烏賀陽弘道 @hirougaya 氏が語る「『二元論』論」

烏賀陽弘道氏による「二元論」的思考批判。二元論はなぜ人気があるのか、実世界は二元論で説明できるのか、をわかりやすく解説。
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烏賀陽 弘道 @hirougaya

1)こないだの「絶対善」と「絶対悪」を設定して現実を認識してしまう「現実のdarma化」について続き。このように世界を対立、相反する二つの要素で理解する認識方法を「二元論」というのはみなさんご承知かと思います。

2010-09-30 20:47:28
烏賀陽 弘道 @hirougaya

3)「善玉」「悪玉」で現実を認識する手法は、広まりやすい。理解が簡単だからです。きょう電車の中吊り広告で週刊文春だか新潮だかに「前田検事を刺した美人検事」てな見出しが出ているのを見て「ほれ来た、来た」と快哉を叫んだ。twitter上でもそういう安直な言説が飛び交っている。

2010-09-30 20:50:51
烏賀陽 弘道 @hirougaya

4)こういう二元論はプロパガンダやデマゴギーの王道なので、効果は歴史が照明しています。こういう言説を使う人はだいたい大衆的人気を得ます。逆に、大衆的人気を得たい人は二元論を好みます。

2010-09-30 20:52:35
烏賀陽 弘道 @hirougaya

5)ユダヤ人/アーリア人って二元論も大人気でしたし、鬼畜英米/大東亜共栄って二元論もみんな熱狂しました。

2010-09-30 20:53:43
烏賀陽 弘道 @hirougaya

6)その後も「資本主義/共産主義」「資本家/労働者」なんてのもありました(今でも熱狂しているしぶとい人、いますね)。その亜種として「経営者/労働組合」なんてのも今でも形だけ組織が残っています。

2010-09-30 20:55:06
烏賀陽 弘道 @hirougaya

7)そのほか、日本の言論空間にも二元論は根強い人気とパワフルな効果を誇っています。本多勝一の「殺す側/殺される側」なんてのはものすごいわかりやす二元論です。

2010-09-30 20:56:27
烏賀陽 弘道 @hirougaya

8)朝日新聞をはじめとするリベラルメディアは「保守/革新」とか「企業/市民」とか自分で二元論を創作して、その片方が消滅したあとは、翼が半分取れた飛行機のようにヨレヨレしながら飛んでいます。多くの人がそれは言論として機能しないことに気づき始めていますが。

2010-09-30 20:58:37
烏賀陽 弘道 @hirougaya

9)1990年代になって、小林よしのり氏が大人気になったとき、ぼくは「なつかしい!」と膝を打ちました。あの「敵/味方」など「自分側/相手側」を二元的に分類して「自分側」は徹底的に美化し、相手側をカリカチュアライズする手法は、まさにマルクス、毛沢東、本多勝一的な二元論だったのです。

2010-09-30 21:01:22
烏賀陽 弘道 @hirougaya

10)ですから、小林よしのり氏が本多勝一、朝日新聞など旧左翼系リベラル言論を蛇蝎のように嫌い、衝突したとき、 ぼくは「さもありなん」と首肯しました。なにせ、両者は同じ人二元論で世界を見る「ルールが同じの格闘技選手」みたいなものです。同じ土俵で衝突できるのです。

2010-09-30 21:03:18
烏賀陽 弘道 @hirougaya

11)こうした二元論的言説は、今も大人気です。最近、30万部を売り上げたとか(出版不況じゃないの??)と評判の「若者奴隷化社会」はすばらしい本ですが、ひとつ古くさいと思ったのは「若者/中高齢者」という二元論(二項対立といってもいい)を何の疑いもなく前提にしていることです。

2010-09-30 21:05:42
烏賀陽 弘道 @hirougaya

12)この作者は「嫌韓流」でまた日本のゼノフォビアさんたちを結集させた人ですから、二元論は得意です。「日本人/韓国人」とか「日本人/中国人」=「われわれ/彼ら」という二元論をまったく躊躇なく使うところがすごい。

