やられちまつた男の子の記録

@hamariが#twnovelタグで投稿した140字小説のまとめです。 特に統一されたテーマもなく、思うがままに筆を走らせたものです。 読んで、楽しんでいただければ幸いです。
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はまりー @hamari

#twnovel 神社についた頃には夏祭りはもう終わりかけている。浴衣姿のきみの手を引きながら、ぼくは金魚すくいの屋台に急ぐ。たらいの中の金魚はもうほとんど溶けかけていた。この暑さだからねぇ、テキ屋が云う。金魚を掬い上げたお椀に、まるで絵の具を溶かしたように朱や金の色が溶け出す。

2009-08-18 20:37:58
はまりー @hamari

#twnovel 黄泉路のように暗い本棚の谷間を、洋灯を頼りに司書と二人歩く。私は引き返そうと云うが司書は首を振る。探しているのはくだらない本だ。薄く中身がなく傷だらけで読む価値もない。くだらなくなどありません。司書は云う。この六十億冊の中にきっと一冊ある。貴方の人生の物語が。

2009-10-11 16:03:16
はまりー @hamari

#twnovel 盲目の私のために、弟は目になってくれた。毎日病室に立ち寄って、その日にあったことを話してくれる。空の青さや、夕陽の美しさを私は弟から学んだ。恋を見たいと頼むと、弟は空と夕陽の美しさを語った。同じじゃない。私が云うと弟は笑った。違うよ、ぜんぜん違うんだお姉ちゃん。

2009-10-04 00:53:15
はまりー @hamari

#twnovel 紐の切れたミュールを片手に抱え、とうとう私は裸足で歩き出す。目の前には鬱蒼としたマングローブの森……ではなく、交通標識の林。失恋者通行止め。片思い進入禁止。重量制限35キロ。前方本妻優先道路。両思い専用。すべて無視して、わたしは歩き出す。それでも会うんだ、彼に。

2009-11-23 17:31:48
はまりー @hamari

#twnovel 姉は恋人を替えるたびに古い携帯を裏庭の池に投げ捨てた。池の底に沈んだ携帯の多くは二度と鳴かなかったが、一つだけいつまでも着信音を響かせる携帯があった。何年経っても、池の底からは姉を呼ぶ音が響き続けた。お元気ですか。姉にはもう二人も子供がいます。あなたもお幸せに。

2009-11-16 21:01:37
はまりー @hamari

#twnovel 実家では鳥籠の中で歌姫を飼っていた。銀の匙で黒砂糖の欠片をすくい、金箔をまぶして飲ませると、歌姫は綺麗なソプラノで鳴いた。近所からうるさいと苦情が出て、親は裏の山に歌姫を捨てた。いまでもたまに帰省すると、裏山から微かな声で『魔笛』のコロラトゥーラが聞こえてくる。

2009-11-14 22:40:30
はまりー @hamari

#twnovel 家族合わせの籤を引く。百人の父。百人の母。子供の数は百と一人。籤に外れた子供は、家へと帰る友達の背中を睨みながら、遊び疲れた身体を抱え、いつまでも砂場で城を造りつづける。夜になり、百の家の窓にともしびが灯る。楽しげな声を遠くに聞きながら、子供は城を造りつづける。

2009-10-18 23:01:18
はまりー @hamari

#twnovel 城を追われた王女は森に隠棲した。付き人は執事の少年一人。木の箱を城に見立てて、王女は人形遊びをして過ごした。たくさんの人形に囲まれていると現実を忘れられた。執事は木を彫って自分の人形をつくり、王女の人形のそばに置いた。王女はうつろな顔を上げ、はじめて彼を見た。

2009-08-30 22:47:33
はまりー @hamari

#twnovel 夜店で売られていたヒヨコのことを思う。あいつらはみんな死んでしまったんだろうか。戯れで命を売られる群れの中から逃げだし、神社の境内を杜の中へと逃げて生き延びたヒヨコだっていたかもしれない。いて欲しい。そんな事を思いながら、ぼくは百日振りに教室のドアを開ける。

2009-11-16 20:55:05
はまりー @hamari

#twnovel 古びた皮の表紙から埃を払い、私はアルバムを開く。卒業写真のクラスメイト達が私を見て歓声を上げる。懐かしい声がわたしの古い苗字を呼ぶ。ねぇ、素敵な人には出会えた? 一人の少女が目を輝かせて訊ねてくる。わたしは微笑む。さぁ、それは大きくなってからのお楽しみだよ、私。

2009-10-03 01:35:30
はまりー @hamari

#twnovel 妻は種を残して死んだ。種を庭に撒くと、数日後に芽が生えた。桃栗三年柿八年人生五十年。実になった妻と再び話ができるまで私は生きていられるだろうか。縁側に座り、煙草に火をつける。十五年あれば妻の願いは叶う。彼女は良く云っていた。若い頃の私を見て貰いたかったわ、貴方。

2009-12-27 01:17:32
はまりー @hamari

#twnovel 敷金無用。礼金無用。家賃無用。三食支給。冷暖房完備。胎盤完備。紐帯完備。期間十ヶ月。退出後の人生については一切ノークレームノーリターンで。

2009-12-30 18:10:11
はまりー @hamari

#twnovel 「クリスマル・キャロル・シスターズ!」「私達あなたを改心させちゃうよ」そう云いながら部屋に飛びこんできた三人の少女。“過去”は薄っぺらいアルバムを引っ張り出して呆然とし、“現在”は通帳の預金残高を見て愕然とし、“未来”はただ泣きじゃくっている。帰れ、おまえら。

