【二次創作な】「ネイキッド・エンペラー」前編

ニンジャスレイヤー(@njslyr)の二次創作小説です。
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欺瞞動画の会社 @naclaqns

ブン、ズゥ、ブンブン、ズゥ。ブン、ズゥ、ブンブン、ズゥ。響くドラムンベースは予兆。薄汚い楽屋を後に暗い廊下を歩むその男、彼が立つべきステージを熱するマグマ。昼はネズミ、夜は帝王。男はダークグレーの背広をオジギ姿勢のチンピラヤクザに投げる。夜毎限りのイニシエイション。 1

2013-08-21 18:35:54
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代わりに受け取るのは銀刺繍の入った白衣である。スラックスはラメ入りのピンク、金縁サイバーサングラスが絶対的知性を演出する。ステージは目の前だ。廊下の奥できらびやかな蛍光色に彩られ、王座の主を出迎える。BGMに焦燥的なギターが加わる。 2

2013-08-21 18:42:59
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これはマルノウチ抗争以前、ニンジャスレイヤーが未だフジキド・ケンジであった世界の物語。だが紡がれるインガオホーは既に始まっている。起点は何処か探るもバカバカしいほどのケイオスの中、サーガは確かに胎動している。錯綜する無数の足跡の中からそれを見つけよう。薄れ消え行くそれを。 3

2013-08-21 18:47:38
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「チャンピオーン!アッラーイヴ!」アナウンスが客席を沸かせる。ヤキトリ・バーの炭火よりなお熱く暗い歓声。オイランバニーが道を開けるや、彼は白衣を翻しステージへと飛び込んだ!視界が熱狂とネオン光に埋まる!男が両手を広げる!「アワ、エンペラー!ヒズ、ネーム、イズ!」アナウンス! 4

2013-08-21 18:56:28
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NINJASLAYER二次創作短編集「ブートレグズ・オブ・ニンジャテイルズ」より:「ネイキッド・エンペラー」

2013-08-21 18:59:02
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ドジャーン!ドラが鳴る!紙吹雪が舞う!観客が雄叫びを上げる!男はステージに用意されたマイクスタンドを掴みポエトリーを叩き付ける!「”ヤキトリ・バーの/炭火を起こすのは/オーディエンス”」サイバーサングラスの音声認識が彼の放つコトダマを即時にテキスト変換、背後の巨大モニタに表示!6

2013-08-21 19:08:16
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「ポエット!」「ポエット!」観客は我先に賞賛の声を上げる!ドクター・ハイクと呼ばれたこの男のハイクは実際難解であり、それを理解できるのは取りも直さずインテリジェンスの証!賞賛すなわち己の知性のアピールである!しかし実際ドクターの意を正しく汲めた者は何名居ようか?欺瞞!衒学! 7

2013-08-21 19:13:51
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「…そして私は/スナギモ」ドクター・ハイクは自らのハイクを更に拡張!少なくとも彼のセンス・知識・機微は紛れもなく本物であった!理解できなくとも心は動く、感受性の高い観客はワンツーパンチめいたその重厚な文学性に小失禁!最も鈍い者でも本能レベルの言葉にならぬ感銘を受け目を見開く! 8

2013-08-21 19:19:54
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ハイク・コロシアム!旧態然たる伝統ハイク界に絶望した若きハイク剣闘士達は夜ごとこのスタジアムに集まり、各々の鮮烈なる詩作を激突させる!彼、ドクター・ハイクこそはその頂点、すなわちエンペラー!臣民たる観客の喝采を浴び、他では決して得られぬ陶酔を盃一杯に飲み干す! 9

2013-08-21 19:26:29
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「ワーアアアー!」「ワーアアアアー!」「ヒアカムズ、ニュウチャレンジャー!マッスル・イッサ!」そして今宵も帝位を狙う不届き者が一人!皮のマワシを締めたスモトリ崩れ!小林一茶…かのマツオ・バショーを屠りエドハイク協会を手中に収めた悪の俳人、不遜にもその名を負うこの男の実力は!?10

2013-08-21 19:32:36
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「ウオーッ!」マッスル・イッサが花道をダッシュし一気にステージへジャンプ!ドクターのマイクを奪う!「”この筋肉は/ブッダがくれた/ドッソイ”」まずはアイサツ代わりの自己紹介ハイク!自らの力強さを簡潔に表現するマッシヴかつソリッドな一句!「オオオオー…」オーディエンスが湧く! 11