2010-09-30 21:07:28
烏賀陽 弘道 @hirougaya

13)彼はどこでこの二元論的世界観を育てたのだろう?年代的に、小林よしのり氏かな?とか邪推したのですが、考えてみると、日本人は1945年生まれ団塊の世代から「帝国主義/植民地解放」とか「米帝/人民」とか二元論に染まっているので、まあ平凡な日本人の一人なのでしょう。

2010-09-30 21:09:08
烏賀陽 弘道 @hirougaya

13追記)いやいや、戦前から、いやいや、明治維新のころから二元論好きだな、日本人は。わはは。

2010-09-30 21:10:17
烏賀陽 弘道 @hirougaya

14)「人間は無知と死と不幸を直すことができなかったので、幸福になるためにそれらについて考えることをやめた」(パスカル)といいます。人間、幸福になる最大の近道は考えないことです。

2010-09-30 21:12:17
烏賀陽 弘道 @hirougaya

15)しかし、人間にはこの現実世界を理解したいという欲求があります。「考えるのは嫌だ、面倒だ、しかしこの現実を理解するイージーな思考形態がほしい」という人は「既製服」のような既存の現実認識、価値体系に飛びついて依存します。二元論もそのひとつでしょう。

2010-09-30 21:14:02
烏賀陽 弘道 @hirougaya

16)「既製服のような思考形態(思考体系、価値体系)」の好例は宗教や政治思想です。キリスト教がいうように「全知全能の神があなたを絶対的に愛している」と「仮定」すると、人生はものすごくラクで楽しく思えます。

2010-09-30 21:16:49
烏賀陽 弘道 @hirougaya

17)人生や世界の行動規範はすべて「神の御心のままに」なる。究極的には聖書に書いてあるとおり=マニュアル通りに生きれば「恵み多き」「清き」人生として信者や教会がほめてくれます。(実際のキリスト教会はそこまで浮世離れしていませんが)

2010-09-30 21:19:08
烏賀陽 弘道 @hirougaya

18)逆にいいますと「現実的になる」ということは、いかに二元論的な認識から離脱するかにかかってきます。実は「知的成長」とは二元論的な世界観から脱出することとほぼイコールです。

2010-09-30 21:20:26
烏賀陽 弘道 @hirougaya

19)ぼくもそうでしたが、若者は世界を理解する経験値を持たないことが多いので二元論に惹かれます。

2010-09-30 21:21:02
烏賀陽 弘道 @hirougaya

20)しかし、現実はおそろしくそうした二元論を拒否します。最悪の人間が最高の善行を見せます。まったく努力をしなかった人間が最高の成功をおさめ、誰よりも勤勉だった人が惨めに敗れ去る。

2010-09-30 21:23:07
烏賀陽 弘道 @hirougaya

21)そうしたおそろしくねじれきった現実を「こういう矛盾したものがリアリティ=現実なのだ」と得心するには時間がかかる。若者はそのうちにオッサン、おばはんになります。

2010-09-30 21:23:32
烏賀陽 弘道 @hirougaya

22)だからぼくは二元論的な言説を唱える人間を信用しません。二項対立を設定する人間を本能的に警戒します。もちろん、そういう態度でいると今の日本に流れる言説の大半は聞くに値しないものになってしまいますが(笑)。

2010-09-30 21:25:36
烏賀陽 弘道 @hirougaya

23)ですから、マスメディアの前悪コロコロ転換報道=村木局長逮捕のときは「高級官僚の犯罪」とか叫んでいたのに、いまは検察批判のジャンヌダルクに村木さんを使ってますね=を批判する人の多くが「前悪二元論」を無意識に唱えているのを見ると、げんなりするのです。

2010-09-30 21:27:15
烏賀陽 弘道 @hirougaya

24)だって、彼らは同じ思考形態の兄弟なんだから。

2010-09-30 21:27:38