#着任できてない提督

いまだに着任できないとある提督の日常(ロケ地:フィリピン)
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CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「どの機もいっぱい? おいおいこんなところで足止めかよ」真夏の太陽がじりじりと滑走路を焦がしている。私は旅行鞄を地面に下ろすとハンカチで額の汗を拭った。轟音に後ろを振り向くと先発の零式輸送機が士官を乗せて離陸していくところだった。ラバウルまでは遠い。 #着任できてない提督

2013-08-23 21:49:00
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

航空隊を志願したが適正のなかった私は最前線、ラバウルに艦隊指揮官として着任することになった。同期や先輩たちはすでに各地に着任し、指揮をとっている。貨物機に便乗して中継地のマニラにたどり着いたはいいが、盛大に足止めを食らってしまった。 #着任できてない提督

2013-08-23 21:59:50
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

盛大な警笛が空を揺るがす。主砲に埋もれそうな船体には見覚えがあった。超弩級艦「伊勢」と「日向」た。彼女たちは軽巡と駆逐艦を引き連れて出撃していくところだった。ラバウルではまず駆逐艦を指揮すると言われている。彼女たちを指揮できるのはもっと先だろう。 #着任できてない提督

2013-08-23 22:08:42
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「仕方ない、飯でも食うか……」出撃していく艦隊に背を向け、私は建物のある方へと足を向けた。数日もすればラバウルに着けるだろう。それまではここで飛行機でも眺めていよう。いつか航空母艦を指揮するときになった時になにかの役に立つだろう。 #着任できてない提督

2013-08-23 22:13:35
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「やっと今日の便が来たか」中継地マニラに零式輸送機の大編隊が続々と降り立つ。「搭乗順はくじ引きです、押さないでください」ドアが開くやいなや、ラバウルへ向かう将校たちが一斉に輸送機に群がった。私もくじを一本引き、手近な木陰に腰を下ろすと発表の瞬間を待った。 #着任できてない提督

2013-08-24 16:59:57
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「イ組の中からは以上です」「ちっ、またか」「おいおいこれで一週間だぞ」最初の編隊に搭乗できるものの番号が発表され、抽選から漏れた将校たちがヤケ気味に散っていく。私がポケットにねじ込んだくじにはホ-302と書かれていた。この調子ではいつ呼ばれるのかも分からない #着任できてない提督

2013-08-24 17:15:24
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「結局、ハズレか」結局私を含めてロ組は呼ばれることすら無く『今日乗せられるのはここまでだ』と飛行場から追い出されてしまった。西日に照らされながら軽空母「鳳翔」が駆逐艦に護衛されながらゆっくりと東へ向かうのが見えた。彼女たちの指揮はいつになったらできるのだろう #着任できてない提督

2013-08-24 17:35:18
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

気がつくと私は零式艦上戦闘機の操縦桿を握っていた。周囲を見回すと、四隻の空母が美しい陣形で大海原を進むさまが眼下に見えた。ふと、視界の端に何かが光るのを見た。目を凝らすと、それが味方機でないことがすぐに分かった。――まずい、早く味方に知らせなければ。 #着任できてない提督

2013-08-25 23:34:46
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「こちら三番隊、敵機見ゆ。方位二四〇。高度六〇〇〇」応答はない。ただ無線からは空電の音が聞こえるだけだ。そうこうしている間にも敵機は味方艦隊へ向かっている。――止めなければ! スロットル最大、急上昇で敵編隊の真下から突き上げる。翼の二〇ミリ機銃が吠えた。 #着任できてない提督

2013-08-25 23:37:54
めがねねこP @FakeFalcon

CKさんの #着任できてない提督 って最後は空母が被弾炎上して「守れなかった……俺は誰も……」とか無力感にさいなまれている時に「…く、……いとく……起きて下さい、提督」と加賀さんに起こされそうな感じ #ネタつぶし良くない

2013-08-25 23:39:22
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

次の瞬間、敵の艦爆の翼がへし折れ、クルクルと回り始めた。敵編隊とすれ違い、後ろ上方から操縦席を狙う。また一機、操縦手を撃ち抜かれた敵艦爆がぐらりと傾いた。だが数が多すぎる。先導機らしき機体は旋回銃でこちらを威嚇しながら降下を始めた。――まずい! #着任できてない提督

2013-08-25 23:40:47
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

敵機の翼越しに味方空母の甲板に「カ」と書かれているのが見えた。加賀だ。彼女は雲のせいかまだこの敵編隊に気づいていない。「うおおおおおお!」私は迷うこと無く操縦桿を押し、機を急降下させたて敵機を照準の中央に捉え、引き金を引く。反応はない。――弾切れ! #着任できてない提督

2013-08-25 23:44:21
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「させるか!」まだチャンスは有る。絶対にやらせるものか。私は敵機の腹に機体を潜り込ませた。敵の青白い塗装、機体表面のリベットの数も数えられそうな距離だ。――これなら外さない。操縦桿を引き、私の零戦は敵機に突っ込んだ。衝撃とともに周りは真っ暗になった。 #着任できてない提督

2013-08-25 23:47:37
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

気づくと私は地面の上に伸びていた。頭上でブラブラとヤシの幹に繋がれたハンモックが揺れている。「夢……か」どうやら昼寝中にハンモックから転落してしまったようだ。夢でよかった。さて、今日の出発便は――もう出発した後か。いつになったらラバウルに到着できるのだろう。 #着任できてない提督

2013-08-25 23:51:40
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「さて、三度目の正直か」くじ引き待ちの人混みから離れ、私は「ハ-43」と書かれたくじを見つめる。あと一時間ほどですべてが決まる。ここマニラでラバウル行きを待つ将校は増える一方だ。どうやら行くのはいいが、帰りに輸送機が落とされることがが後を絶たないらしい。 #着任できてない提督

2013-08-27 17:13:16
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「え…?」私はもう一度自分の手にしたくじと発表された「当たり」の番号を見比べる。「ロ-46、ロ-46のものは居るか?」『ロ-46』私の右手に握られているくじにはそう書かれている。「ここだ! ここにいる!」「よし、ロの組はあんたで最後だ! 早く乗ってくれ!」 #着任できてない提督

2013-08-28 17:07:01
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「ようやくか……」西日に照らされた滑走路上には新任の将校を運ぶべく零式輸送機が列をなして待機している。「早く乗れ、後がつかえてるんだ」「あぁ、すまない」最後にマニラの夕日を瞼の裏に焼き付け、私は輸送機の中に入った。中はすでにラバウル行きの将校で満員だ。 #着任できてない提督

2013-08-28 17:12:55
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

私が席についてベルトを締めるやいなや二つの金星エンジンが唸りを上げ、輸送機はがたがたと上下に揺れながら加速していく。不意に振動がなくなり、尻を突き上げられるような感覚に襲われる。私を始め20人の新米将校を乗せた輸送機はラバウルへと進路をとった。 #着任できてない提督

2013-08-28 17:17:20
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

着任できてしまったのでこのシリーズは終わりです。 #着任できてない提督

2013-08-28 17:17:36