映画『風立ちぬ』における罪と罰、そして赦し

宇宙忍者ケマケマくん @space_kemachan

風立ちぬ二回目見てきた。色々わかった。曖昧であるかに見えたラストも一本に繋がった。もうちっと考えたら連続投稿するかも。

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結論から言うと、風立ちぬは二郎の罪とそれに対する罰、そして赦しの物語であった。いかなる罪か。あまりに非政治的、あまりに非倫理的、そしてあまりに「エゴイスト」かつ「薄情者」であったという罪である。

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二郎はただ美しいものを作りたいだけで、戦争という状況をそれに利用していたに過ぎない、という主張で彼を免罪するのは無理がある。それはむしろ本庄やカプローニの立場。彼らがそのように述べた時、二郎は沈黙していた。

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二郎は明らかに、幼い頃から戦争に魅せられていた。それは初めの夢や、震災の際にイタリアの三色旗を纏った戦闘機を空に幻視している描写等から読み取れる。

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つまり彼の抱えていた矛盾とは、反戦思想を持っているにもかかわらず兵器好きであるという類のそれではなくむしろ、戦争好きであるにもかかわらず戦争の役に立たない「美しい」飛行機を作ろうとしていたという点にある。

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また彼は戦争好きであるにもかかわらず政治には無頓着であった。二度も本庄に「どこと戦争するんだろう」などと聞いている。

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そのような彼の非政治性を暗に告発するのがもちろんカストルプである。彼は直近の世界情勢をいちいち挙げたあと、「みんな忘れる」と言い、そして後にも出てくる「破裂」という言葉を口にする。（初見では「破滅」とも聞こえたがやはり「破裂」と言っている）

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カストルプはカプローニに次ぐ第二のメフィストフェレスであり、同時に二郎のドッペルゲンガーでもある。すなわち二郎が抑圧している政治性をその身に纏い、戦争を否定する（「止めなければ」と彼は言う）。彼が散歩中に偶然飛んできた二郎の紙飛行機を握り潰す描写もそれを示唆している。

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メフィストフェレスであり、同時にドッペルゲンガーでもあるとは、内なる神託を授ける声としてのダイモーン（プラトン）から思いつきました。

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彼が非倫理的であるという点に関しては説明要らんよね…？さんざんツイッターでも批難されてるし。でもその批難でもって映画そのものまで批判するのはあまりに浅すぎますよ。

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二郎はラストで相応の罰を受けている。すなわち彼の「薄情」さ故に妻は早死にし、国も滅ぶ。そして自分の設計した「美しい」飛行機の瓦礫の間をぬって、ようやくカプローニの下に辿り着く。

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二郎とカプローニの対比は明確。すなわちカプローニの妻は健在で、子沢山。自らの家族に加えて関係者の家族全てを自らの引退飛行に招待している。対して二郎には誰も残っていないだけでなく、「一機も帰ってこなかった」。戦闘機としての機能性より"美しさ"を優先したことの報いである。

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ここまでが二郎の罪と罰。それに対して「生きて」と赦しを与えるのが菜穂子（飛んで消えていく描写から読み取れるように彼の"美しい"飛行機と一体でもある）。赦されたからこそ二郎は「ありがとう、ありがとう」と言う。そして「いいワインがあるんだ」と慰めを与えるのがメフィストたるカプローニ。

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あとは細かい説明になるけど、カストルプの言う「破裂」はやはり単なる抽象的なカタストロフではなく、技術者の二郎にも響く具象的な言葉を使ったということなんでしょうな。

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あとねえ、個人的にはカプローニに未来派を読み取るのはちょっと違う気がしますねえ。先にも言ったように彼はセリフの中で明白に戦争を否定してるし。むしろあの引退飛行のシーンからはやはりフェリーニ「81/2」的な極楽感を連想しますねえ。

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あと二郎の人となりですけどね…アレは相当に女好きですよ（笑）。最初はむしろ菜穂子よりおキヌさんのことが気になっているかのような描写があるし（学校を急いで飛び出すシーンとか）、初めて三菱の職場に来た時も廊下の女子社員にいちいち視線送ってるし。

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あとはそうねえ…前半で歩く二郎のバックに大量のカモメが飛んでいるという画があるんだけど、二郎の"夢の"飛行機はそのカモメのフォルムそっくりなんよね。そういうところ、無駄がなくて凄いね。

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僕の先の読みに同意した上で、最後に赦しを与えるのはヌルいなんて言いだす人もいたりするのかな…そういう人は罪人はみんな死刑にすべきだとか思ったりしてるんだろうか。

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あと気になったのは、二郎が会社の仲間と勉強会をするシーン。多くの人は上着を脱いでて白シャツ姿なんだけど、それでも何人かは暗い色のジャケットやベストを着ている。それなのに一瞬、画面上の人が皆白シャツ姿になるところがある。この人たちみんな死んだんだろうね…。

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まあこれは前にも言ったけど、トーマスマンだのゾルゲだの未来派だの、そして堀辰雄だの堀越二郎だの、元ネタを指摘することに汲々とし過ぎると、図式的な分類に堕してあの映画固有の物語を見失う気がしますね。

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なんというか、これまでの評だと、二郎への罰と赦しを見落としてる人が多い気がするな…このまえたまたまラジオで聴いた某ラッパーもそんな節があった。

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ラスト付近の二郎のセリフ「地獄かと思いましたよ」、これは相当重いと思うんだけどなあ…

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やっぱり二郎への"罰"の描き方があまりに抽象的で無駄がないから、スッポリ見落として、二郎は酷い奴だとかいう頓珍漢な批判をし続ける人が後を絶たないんだろな…僕も初見では気づけなかったから人のこと言えんけど。でも一旦気づいてしまえばあれ以上に具体的に描くのは野暮だと思えるようになる。

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あと何だかんだで、主人公が悪人であるという物語に慣れていないという人も多そう。

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あと、あの映画は宮崎駿が、もう分かる人にだけ分かればよい、批判は気にしない、という良くも悪くも尊大な態度の下に作ったものだ、という評も幅を効かせているようだけど、それも罪と罰と赦し、という三段構えを読み取る僕の解釈からすると、間違い。それなら罰は描かない。