2009-12-24 19:11:55
はまりー @hamari

#twnovel その無人駅には時刻表が無い。電車は留まることなく通り過ぎてゆき、そのたび吹く風が古新聞を舞い上がらせる。古新聞は誰かの足に絡みつく。ホームには立ち尽くす数人の人影。わたしはベンチに座り、水筒の紅茶を飲んで、乗車の時を待つ。この駅に電車を止める方法は一つしかない。

2009-11-18 23:18:44
はまりー @hamari

#twnovel 小学校の保健室で、お前は鞘だと教えられた。朱漆牡丹紋の身体は、年を経るごとに色付いていく。刀を誘うような自分の潤んだ鯉口を、私は嫌悪した。血塗られた刀などこの身に受け入れたくない。私は独り合戦場を往く。刀を求める身中のうつろの声に耳を塞ぎながら。私は独り、鞘だ。

2009-10-10 20:33:18
はまりー @hamari

#twnovel 其の國は何処に在りや。黒曜石の壁を街灯の明かり照らし、街路に人々の影蠢くその國は。仏蘭西煙草の煙中に垣間見えしその國は。燐寸一本擦る間に、闇に消えたその國は。現世で彼の國を訪う術を知らず。ただ夢寐に縋るのみ。ならばわれに賜へ、甘き眠り。われに賜へ、片道の旅券。

2009-10-08 22:12:50
はまりー @hamari

#twnovel 昔、拒食症の狼がいてね、たまに口にするものといえば菫の花びらをほんのふたかけら。野兎や栗鼠が足元を駆け回っても、狼はみじろぎもしない。やがて狼は飢えて死んで、そこは一面の花畑になったの。……そんな人がわたしの理想。今夜は送ってくれてありがとう。おやすみなさい。

2009-08-26 23:13:03
はまりー @hamari

#twnovel ラジオを買ったらタイアが四個ついてきた。ライトや灰皿までついている。いちばん奇妙なのは専用のシートがついていることだ。最近のラジオは多機能すぎて訳がわからんなぁと思っていると、隣のシートに女が座った。「海までつれていってよ」何云ってんのこの人、これラジオなのに。

2009-09-01 21:05:25
はまりー @hamari

#twnovel あたし、今日から帝国になる。バイト先でうるさい同僚に作り笑いするのやめる。親の小言を黙って聞くのやめる。満員電車我慢して乗るのやめる。あたし帝国だから。軍隊も戦車も持ってないけど、今日から帝国だから。強いんだから。絶対、一人でこっそり泣いたりしないんだから。

2009-08-18 17:30:18
はまりー @hamari

#twnovel 比叡の僧侶を三千人、惨殺せしめし是界坊、赤い欄干高下駄で、天下を見下ろし高笑い、増長したる大天狗、調伏せんと進みしは、見れば比叡の大僧正、錫杖の音殷々と、喉からこぼれしiLLなRhyme、天狗も踊るメロウなスタイル、朝まで飛ばすぜROCKIN DA HOUSE。

2009-09-26 19:47:49
はまりー @hamari

#twnovel 浴衣は肌襦袢目ユカタ科に属する寄生生物である。夏期、浴衣は外皮を鮮やかに彩ることにより寄生主との接触を図る。寄生主と接触した浴衣は、その汗、唾液、その他の体液、こぼれたホットドックのソース、綿あめのかけらなどにより養分を得て、冬期は主に箪笥の奥で冬眠活動に移る。

2009-09-12 22:55:06
はまりー @hamari

#twnovel 風鈴売りの屋台が路地に止まっていた。秋の声を聞くこんな時分に風鈴か。冷やかし半分で近づいたわたしの足は屋台の前で凍りつく。夏の海で別れた彼女の笑顔が、硝子に描かれ風に揺れている。金を差し出したわたしに風鈴売りは首を振る。売れません。夏は終わったんです、お客さん。

2009-08-28 07:40:41
はまりー @hamari

#twnovel 忌まれて生まれ、産声聞かずに母者は逝って、幼子抱えて父者は窮し、上の姉者は女衒に売られ、下の姉者は製糸場、俺は場末で炬燵売り、炬燵はいらんか、炬燵はいかが、蜜柑をつけるよ、甘い蜜柑、照らすは夏のお天道様、声を嗄らすも炬燵は売れず、ああ、飛んでいきたや母者の元に。

2009-09-30 23:14:58
はまりー @hamari

#twnovel 子供たちは花壇に花の種を植え、花の名前を書いた札を立てた。芽が吹き、花は咲き誇り、枯れて消えた。やがて子供たちも消え、街も消えた。廃墟になった街に、風が吹いた。風に混じった亡霊の声が花の名を呼んだ。rose。花壇の跡に、濃厚な薔薇の香りが一瞬漂い、じきに消えた。

2009-09-20 22:47:11
はまりー @hamari

#twnovel 誰もいなくなった居酒屋で、わたしはあの人がつかっていたグラスに触れてみた。まだ火傷しそうに熱い。子供の頃風邪を引いて、それ以来平熱が八十度から下がらないのだとあの人は云った。少しずつ消えていく彼の体温を惜しみながら、わたしはあの人に抱かれて焼け死ぬ自分を夢見た。

2009-09-08 20:38:11