2013-08-21 19:38:56
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しかしドクターは怯まない。オイランバニーから新たなマイクを受け取るや軽く咳払い、間髪入れず反撃を繰り出す!「…”オミヤサンに紛れ込む/ケモノのサダメ/インガオホー”」不敵!相手をステージに登る価値すら無しと斬って捨てた!譲らぬ両者、緒戦はほぼ互角…に見えるがさにあらず! 12

2013-08-21 19:44:36
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見よ!マッスル・イッサの顔が若干紅潮している、ドクターのハイクはポエトリーの誇示と同時に敵を挑発するための物だったのだ!冷静さを失ったイッサは、「”細い腕で威張るのは/とても情けない/インガオホー”!」思わずドクターをdisし返す!しかしそこに奥ゆかしさとポエトリーは無い! 13

2013-08-21 19:53:09
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「BOOO!BOOO!」すかさず飛ばされるブーイング!イッサ狼狽!形勢不利!機を見たドクターがサイバーサングラスの奥で酷薄に笑い、「…”平安時代の/シシオドシは細い/カワイイ”」ヒッサツの一撃!ゴウランガ、相手の主張を完膚無きまでに叩き潰すミヤビな一句だ!「グワーッ!?」 14

2013-08-21 19:59:25
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イッサは余りの衝撃的詩情に吹き飛びステージから転落!ドクターがそれを追う!スワ、トドメを加えようというのか!?それは余りに残虐!しかし…!「良い試合でしたね。最初のハイクはとてもではないが私では捻れないでしょう。相手の出方に合わせるのではなく、自らの信ずるハイクを詠むのです」15

2013-08-21 20:06:38
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意外!ドクターは敗者たるイッサに暖かな言葉を掛け、そして手を差し伸べる!イッサは平伏しその手を握る!新たな臣民の誕生である!「ドクター!」「ドクター!」「ドクター!」「ドクター!」「ドクター!」大喝采!スポットライト!紙吹雪!ドラムンベース!ブンブン・ズゥ! 16

2013-08-21 20:12:43
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違法残業を隠蔽するため、深夜の社屋は照明を落とされるのが常だ。暗いオフィスに残るのは二人のサラリマン、ヤマダ・ヨリトモ副係長とその部下フジキド・ケンジ。ヤマダ副係長はフジキドから複雑怪奇かつ極めて不合理様式のクレーム処理報告書を受け取り、そのチェックをしている。 17

2013-08-21 20:20:55
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「ヨシ!しかし君も律儀だ。他人の尻拭いの報告書など適当にデッチ上げてしまえばよいものを」「いえ、内規ですから。私などのために遅くまで残っていただき、申し訳ありませんでした」「いいんだいいんだ、どうせ家に帰ったところで家族に疎まれるだけだ。むしろ社に居た方が気が楽だ…」 18

2013-08-21 20:27:44
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ヤマダ副係長は三枚綴りの報告書を電動ホチキスで綴じ、四角メガネの奥の視線をフジキドに向けた。「…ところで、フジキド=サン。例の話、考えてくれたかね?」「アッハイ…せっかく推挙していただきましたが…」「ハイク・コンだぞ?悪い話ではないと思うがなあ」「しかし…」 19

2013-08-21 20:36:41
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さて、ここでこの「ハイク・コン」なるイベントについて説明せねばなるまい。まず前提として…言うまでもないことだが、日本企業においてハイクは上級職を目指すための必須スキルである。理知とセンスを併せ持つ事の証明であり、ハイ・ソサエティ階級のコミュニケーションプロトコルでもある。 20

2013-08-21 20:41:50
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スポーツに例えるならば…読者諸氏の知るゴルフに近いだろうか。そしてゴルフと同様、ハイクにも企業対抗のコンペティションがある。ハイク・コンはネオサイタマ最大級のハイク会だ。カチグミから中小まで様々な企業のサラリマンたちが集い、そのワザマエを競い合うと共に親交を深める。 20

2013-08-21 20:47:15
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ヤマダ副係長は部下であるフジキドを一段上の役職に押し上げるため、彼を社の若手代表としてこの大会に参加させようとしていた。しかし、その返事はどうも芳しくない。「君は実際奥ゆかしいねえ。しかしな、君とて野心はあるだろう。昇進するにはハイクの実績が必須だ。知っての通りね…」 21

2013-08-21 20:53:14