我輩は左手である

左手さんのドキドキプチ冒険
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える(お花見オフ会中止) @elliselne

我輩は左手である。手首から上20センチほどを残して、他はない。肘もない。肩もない。心臓もないから美女を見てもドキドキして仕事が手につかない、なんてこともない。しかし左手として独立しているので動けはするが、どうして我輩が左手として生きているのかとんと検討もつかぬ。 #twnovel

2013-08-26 18:41:52
える(お花見オフ会中止) @elliselne

我輩は我輩らしくあるために、まず仕事を得た。小学校の和式トイレの中で、手を赤や青に塗り、餓鬼共を脅かすという仕事である。いつしか青い手を見ると溺死で、赤い手を見ると出血死するという我輩にまつわる恐ろしい噂が広まっていた。愉快である。 #twnovel

2013-08-26 18:46:29
える(お花見オフ会中止) @elliselne

餓鬼共を脅かす仕事に全力を注ぐ我輩の姿に、我輩の同僚(俗には言う、人ならざる者である)は泣いて喜んだ。我輩達の心が一体となり、小学校を阿鼻叫喚へと導いたのである。しかしその恐怖政治も長くは続かぬ。人ならざる者たちが一人減り二人減り、最後には我輩だけになっていた。 #twnovel

2013-08-26 18:49:50
える(お花見オフ会中止) @elliselne

そうして仕事を失った我輩は、いつしかゴミ収集所のゴミと化していた。しかしこのままここに居ては誰かに見つかり、バラバラ殺人事件の遺体かと間違われ、ワイドショーを賑わすことになってしまう。我輩ピンチであった。そんな時である。我輩を拾う一人の少年がいた。ヒロシである。 #twnovel

2013-08-26 18:52:49
える(お花見オフ会中止) @elliselne

ヒロシは面白そうな物があると何でも拾ってきては母を怒らせるそこら辺の餓鬼と同じ餓鬼であった。我輩を拾ったヒロシはまず自宅へと帰り事もあろうか我輩を水槽の中へとぶちこんだのである。もがく我輩を見てゲラゲラ笑うヒロシ。この餓鬼は悪魔であった。 #twnovel

2013-08-26 18:55:55
える(お花見オフ会中止) @elliselne

そうしてヒロシの家に居候(断じて飼われているわけではない、断じて!)することになった我輩、早速ヒロシと意志疎通をはかろうと、筆を持ち文をしたためた。しかしここで問題発生。我輩、右利きであった。左手の身ではまともに文字が書けぬ。 #twnovel

2013-08-26 18:58:42
える(お花見オフ会中止) @elliselne

我輩にも身体なるものがあったのだろう、その時に左利きの練習をしておけばよかったのだと亡き身体に愚痴をいれつつ、書きあげた文字は「おっぱい」と「美女」であった。この二つがあれば文句は言うまい、居候してやろうではないか。そう伝えたかったのだが、しかし。 #twnovel

2013-08-26 19:01:54
える(お花見オフ会中止) @elliselne

ヒロシには伝わらなかったようで、下手くそな我輩の字をゲラゲラと笑うだけであった。こうして、ヒロシ宅での初夜は幕を閉じたのである。そうして次の日。机の上に放置され、仕方なく快適なクッションの上へと指を駆使して移動する我輩を見て気絶する母上があったそうな。 #twnovel

2013-08-26 19:04:52
える(お花見オフ会中止) @elliselne

さて。ヒロシには年上の兄と慕う男がいるようであった。この日も、ヒロシは我輩をリュックサックに詰めてその男の元へと向かう。男の名は、アキラというようだった。このアキラ、中々の美丈夫であり、心意気も良しとあらば我輩が嫉妬してしまうほど良い男であった。 #twnovel

2013-08-26 19:07:54
える(お花見オフ会中止) @elliselne

アキラは我輩を見ても叫ばず、我輩が意思を持つ者であると素早く見抜き、紙とペンを用意してきた。しかし我輩の字が下手と見るや、こっくりさんの様なあいうえお表を用意したのである。出来る男はモテる。我輩、アキラにメロメロになってしま…いかんいかん。 #twnovel

2013-08-26 19:10:37
える(お花見オフ会中止) @elliselne

そうして、アキラに、我輩の今までの経緯と、これから亡き身体がいまどこでどうしているのかを知りたいと伝えると、アキラは二つ返事で請け負った。こうして、ヒロシとアキラ、そして我輩の、最強コンビと一本ができたのであった。 #twnovel

2013-08-26 19:12:48
える(お花見オフ会中止) @elliselne

亡き者と思っていた身体はすぐに見つかった。御臨終していたのである。身体の家族は、行方知れずとなっていた左手を身体につけてから葬儀をあげたい、五体満足であの世へ送ってやりたいと、身体をそのままにしていたのだ。こうして我輩感動の対面となった。 #twnovel

2013-08-26 19:15:03
える(お花見オフ会中止) @elliselne

冷たく横たわる身体を見て、我輩が身体の一部であったときの記憶が甦ってくる。それは、ありふれた左手の一生であった。身体が事故で無くなったとき、左手たる我輩はそのことに気づかずひょいっと散歩に出かけてしまったのだ。しかしそこは左手、脳ミソはないから記憶がない。 #twnovel

2013-08-26 19:17:35
える(お花見オフ会中止) @elliselne

矛盾しているのは御愛敬。御都合主義万歳!ともかく我輩、身体の家族には悪いが、仲間もできたことだし、左手としての人生を謳歌したい旨を伝えると、身体の家族は仕方なさそうに、これも身体の一部、意志があるならそれもいい、と快諾してくれたのである。 #twnovel

2013-08-26 19:19:54
える(お花見オフ会中止) @elliselne

こうして、我輩の身の上話は幕を閉じ、どうして我輩が我輩であったのかが皆の知ることとなったのである。ちゃんちゃん。御都合主義万歳!御都合主義万歳!我輩は左手である!今までも、これからも、それは変わらぬ! #twnovel

2013-08-26 19:22:55
える(お花見オフ会中止) @elliselne

我輩は左手である、小説としてえるのノートにちゃんと書いてあるので一度是非読んでみてください。

2013-08-26 19:26:23