとして、主に女性解放の面から批判されてきた。

2013-08-11 20:32:41
へなへなQ @Braumaz

こうした批判は、妻が夫に従属する価値観が機能しない複雑な社会ではあまり機能しないが、この構造が、A=強者、B=弱者という非対称性を持つ以上、格差批判自体からは逃れられない。では、こうした批判は受け入れられるべきか。問題は単純ではなく2例ほどカウンターを挙げる。

2013-08-11 20:38:14
へなへなQ @Braumaz

一つには、ジェンダー観点を除けば、救済の物語構造が持つ競争原理の否定が、従来の格差構造を強化してしまう点。騎士道恋愛ものは、社会的価値がなく兵士になるしかない、次男=弱者の為の恋愛と言われてきた事を忘れるべきではない。(より退行的)

2013-08-11 20:38:53
へなへなQ @Braumaz

一つには、競争回避がコミュニケーション志向を弱め小児的自己愛へ向かわせる点。恋愛ものが全て救済の構造を持つ訳ではないが、小児的な自己愛〜母性耽溺〜母性が要請される近代的な価値規範の承認というメカニズムに回収され易くなる。(批判が別の形で実現)

2013-08-11 20:39:17
へなへなQ @Braumaz

とはいえ、こうしたカウンターは、格差観点からの批判を根本的なレベルで排除しない。救済の物語構造を含め文化とは豊かさだけど批判は残り続ける訳で、結局の所は「正しいが貧しい」「豊かだが正しくない」選択の問題になる。

2013-08-11 20:40:03
へなへなQ @Braumaz

重要なのは、いずれの選択も単純な評価や批判で片付けられない、ということ。無批判な救済の物語構造の承認も安直なロマンチックラブ・イデオロギー批判も簡単には機能しない、複雑な社会に我々は生きているのでは?ということ。 (終)

2013-08-11 20:40:51

追記その1:RPG的な物語、ロマン主義的恋愛(ロマンチック・ラブ)、ロマンチックラブ・イデオロギーの関係

ドラゴンクエスト

http://twitpic.com/d8papd
1986年発売。 堀井雄二・エニックス作
RPGの世界観を完成させた作品。
主人公は、伝説の勇者ロトの血を引く勇者として、竜王にさらわれたローラ姫を救い出し、竜王を倒す。物語性はまだ低いものの、その後のRPGの物語の基礎構造はすべてこの作品に現れている。

へなへなQ @Braumaz

救済の物語構造を含むロマンチックラブ・イデオロギーを体現する典型は、RPG的な物語。これは(1)少年が村=共同体から世界へ冒険に出かける(2)魔物に囚われたお姫様を救って、世界を救う(3)お姫様と「いつまでも幸せに暮らしましたとさ、おしまい」 という流れを取る。

2013-08-15 14:02:12
へなへなQ @Braumaz

なぜかというと、ゲームのインタラクティブ性は「課題」「回答」「報酬」のメカニズムで構成される為、ゲームで物語を描く際にウマがあったから。つまりロマンチックラブ・イデオロギーは、近代批判~性解放の流れとは別に、システム的な要請から再生された、現代的な問題としても捉えられる。

2013-08-15 14:02:48
へなへなQ @Braumaz

続いて。ロマンチックラブ・イデオロギーの基は、19世紀のロマン主義的な恋愛にある。これは、(1)既存の社会体制への反抗と敏感な感受性を持つ個への執着(2)情熱的な恋愛と関係の唯一性への希求(3)結ばれた相手と新しい現実を見つける という特徴を持つ。

2013-08-15 14:04:06
へなへなQ @Braumaz

ロマン主義的な恋愛をロマンチックラブ・イデオロギーに繋げたのは、社会に対し反抗的だが市民にとって魅力があるロマン主義的な愛を、神が祝福することにより、市民と社会を接合するメカニズムで、理由は資本主義とか女性は財産求めがちだよね…とか、色々。

