産経の主張『集団的自衛権 「不退転」で行使容認急げ』を批判する by 南野森 @sspmi

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南野 森(MINAMINO Shigeru) @sspmi

①この記事、各紙の社説を比較していて興味深い。これを読んでいておやっと思ったことがあるので、以下、連投する。> 【社説検証】法制局長人事と集団的自衛権  行使容認への期待示す産・読  朝・毎・東は長官交代を批判 - MSN産経ニュース http://t.co/oTCSZckKT9

2013-08-14 21:29:18
南野 森(MINAMINO Shigeru) @sspmi

②同記事は、内閣法制局の解釈につき、《産経は「実際は時代により変遷している」と断じ、「(昭和)33年10月には、林修三法制局長官が岸信介首相と協議し、『日本にも制限された意味での集団的自衛権もある』と、合憲とする統一解釈を決めている」などと、解釈の変遷をつぶさに紹介した》とする。

2013-08-14 21:30:48
南野 森(MINAMINO Shigeru) @sspmi

③法制局長官と首相が「協議し…合憲とする統一解釈を決めている」というのはよく分からない。いつどのような場でどのように協議されたのか、そしてそれが政府の見解として公式に発表されたものなのか、その辺りの説明を一切せずに「決めている」と言われても。そんな社説をこそ「検証」してほしい。

2013-08-14 21:31:49
南野 森(MINAMINO Shigeru) @sspmi

④検証してくれないので、私自身で当該社説(http://t.co/uZsdi3fF8a)にあたってみた。要するに、集団的自衛権行使を違憲とする政府解釈は「歴代法制局長官が答弁を積み重ねてきた」などど法制局は主張するが、「実際には時代により変遷している」ということを主張する内容。

2013-08-14 21:32:33
南野 森(MINAMINO Shigeru) @sspmi

⑤「時代により変遷」してきた証左として産経社説が挙げるのは、第一に「33年10月には、林修三法制局長官が岸信介首相と協議し、『日本にも制限された意味での集団的自衛権もある』と、合憲とする統一解釈を決めている」こと。これは先述の通り、詳しい情報を出してほしい。事実だとしたら驚く。

2013-08-14 21:33:23
南野 森(MINAMINO Shigeru) @sspmi

⑥第二が「林氏はその2年後、『集団的自衛権を私は日本の憲法は否定しておるものとは考えません』と答弁した。岸首相も同じ時期、『一切の集団的自衛権を憲法上持たないのは言い過ぎ』と述べた」こと。これも詳細情報まったくなし。とくに林長官がそのように国会で「答弁した」とするとこれまた驚愕。

2013-08-14 21:34:23
南野 森(MINAMINO Shigeru) @sspmi

⑦林長官が昭和35年に「集団的自衛権を私は日本の憲法は否定しておるものとは考えません」と「答弁した」というのは全く信じられないので調べてみた。すると、産経新聞論説委員長の中静敬一郎氏が2006年10月に書かれた「一筆多論」に辿り着いた。http://t.co/Z9o9g6p2vv

2013-08-14 21:35:35
南野 森(MINAMINO Shigeru) @sspmi

⑧そこには次のような一文があった:「昭和35年3月31日の参院外務委員会で、林修三内閣法制局長官は『集団的自衛権を私は日本の憲法は否定しておるものとは考えません』と答弁した」。恐らくこれが、2013年8月9日の産経社説の元ネタになっていると見て間違いないだろう(執筆者も同じか)。

2013-08-14 21:36:41
南野 森(MINAMINO Shigeru) @sspmi

⑨当時はまだ内閣法制局ではなく法制局であったという点は凡ミスとしても、国会会議録を調べると、林長官の当該答弁が登場するのは外務委員会ではなく予算委員会であった。それもまあ大目にみよう。しかし肝心の発言内容は、改竄とまで言うかは兎も角、少なくとも酷く恣意的な引用と紹介だと私は思う。

2013-08-14 21:37:46
南野 森(MINAMINO Shigeru) @sspmi

⑩産経の引用を再掲する:「林氏はその2年後、『集団的自衛権を私は日本の憲法は否定しておるものとは考えません』と答弁した」。こう書かれると、常識的には、当時は集団的自衛権合憲論でその後現在のような違憲論に替わったと理解するのが普通だろう。しかし、長官の答弁は全然違う内容なのである。

2013-08-14 21:39:42
南野 森(MINAMINO Shigeru) @sspmi

⑪林長官は、集団的自衛権という言葉で理解されるものには色々あるとしたうえで「その中で一番問題になりますのは…自分の国と…密接な関係のある他の外国が武力攻撃を受けた場合に、それを守るために、たとえば外国へまで行ってそれを防衛する」もので、それは憲法上認められていないと明言している。

2013-08-14 21:40:44
南野 森(MINAMINO Shigeru) @sspmi

⑫それに続けて、集団的自衛権の他の定義を問われ、次のように長官は答弁する。全文を引用する:「これはいろいろの内容として考えられるわけでございますが、たとえば現在の安保条約におきまして、米国に対して施設区域を提供いたしております。あるいは米国と他の国、米国が他の国の侵略を受けた(→

2013-08-14 21:41:49
南野 森(MINAMINO Shigeru) @sspmi

⑬場合に、これに対してあるいは経済的な援助を与えるというようなこと、こういうことを集団的自衛権というような言葉で理解すれば、こういうものを私は日本の憲法は否定しておるものとは考えません」。以上である。基地提供や経済援助を集団的自衛権と定義するなら、それは合憲だと述べただけである。

2013-08-14 21:43:34
南野 森(MINAMINO Shigeru) @sspmi

⑭というわけで、産経社説は裏取りをしていないか、したうえで林答弁の意味を理解できなかったか、理解できたがそれを社論に都合よくねじ曲げたかのいずれかであり、いずれにしても驚くべき低レベルであると評価せざるをえない。また、産経社説では政府解釈の確立を鈴木内閣の1981年としているが→

2013-08-14 21:44:13
南野 森(MINAMINO Shigeru) @sspmi

⑮これも事実に反しており、通常は1972年に確立したとされているものの、実際には先の林長官答弁(1960年3月)や同年2月の岸首相答弁から言われているものであることについては、拙稿「憲法解釈の変更可能性について」(http://t.co/OL8Sh7BEo6)の注31にある通り。

2013-08-14 21:45:02
南野 森(MINAMINO Shigeru) @sspmi

⑯最後に、林長官と岸首相が1958年に「『日本にも制限された意味での集団的自衛権もある』と、合憲とする統一解釈を決めている」ということの詳細が知りたい。そのような決定が事実だったとしても、「制限された意味での」というところに当事者が込めた意味がこの場合重要ではないかと思う。以上。

2013-08-14 21:46:23