2013-08-15 14:05:04
へなへなQ @Braumaz

重要なのは、ロマン主義的な恋愛が、ロマンチックラブ・イデオロギーに対し批判的である点。理由はロマン主義的な恋愛が、既存の社会体制への批判と新しい現実(外部)を求めるため。

2013-08-15 14:05:49
へなへなQ @Braumaz

このように、ロマンチックラブ・イデオロギーは、性解放・格差観点(改良主義的色彩が濃い)とロマン主義的恋愛の観点(原理的であり両義的)から批判される。救済の物語構造やロマンチックラブ物語を考える場合、この両者を紐解いていく必要があるんじゃないかと考えてます。

2013-08-15 14:06:54

追記その2:ロマン主義的恋愛(ロマンチック・ラブ)の変遷

『若きウェルテルの悩み』

http://twitpic.com/d8p7ci
1774年刊行。ゲーテ著
ロマン主義にきわめて大きな影響を与えた、ロマン主義的恋愛物語の金字塔
婚約者のいる娘シャルロッテ(ロッテ)に恋心を抱く若者ウェルテルと、彼に好意を抱きつつも婚約者との関係からそれが許されなかったロッテ、そしてロッテとお似合いの婚約者である好人物アルベルトの交流を、ウェルテルから友人への書簡という形式で綴った作品。

へなへなQ @Braumaz

作品は前述したロマン主義的な恋愛の特徴を多く持つ。取り上げたいのは、ウェルテルは最後に自殺するが、これは失恋というよりも、自らの愛への情熱と社会との衝突に妥協せず、情熱を選択した結果だということ。つまりこの作品では、ロマン主義的な愛は、成就しない事により、逆に強化されている。

2013-08-16 14:49:07
へなへなQ @Braumaz

このように作品は社会に対する個の優越性を謳ったものだが、キリスト教的に許されない自殺ラストを否定しハッピーエンドに改変、主にロッテの社会生活を慮った故のウェルテルの禁欲を肯定することで、やはり情熱と禁欲を神が祝福するロマンチックラブ・イデオロギーへと繋ぎ込まれる。

2013-08-16 14:50:28
へなへなQ @Braumaz

この改変は悪夢ではあるが、ロマン主義的な恋愛は、社会に対する個の優越を唱えつつも、恋愛の成就を求める以上は、社会との融和を否定できない点で、両義性を抱えるのも事実。結果としてロマン主義的な恋愛は、調和的な方向へ発展せざるを得ない。

2013-08-16 14:51:06
へなへなQ @Braumaz

ちなみにゲーテはロマン主義者ではなかったが、ロマン主義は啓蒙主義的なルネッサンスを否定し中世LOVEに走る傾向があって、『中二病でも恋がしたい!』の六花がゴスロリルックなのは、とても正しい。

2013-08-16 14:53:36

新海誠

秒速5センチメートル

http://www.youtube.com/watch?v=vX8U7kLv8c8

言の葉の庭

http://www.youtube.com/watch?v=udDIkl6z8X0

2002年に、監督・編集・作画等を全て手がけた『ほしのこえ。』で大きな注目を浴びる。きめ細やかな背景とモノローグ、緻密な編集等が特徴。ゲーム制作のノウハウを生かしつつ、アニメーションならではの叙情性を描く。

へなへなQ @Braumaz

では現代でこうしたロマン主義的な恋愛を現す作家のひとりとして、新海誠監督を挙げる。『ほしのこえ』『雲のむこう』『秒速』まで、氏の作品は、RPG的な物語に対して否定的でありつつも、愛への情熱を否定することで、逆に強化する構造を持つ。

2013-08-16 15:23:27
へなへなQ @Braumaz

そして『秒速』観て昔の彼女に電話して結婚するようなハッピーエンド化ニーズも同様にあり(氏のインタビューより)、『星を追う子供』で「喪失とともに生きる事は、呪いであり救い」と具体的に語り、情熱(主観)の問題を対象化(相対化)することで、ある種の決着をつけた。

2013-08-16 15:24:27